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8/12

6巻:梅雨に謀る人形師

当巻話も色々フィクションです。


でも、観覧時の状況によっては気分を害される場合が御座います。お昼時、おユウゲどきの御観覧などには、ご注意くださいませ。


アリスのターンだ!


 

 

「早苗ぇ〜〜」

 

 

 梅雨入りを迎え、月の区切りも飛び越して間もない妖怪の山。

 

 

‐守矢の境内‐

 

「早苗ぇ〜、何処ぉ?」 

 

 比較的涼しくなる山の高所にあって、この神社も湿度の濃ゆい蒸し暑い日となっている。

 

 タッ タッ タッ

 

そんな嫌気がさす不快な境内を、水を得た…いや、水気を得た蛙みたいな活発さで跳び駆けている神様が、

 

 

「さッ・なッ・えぇぇ〜〜〜〜いッ♪」

 

 

ッス ダーーーーン!

「諏訪子うるさぁい!」

 

 守矢の神社の襖の先の表の祭神、八坂 神奈子のお怒りに触れていた。

 

 

「だって、こんなに日柄も良さげな遊日和(アソビヨリ)なのに、早苗が全然来てくれないんだよぉ?」

「麓の巫女じゃあるまいし、どしたんだろーって思うじゃ〜ん。神ぁ〜奈子ぉ〜〜♪」

 

「‥‥外にいた時から、そうだったけど。この時期になると俄然ウザくなるのは、相変わらずね」

 

「まぁ、そんな事より早苗知らない?」

 

「早苗なら、遠隔操作な人形にお呼ばれ受けて、出掛けているわよ」

「何て言ったかしら? 魔法の森の魔法使い」

 

「魔理沙?」

 

「人間でない方よ。人形遣いの…マリスだっけ?」

 

「多分混ざってるよ、その名前」

「まぁ 誰の事だかは分かった」

「でも珍しいね? 早苗が遊びに出掛けるなんて」

 

「最初は断るつもりだったらしいんだけどね?」

「折角お呼ばれされたんだから、たまには友人の幅を広げに出掛けても罰は当たらないわ。って私が遊びに行かせたのよ」

 

「神様の御墨付きだ♪」

「じゃ、そろそろ暗くなるし、私が迎えに行ってくるよぉ〜」

「もし入れ違いになったら、社にでも呼びかけてくんない?」

 

「あなた、一応土着神なんだけど‥‥場所わかるの?」

 

「魔法の森あたりなら、最近行ったばかりだから大丈夫だよぉ♪」

 

「いつの間に‥‥」

「じゃ、お願いするわ」

 

「おまかせぇ〜〜♪」

 

 

 ‥‥と、こんな陽気さで守矢の神社を飛び出した土着神様であったが。

その人形遣いの家の異様な光景に、多湿度の陽気など吹き飛んでいた。

 

「こ…これは何事」

 

 森の一軒家にびっしり取り付く人形の壁。

特に出入りする扉にあたる箇所に集中された人形バリケード。

 

侵入者を拒むと言うより、脱出者を出さない為に抑えつけられているらしく、内側に向けてギュウギュウに密集されている。

 

 ならば、何とか破れるかもしれない。

 

 こんなのに限って、外側からの攻撃には案外脆いものである。

 

 

でも…ヘタに派手なスペルを展開すると、中の早苗まで危ないかもだし。

 

かと言って、半端な弾幕は外側にも警戒される切っ掛けを与えてしまう…

 

 となれば‥‥

誰も見ていないし、早苗にも神奈子にも見せていない、あのスペルか‥‥

 

 徐に長く距離を取り。頭上へと片手を伸ばそうとした瞬間! 突然の第六感が、電撃の如く神様を貫通せしめたッ!

 

「はうッッ!!」

「わたし、シンパシィィィィィーー!!」

「早苗がッ!早苗が呼んでるッ!」

 

私の早苗がッ、今 私をッ!

呼・ん・で・い・るぅぅうゥぅぅーーー!!

 

 

 諏訪子様の目と、

帽子の目に爆発的な神力が閃く!

 

ッ ッ ダンッ!

帽子に片手を添えたまま、片足で脅威的跳躍!

長い滞空! その中空にて、体が円盤投げをする為に反転し、目標物に背中を向ける体勢で着地。

その瞬間の重力的、螺旋的衝撃力の全てが‥‥ 童女の姿をした神様の、帽子の添え手 一点に凝縮された!

 

 

"ケロ符「帽子の中に、誰もいませんよ?」"

 

 

「リグだルァぁぁぁぁーーー!!!」

 

ぶぅウーーンッッ!

 

 

(窓)バリーーィン!

 

「よっしゃ!今助けるよぉ、早苗ぇえぇ!」

 

窓ガラスへの先遣襲撃を果たした神様は、人形犇めく扉に向かい全力疾走を開始した‥‥



 

 

 

 

 

   ・

   ・

   ・

   ・

   ・

 ゆっくりと…扉が開かれ、恐る恐る中の様子を伺う様に入室する。

 

「ご ごめん下さい」

 

 可愛らしい西洋風の人形に案内されるままに、魔法の森の一軒家までやってきた風祝りの現人神、東風谷(こちや)早苗。

 

「おっ、やっと来たぜ」

「これで巫女2人揃って巫っ女巫女だな♪」

 

 初めて入るアリスさんの家。

 その緊張感を和らげてくれそうな、魔理沙さんの親しげな声が迎えてくれる。

 まぁ 正確には、私は巫女ではないんだけど…

 

「馬鹿な事言ってないで、席詰めなさいよ魔理沙。この家 狭いんだから」

「あと早苗は巫女とは言えないから、巫っ女巫女じゃない」

 

 さり気なく聞き流せない事を言い出す、麓の巫女。

 

「それだと、何か悪く聞こえるんですけど…」

 

「確かに、巫女とは言えない怠惰な巫女には、言われたくないかもな♪」

 

クックックッ♪と、愉快そうに魔理沙さんが突っ込む。

 

「魔理沙うるさい」

「私のどこが巫女っぽくないのよ?」

「私を見たら百人が百人、間違いなく巫女だと言うわ」

 

「あなたの格好の事じゃなくて、休んでばかりで自堕落な生活態度の事よ?」

 

「早苗うるさい」

 

 霊夢とのやり取りに、また魔理沙さんが笑い出す。

私も少し可笑しくなってしまい、気付けばスッカリ緊張感は無くなっていた。

 

「いつまでも、そんな所に立ってないで。まぁ座れよ」

「もうすぐアリスが珈琲挽いて、豆運んで来るぜ?」

 

 そう。今日は珈琲の飲み会招待状を持った人形が、八坂様の顔に正面からぶつかり。

境内を掃除中ではあったのだけど。「親睦の幅を広げる為にも、今日は遊んで来なさい♪」と、

八坂様に勧められるまま、魔法の森に住む魔法遠隔人形遣い、アリス・マーガトロイドさん宅へと遊びに来たのであった。

 

 

「いらっしゃい、東風谷さん。 招待を受けてくれて嬉しいわ」

「魔理沙、順番が逆よ? 豆を挽いて珈琲を運んできたわ」

「狭っ苦しくて悪かったわね」

 

 4人分の珈琲カップを乗せたトレイを手に持って来たアリスさんが、招待客各々への挨拶と突っ込みと不平を一息に処理しながら、珈琲を置いていく。

 

 

 私の前に珈琲が置かれる。

「いえっ 私の方こそ。誘ってくれて、ありがとう御座います!」

「あの… どうぞ早苗と呼んで下さい」

 

 霊夢の前に珈琲が置かれる。

「中身だけ広げる魔法も、あるらしいわよ?」

 

 最後に魔理沙さんの前に珈琲が置かれた。

「まぁ‥‥ 元は同じ豆なんだから、大した違いはないぜ」

 

 ウケ狙いなのか、本気なのか‥‥


 

 アリスさんも自分のカップを持って席に着く。

 

「‥‥‥」

 

 そういえば、魔理沙さんが頻りにアリスさんを気にしている。

怪訝な表情すら浮かべてアリスさんを見ている。

…様な気がする。

気のせいだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 アリスの住まいでの珈琲会は、時間を忘れた様に進んでいった。

 

「なぁ、そう言えばお前が自分で珈琲運んでくるなんて珍しかったな?」

 

「・・・・」

「そんなに珍しいかったかしら?」

「私だってお客様を持て成す時くらい、自分で働くのよ?」

 

「珍しいぜ」

「私だけ来る時は、いつも人形が運ぶぞ?」

 

「あら、あなた気付いてなかったの?」

「魔理沙が招かれて私の家に来たのは、これが初めてなのよ?」

 

「あれ? そうだっけ」

「いま初めて気づいたぜ」

 

「別に突然来るのは良いけど。たまに窓ガラス突き破ってくるのは、止めてね」

「人形にガラス入ると危ないから」

「"私が"じゃなくて、襲われる"魔理沙が"ね?」

 

「魔理沙さん‥‥」

 

「神社でそんなマネしたら、宴会出禁だからね」

 

 それだけはご勘弁を、と慌てて霊夢に手を合わせたり。そんな冗談混じりの談笑に一息がつくと、徐に霊夢がアリスをジッと見据え。

 

 そして。

 

 

「さてと‥‥じゃ、アリスにはそろそろ、本当の事を話して貰おうかしらね?」

 

「え? 珈琲会じゃ?」

 

「早苗じゃ分からないだろうけど、アリスの家が不自然だらけだよな」

 

「不自然だらけなの?」

 

「おぃおぃ。じゃ霊夢は何でアリスを疑うんだ?」

 

「決まってるじゃない」

「 勘 よ 」

 

 

 アリスが静かに席を立ち‥‥ 招待した三人の来客を全員視界に入れる様に、正面の早苗の方へと顔を向ける。

 

「やっぱり霊夢には敵わないわね」

 

「霊夢だけじゃなくて、私にも敵ってないけどな」

 

「霊夢が勘なら、魔理沙は何だって言うの?」

 

「ふふんっ♪ この家ぐるっと見渡せば、不自然が一目瞭然だぜっ」

 

 ぶんっ、と片手を振り回す様に、空っぽの棚に向けられる。 

 

「お前の部屋に1体も人形‥‥‥ あーーーッ!棚に人形が1個も無いッ!」

 

「何で、今更驚いてんのよ?」

 

「何度見ても驚くもんなんだよ」

 

「何かどっかで聞いた台詞ね‥‥」

 

 アリスの視線が霊夢の方に移ると…早く本題に戻れッ的な表情を浮かべていたので、コホンッと小さく咳払いで誤魔化し、話しの続きに戻る事にする。

 

 

「まぁ、つまりはね」

 

 珈琲を一口含み、気を落ち着けて。

「今日も朝起きて、人形も起こして、何時もの様に‥‥‥

 

 

 

「ふぁあ…、おはよぉ」

「はぃはぃ、みんな〜今日も昨夜の雨でジメッとしてるから窓開けてぇ」

「カビちゃうわよ〜」

 

「あれ、蓬莱?」

「それどうした…の?」

「何か黒っぽい…カビっぽい…大きな…」

 

ト ト ト トッ

「ちょっと見せてッ」

「まさか、カビられたんじゃ‥‥うっ  あ ぁ ぁぁ‥ぁ

 

あ ぁ ぁあ あ ぁ ぁぁ…ぁ ぁ、そ そんな、ま・さ・かッ!」

 

 

 

「嫌ぁぁーーー!!」

 

 弾け飛ぶ程の勢いで扉が開け放たれ、大量の人形が野外へと飛び出す。

さながらダム放水の様な光景であった。

 

 半分パニック状態になりながらも、人形一体一体が間違いなく扉を通り抜ける正確な操作。

 

 そして最後の一体の脱出と同時に、人形達により叩きつける勢いで扉が閉ざされた。

 

 

 

…可哀相に。その子(蓬莱)はショックのあまり、自爆してしまったわ」 

 

「なるほど。それで人形は外で日干しなわけか」

 

「それでね。扉が閉まって、落ち着いてきてから気付いたの」

「まだ、私が家の中に居たままだって事に」

「そしてアレもね」

 

「あれ?」

 

 カシャンッ

 珈琲カップが強めに置かれる音に、魔理沙と霊夢が目を向けると。

早苗が立ち上がり、半歩ほど後ずさっていた。

 

「どうしたの早苗?」

 

「カビ恐怖症か?」

 

「ぁ‥ぁ‥、アリスさん。そんな、アリスさん。嘘…嘘ですよね?」

 

「・・・・・」

「やはり外の現代人は頼りになりそうね」

「色々期待してるわ」

 

「アリス。 一体何だってんだ?」

「人形が無いのは分かったけど、後はさっぱりだぜ」

 

「魔理沙さんッ!多分そう言う事じゃないんです!」

 

「……ぁあッ! アリスッ!あんた、まさか」

 

「そうよ。霊夢」

「つまり…」

 

 ゆっくり酸素を吸い込み、一息に早口で言う。

 

「暗い所や狭い隙間や人の目に付きにくい小陰やジメジメってしたり黴臭げな箇所が大好きで、陰気で根暗で粘着質で何でも食べて目にするだけでも怖気(おぞけ)がするのに、ものッッ凄く速い蠢きで移動する上に空も飛ぶ」

「アレが出 」ガタッ!ダダダダダ ダッ! ダンッ!

 一番遠くに居た魔理沙が真っ先に扉にぶち当たり、ノブに飛び付く!

 

ガヂャンッと体全体を落とす様に下げたその瞬間に、霊夢、早苗が扉に体ごと突進した!!

 

 ッダーーンッッ!

 

「あう゛っ」

「痛あぁぁ!」

 霊夢と早苗が弾かれる。渾身の激突をしても、隙間程にも開かない扉。

残る魔理沙1人が押し続けている扉に、霊夢も早苗もすぐさま飛び付く。

 

ガヂャガヂャガヂャ

ダンダンッダンッ

「開ッかない!」

「アリス!ドア開けろよ、このぉぉぉぉ」

 

 背中で扉を押し開けようと奮闘する魔理沙が、半泣きしながらもアリスに吠えかかる。

 

 

「無駄よ?」

「人形が扉の向こうで、日干ししているから♪」

 

もはや、どんなに力一杯押しても扉は開きそうになかった。

 

「そんな事より、良くそんな所に居られるわね」

「私なら扉とはいえ…絶対に壁際だけには近づきたくないわ」

 

 確かに、これでもかと言う程 壁(扉)に身を押し付けている三人。

アリスの言わんとする意味を察し、押すのを止めて固まる様に止まった時…

 

 気のせいだったのかもしれない。

ただの思い込みによる、軋みの誤認なのかも知れないが。確かに、壁を伝い三人の体に響き渡ってきた気がしたのだ。

 

カリッ… カサ…

 

総毛立つ三人。

ぞぞぞぞぞッ

 

「ひ嫌ぁぁッ!」

弾け飛ぶ様にアリスの元へと駆け戻る。

 

「アリスこのーー!」

パコンッ

「 あぅ!」

 

 駆け戻りざまの霊夢に頭を(ハタ)かれるアリス。

身の回りに人形も居ないので無防備である。

 

 早苗は忙しなく周囲を見張りだしている。

 

 魔理沙はというと、やはり一番早くアリスの足に取りすがっていたのだが、突然に叫びだした!

 

「ああー!ダメダメ!」

「私はこの中に居ちゃ 駄目なんだぁぁ!」

 

 ガタンッと立ちあがると、髪がクシャクシャになりそうな程に頭に手を走らせ。天井向いて騒ぎだす。

 

「ま 魔理沙さん、落ち着いて!」

 

「何か分からないけど、こんな時には私は居ちゃいけない気がするんだよぉぉぉ」

「私だけ、一番酷い目に会う気がするよぉぉ!」

「今すぐ出せアリス〜 私だけ出せアリス〜!」

 

「いたッ 痛い痛い!」

「魔理沙、痛いッ!」

「離してッ!」

 

 激しくアリスに弾き飛ばされる魔理沙を、霊夢が受け止める。

 

「あんた、結局どうしたいの?」

「私達に何をさせたくて、呼び寄せたのよッ」

 

「ちょっと勘違いしているようね。霊夢」

「どうするのかって事ではないのよ?」

「重要なのはね‥‥」

「"私達が"どうにかするって事だと、私は思うの」

 

「アリスさん‥‥」

「それ、道連れに巻き込んだだけじゃないですか」

 

「自機が私だけじゃ成立しないから、主人公2人と、*製品版より一足早く早苗さんも巻きぞ…引き入れてあげたのよ♪」

(* にじファン掲載当時の最新作、星蓮船)

 

 自分勝手な言い分を挙げながら、アリスは三人の手荷物を掛けたりしている所に歩いて行く。

 

「でも見て。あなた達を呼び込んだお陰で、これ程の可能性が出てきたの♪」

 

 クルッと振り返ったアリスの腕には、魔理沙の帽子が抱かれていた。

 

「あっ なるほど♪」

ポンッと手を打ち合点する霊夢。

 

「ななッ成る程じゃないッ!」

 大慌てでアリスに掴みかかりに行く魔理沙。

 

「返せアリス〜!」

ヒョイッ

あっけなく身を躱される。

 

「諦めて魔理沙ッ」

「私達には、もうこれしか残ってないのよ!」

そう叫びながら、霊夢が素早く捕り押さえる。

 

「離せ霊夢〜、裏切り者ぉぉぉ」

 

 羽交い締めみたいな捕らえ方をされながら、大暴れしていた魔理沙がピタッと停止して固まってしまった。

 

「魔理沙?」

 

「で でで…デカいの出たぁぁ!」

 

 魔理沙の指差す先に、一瞬で顔を向ける早苗と霊夢。帽子を抱えたまま後退るアリス。

 

 4人の乙女の眼前の扉に、紛れもないアレの、しかも恐ろしくデカい姿が晒されていた。

 

ススッ カサ スススッ

 

 数センチ区切りにスッ、ススッと移動するアレ。

一区切り毎の その数センチ間の移動が、おぞましく速い蠢きであった。

 

 アレを直に目の当たりにして、アリスも早苗も魔理沙も霊夢も、完全に硬直している。

 

「ほ ほらっアリス!今よ!早くお逝きなさぃ」

 

 ぐぃぐぃアリスの背を押す霊夢。

魔理沙の拘束は解けているが、帽子の危機にも反応出来ない程に固まっている。

 

「こ…こ こ ここで会ったが百年目だわ」

 

 ジリジリと、扉に足先だけ近寄って行くアリス。

 

 早苗も、魔理沙が気の毒ではあったが、正直 異変解決にはこれ以上無いアイテムだと思っていた。

 

 そぉ〜っと帽子を上段に構えて近付くアリス。アレが後一回でも動けば弾け消えてしまいそうな勇気を奮い、間合いに入るまで、もう1メートル‥‥

 

「も もう、これ以上は限界ぃ〜‥‥こ こ ここから一気に飛び込んでやるわッ!」

 

「その意気よ、アリス」

 

「ふぁ ファイトです、アリスさん」

 

「私の帽子がぁ〜〜」

 

 

ゴクッ 最初で最後になるであろう千載一遇のアタックを前に喉を鳴らして。

 

『アリス!行きまーす!』

 

どっかで聞いた事ある掛け声で、アリス出撃!

 

…その、気配の奮起がいけなかったのだろう。

 

ぶぶぶぅぅゥゥーンッ

 

『きゃわぁーー!』

スカッ! アリス 奇跡のグレイズ×1!

 

ブブぶブブブぶぶッ

 

『ぅわはヴッ!』

『ィやぁぁぁ!』

『ッはワッッ!』

 

グレイズ×4!

 

「アリスゥ!!! あんた何で避け‥ 」ガッシィッ!『だって飛んだのよ!だって飛んだのよ!だってトンダノヨッ!!』

 

「わ 分かった!分かったから!」

「早苗!アレは何処?」

 

「あッ あんな所に」

 

 扉から床まで斜めに降下していたアレが、また壁まで移動していた。

 

「もう、帽子は絶対に渡さないからなッ!」

 

 いつの間にか魔理沙が帽子を奪取しており、形が変わりそうな程に抱きしめている。

 

「魔理沙ッ!それを渡しなさい」

「今度また飛んできたら、どうするのよ」

 

「うっさい!人のだと思って! こんな事に使われてたまるかッ」

「そんなにアレをどうにかしたいなら、私が霊夢ので成敗してくれるぜッ」

 

「ぁアッ!いつの間に!」

 

 霊夢の大事な御祓いのアレを持って、壁のアレに特攻をかける魔理沙!

 

 気配にあてられたアレが、再び正面に飛び来る!

 

「うわッ うわわわッ」

 羽根を全開にする、悪夢の様な形態で魔理沙に舞い来る、梅雨の厄!

 

「負けるかぁぁ!」

 

「魔理沙やめてぇぇ」

 

魔理沙、渾身のフルスイング!

「リグだルァぁぁぁぁーーー!!!」

 

ヒュヴんッ!

 

スカッ!

アレのグレイズ×1!

 

 魔理沙は豪快に空振りしたまま半回転し。

 

ぶぶぶッ…

ビタッ(背)「ひッ‥ィ」

(背)カサッ→(腰)カササッ

 

「魔理…!」

 

 フッ(失)・・‥…

バッタァァーンッ!

[魔理沙ファンの皆様、ゴメンナサイ]

 

「ま り さぁーー!!」

 

 魔理沙をピチュらせたアレが三度壁へと待避するのを見届けてから、3人が駆け寄る。

 

「守れなかった…」

「また、魔理沙を守れなかったぁ!」

「いつの事だか分からないけどッッ」

 

 悔恨に震えながら、魔理沙の顔に手を添えようとする霊夢。

スッと顔を通過して、魔理沙の帽子に伸ばされた。

 

「まぁ、ソレはソレでコレはコレ」

 

 帽子を手に立ち上がろうとした霊夢が、帽子に秘められた魔理沙のとんでもない隠し玉に気付いた。

 

「ぁあッ…これは…」

「魔理沙あんた、こんな(ボム)を抱えて堕ちてたなんてぇ!」

 

 魔理沙の帽子の中から、それはもう大量の文々。新聞が出てきた!

 

 全ての新聞に、魔理沙の写真付きの記事が掲載されていた。

 

アリスが新聞を手にする。

 

「魔理沙ぁ〜、こんな悲しい事をしていたなんて」

「そうと知ってれば、もっと構ってあげたのに」

 

 

霊夢も新聞を手にする。

 

「鴉が号外撒いてた時、ワザワザ見せにきたのは、そう言う事だったのね」

 

 なんやかんや付き合いの長いアリスと霊夢が、新聞を手に手に持ち。

 

『こんな紙が有るから、魔理沙が内根暗な子になるの!』

 

 2人して、一気に新聞紙を固めてしまった!

丸くではなく棒状に。

それも割と丁寧に。

 

クルクルクルクルッ

 

「そ それは、魔理沙さんの大事な物じゃ…」

 

「聞いて早苗!」

「古今東西、最良の敵討ちと言えば、討たれた友の武器で果たされるって決まり事なの」

 

「はい!早苗さん」

 

アリスが、友の武器を早苗に託す。

 

「あ‥どうも」

 

「さぁ!霊夢に早苗さん」

「ぃま巫女揃い、魔理沙の魂が宿ったわ!」

「巫っ女巫女にしてやりなさいッ」

 

ビシッとアレを指し奮起の怒号をあげるアリス。

 

『おおーーー!』

呼応する巫女2人。

 

お・前・も・な・ん・か・し・ろッ

 

スパパーーン!

「 ぁうッ」

 

アリスが真っ先に、巫っ女巫女にされた。

 

ぶぶッぶぅゥゥ〜ン

 

 無駄な遣り取りがアレを刺激したのか、家中をむちゃくちゃに飛び回るッ

 

ブゥウ〜〜ン

ブゥッ ぶンッ ぶぅ〜ン

 

 

「ひやンッ」

びゅん スカッ

「ひィっ このッ」

びヒゅん スカッ

 

 半狂乱でむちゃくちゃに新聞紙を振り回すが、全く当たらず、パニックは激しさを増していく。

 アリスは頭を抱えて しゃがんでしまい、震えて動けなくなっている。

 

 

ダンッッ!

「あウぅッ」

 

 ブンブンに振り回しながら右往左往している内に、早苗の新聞紙がすっぽ抜けて、体は扉と向かいの壁に激突してしまった。

 

「早苗ぇッ」

 

「はわッ はわわわッ」

「来ないでぇぇッ」

 

 絶妙な1メートルちょい程度の距離感でビタッと着地したアレが、気まぐれな感覚で早苗に近付いていく。

 

「さ 早苗さん、逃げるのよ!」

 

「このままじゃ、早苗が恐ろしい事にッッ」

 

段々近付いてクル。

 近付いてクル!

 

ササッ カサササッ

「ヒ!ィッ…やさッ‥神奈子さまぁぁぁぁ!」

 

 

…カサッ

「早苗さん!」

「早苗ッ!」

 

「嫌だぁぁぁ!」

(窓)バリーーィン!

 

 その時! 扉側の窓ガラスが、激しい破裂音を鳴らして割れ。何か帽子の様な物が飛び込んできたッ!

 

「あれは諏訪子様のッ」

 

 帽子は、まるで意思があるかの様に早苗とアレの方へと飛翔し…

 

 三人は確かに見たような気がした。

蛙の顔を連想させる様な帽子の中に、ただならぬ気配を発する2ツの閃きを…

 

 守矢神社のどちらの祭神とも異質な気配を発する帽子が、早苗に近付くアレを認めた途端、物理的に非常識な速度でアレに落下!

 

ビッターーンッッ!

っと、もの凄い音を立ててアレに被さったと思ったら

 

 

 ゴッ キュン!

 

ハッキリとした、何かを呑み込む音が帽子から鳴り、完全に沈黙した。

 

 そして、パパパーンと破裂音が扉の奥で鳴り、扉が激しく開け放たれた。

 

「早苗ぇぇぇ!」

「助けに 来・た・ぞぉ」

 

「諏・訪・子・さ・まぁぁぁぁ〜〜!」

 

ガバッと飛びつく早苗。

   ・

   ・

   ・

   ・

   ・

 

「まぁ、早苗が無事で良かったよぉ〜」

 

「そ それは、何よりですわ」

 

 部屋や棚に人形が戻され元通りのアリスの家。

そして、すっかり弾幕を浴びた程度にボロボロのアリス。

 

「自業自得ね、アリス」

 

 未だ昏倒したままの魔理沙を、外に立てかけてあった箒ごとフワフワ浮かせて霊夢が運ぶ。

霊夢は自分以外にも色々な物を浮かせて運べる。

 

「じゃ、帰ろうか早苗♪」

「そろそろ帽子返して?」

 

「ッッ駄目ですっ!」

 

「何でサ〜?」

 

「駄目ったら駄目です」

 

 ブルブル震える手で帽子を持つ早苗。

 アレをごっきゅん♪した帽子は、触れているだけでも気持ち悪くて耐え難い。

 

…が、それ以上に諏訪子様が被る事だけは、絶・対・に許諾できるはずがなかった。

 

「ぁ! アリスさん。外の世界に伝わる、とても大事な格言を御存知ですか?」

 

 魔理沙と霊夢、諏訪子様と早苗が扉から出て。夕日を浴びながら早苗だけが振り返り、屋内のアリスに声をかけた。

 

 

 

「 何かしら?」

 

 

 

「ゴキブリを1匹見たら50匹は"ぃる"と思え」

 

 

『えッ!』

(扉)バターんッ


初掲載当時の梅雨が明けてしまいそうになるギリッギリで滑り込ませた巻物語でした。

我ながら、なんて話を思いつくんだろ。

でも私が一番気に入ってる話だったりします。


家ではGなどでないッッ 出ないのニャッッ

背後にざわざわ感じて振り返ったら悪夢の様な形態など目にしてないし、うああああなあああ!!!!! とか叫びながら奇跡的なグレイズで身を交わせたけど、流れ玉でブラウン管テレビ受像機が被弾した。なんて事とか起こってないし、わりかし実体験談だったりする事なんて全然あり得ない事なのぜッッ




滅 っ さ ら せ ば 良 い の さ !!!!!!

(DEEP三昧)




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