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9巻:聖夜に捧ぐ幺樂と御仏信仰

 

 

「マエリベリー・クリスマ〜ス♪」

 

 

 聖夜の待ち合わせ。

 

喫茶店の温室オープン・カフェテラスのテーブルに、光学クラッカーからホログラフィック・プリズムと人工の破裂音が撃ち出される。

 

光の乱反射による短時間の擬似花火が、浮かれ顔の蓮子と無反応な私の顔を照らし出す。

 

 

「絶対言うと思ったわ」

 

 

「あれ? 読まれてた?」

「メリーには心の見える眼でもあるのかしら」

 

 

 役目を終えたクラッカーの筒口から、優しい音量のオルゴール音楽が流れ始めて、

 

蓮子は昔のマイクロフォンスタンドみたいな、付属の小さいスタンドにクラッカーを入れると、テーブルの隅に卓上BGMを据え置いて、私と向かいの椅子に座る。

 

 なんだか、小っさい大砲みたい・・・

 

「そのオヤジ臭いギャグとバラエティーグッズの為に、私は待たされていたのかしら?」

 

 

「ちょっと21分25秒遅れただけじゃない」

「クラッカー見つけたのが原因ではあるけど」

 

 

「その光学クラッカー、私はあまり好きじゃないのよね」

「紙製クラッカーは無かったの?」

 

 

「紙?」

「紙製って昔の奴?」

「紙の帯と紙の雪を飛ばし散らすってレトロなクラッカーね」

 

 

 店員さんに蓮子の分の珈琲を注文して、「私は紙の奴が好きだな」ってカウンターに戻っていくサンタ服っぽい制服姿を眺めながら呟く。

 

 

「そんなクラッカー、こんな所で使えるわけがないじゃない」

「それに どこで使っても散らかるし」

「後で片付ける事を考えただけで、テンションが下がるわ」



「まぁ、この音楽が鳴る機能は私も好きなんだけどね・・・あれ?」

「この曲って、もしかして物凄く昔の曲?」

 

 

「うふふ♪ 気付いた?」 

 


「うふふ って・・・」

 

 

 運ばれた珈琲をそのままで飲みながら、蓮子は嬉しそうに話す。

 

「古い紙クラッカーは無いけど、変わりにメリー受けしそうな曲を見つけてインストールしてみたの」

「FM音源って言うんだっけ? 音色こそ、オルゴール調に変換されてるけど」

「それはもう、すごい昔のパソコンで流されていた音楽らしいのね?」

「PC‥‥ 9‥8?」

 

 

幺樂ようがく・・・」

 

 

「え?」

 

 

「ううん。何でもない」

 

 

 蓮子の光学クラッカーを聴いている内に。夢で湖に訪れた時に聴かせてもらった、アナログのディスク音楽を思い出した。

 

 赤い洋館のメイドさんに連れられ、館の主様へ挨拶しに行った時だ。

 

今日の今日まで忘れていたけど、クッキーをもらっただけではなく。メイドさんが持ってきた針を落とすタイプのオーディオで聞かせてもらった音楽と、全く同じメロディーだった。

 

 

私を歓迎してくれた翼のある幼い主様は、メイドさんが阿求(あきゅう)と言う人から貰って来た その音楽の事を『幺樂』と呼んでいたのだ。

 

 

 曲名は確か・・・

 

 

「不思議の国のアリス」

 

 

「あれ、曲名まで知ってるくらい好きだった?」

「世界的に有名なあの物語と同じ名前だったから選んだんだけど、大当たりだったみたいね♪」

 

 

 

 

 やがて、内部動力も事切れて赤い館で聴いた幺樂が止まると。

 

 私を呼び出した当人が話を切り出す。

 

「さて、メリー」

「存分に暖まったからサークル活動よ」

 

 

「こんな聖夜に?」

 

 

「聖夜だからこそよ」

「この間ね。今まで何回も通った事のある道だった筈なのにね。まるで湧いて出てきた様に、お寺がある事に気付いたのよ」

 

 

「お寺?」

 

 

「そう、お寺。神社じゃなくて お寺」

「不思議なのよ。何で今まで知らなかったんだろ?」

「もしかしたら、結界が関係しているのかも」

「今まで見えないでいたお寺が、今なら見える様になったって事は。今まで入れなかった結界に、今なら入れる様になっているかも知れないわ」

 

 

「聖夜に、お寺探訪?」

 

 

「メリー」

 

 蓮子は席から立ち上がると、やや斜め下を見ながら答える。

 

「聖夜だからこそ、私達はお寺を探訪するの」

 

 

「・・・・」

 

 

「・・・・」

 

 

 ・・・はっ!

「そうね!蓮子」

「今夜私達は、お寺を探訪しているのね!」

 

 

「そうよ、メリー」

「お賽銭入れて、しっかり拝んで、今宵は信仰心の全霊を以て仏様に帰依するのが きっと結界を見付ける鍵よ」

 

 

 

 

 そうと決まれば早速と。お会計を済ませた2人の女性は、聖夜のお寺へと出掛けて行く。

 

きっと夜が明けるまで、2人の信仰心は御仏に向けられ続けるだろう。

 

 だからクリスマスだとかは、今の2人に全く関係の無い話なのだ。

 

 

 しかし、それでも。

お祝い事として、ぴったり身体に定着している聖夜の言葉は、どんなに誤魔化しても自分に向けられた喜びまでは否定出来ない。

 

 だから、この背中に声を掛け。

 

私はどうしても、この内に溢れる嬉しかった感情をプレゼントしたくなったのだ。

 

 もしかしたら、こんな事を始めた最初の人も‥‥人や文化の数だけ物や形式の変わってしまう様な、形式的な事よりも、添えて伝えられてきた気持ちの方がメインだったのかも知れない。

 

 

「・・・蓮子」

 

 

「ん?」

 

 

 私は、その背中に抱き付きかかって。

「わっ。メリー」

 

 

「メリークリスマス♪」 

 

 

「わぁ〜、メリーのダジャレだぁ♪」

 

 

「ダジャレじゃな〜い」

 

 

「冗談よぉ♪」

「ありがとう。メリー」

「さぁ、急ぎましょう」

「来年は寅が干支だから、寅っぽい何かでも見られれば縁起物ね♪」

「メリーが結界の先で追われた鼠っぽいのも見られるかしら?」

 

 

「・・・蓮子」

「大鼠も寅も、居たらシャレにもならないわ」

 

 

「そぉ? 案外可愛いかも知れないわ?」

 

 

 

 斯くして、2人はお寺を見付ける。

 

確かに、見付けずにいたのが不思議なくらい堂々とした佇まいのお寺であった。

 

 今宵2人は、このお寺から結界のスキマを見付けられるだろうか。

 

それは誰にも分からない。

 

2人は、まず宣言通り。信仰を形式的に捧げてみる所から始める。

 

‐命蓮寺‐

 

 そんな名前の彫られた賽銭箱に、これから2人分の信仰心が音を立ち鳴らすのであった。


聖夜のカフェテラスから始まる、期間限定的 仏教徒達の部活動。

そんなお話。


公式では音楽CDのブックレットで綴られ続けている蓮子とメリーの物語が大好きです。

ですから、なるべく公式エピソードの流れをしっかり取り入れつつ、自分好みにアレンジエピソードを付加させる事を意識してみました。



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