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そんなバレンタイン

作者: 青牙 ゆうひ

 今日は二月十四日、世間で言うバレンタインデーとかいう日である。世の男たちは靴箱に何か入っているかもしれないという淡い期待を胸に学校に登校したりする日なのだが、残念ながら今日は日曜日。モテ男どもは恐らく明日貰えるのだろうが、オレのような毎年靴箱を開けて肩を落としているような男にとっては関係ない話である。反抗期の妹はここ数年オレに十円チョコすらくれないので、恐らく今年も母からのチョコだけとなるのだろう。だろうのだが、現在オレの前にはチョコが氾濫している。

 それはなぜか。

「ちょっと、もっと丁寧に入れてよ。形が崩れるでしょ」

 目の前でエプロンをしているポニーテール少女がオレを睨みつけた。断じてオレの彼女ではないと言っておく。

「形なんてどうでもいいだろ。心が籠ってれば」

「なんかあんたに言われてもいい気がしないわね」

 眉間にしわを寄せながら冷蔵庫のから新しいチョコを取り出してオレの前に置く。

「じゃあこれもよろしく」

 どこから仮面を拾ってきたのか一瞬でにっこり笑顔に変化した。

 ここまでで察しの良い方は気付いていただけただろう。現在オレはチョコのラッピングを手伝わされている。しかも一つや二つではなく大量の。

 先ほど突然呼び出されたと思ったら「今から出来たチョコを袋に詰めていって」である。何とも理不尽。人権損害と言ったら過言であるかもしれない。

 呼び出した本人は製造過程を終了したのか、冷蔵庫から固まったチョコレートを取り出してくるだけである。時々上から何かを振りかけたりとしているが、現在労働しているのはほとんどオレだ。

 ちなみにこの並んだチョコレート、すべて形が違う。星型やら四角やら、先ほど見つけた生四面体は見事だったのを覚えている。

「それにしてもなんで全部ビターなんだ?」

 球形の塊を数個とり、袋に放り込む。

「それは、……ちょっと焦げちゃったのよ」

「焦げるって、焼いた訳でもないのにどうやって焦げるんだ」

 と言いながらコンロの方を見ると大家族が使うような大鍋が置いてあり、茶色いものがこべり付いている。チョコかあれ。今日の晩御飯はカレーかと思った。

「まさかお前、チョコを鍋で直接火にかけたのか?」

「え? だってそうしないと溶けないじゃない」

 馬鹿だ。チョコを溶かす時は湯煎で溶かすだろ。というかオレも先ほど眺めていた『美味しいチョコの作り方!』という本を見て知ったんだが、この本がここに置いてある時点でお前は絶対これを見ているはずだ。

「おまえ、料理する前にちゃんと読めよ」

 オレが写真入りで『湯煎で温めるのがコツ』と書かれたところを指で叩くと、しばらく黙った後顔を朱色に染めて

「だって火を使い始めたら何となく急いじゃうんだもん。そしたらこんな文字なんか見てる時間も無いじゃない。だから作る前に読んだ時の記憶を頼りに作ったのよ」

 ビターチョコもどきが出来た過程を説明していく。となると、他のチョコとかもほとんど記憶を頼りに作ったということだろうか。数が数なのでそれはそれで凄いと思う。

 それにしてもこんなに大量のチョコをどこに持っていくんだ?

「このチョコ誰に渡すんだ?」

「そ、そんなの誰だっていいでしょ。私友達多いから」

 どうやら最近流行りの『友チョコ』なるものらしい。ということはこれ全部友達に渡すのか。彼氏の一人や二人いないもんかね。

「でもどうせバレンタインなんて最初の数年だけ手作りとかで、マンネリ化してきたら一枚百円のチョコとかに変わって行くんだろうな」

「それは私も同感。自分でもこんな事毎年出来るとは思わないわ」

 冷蔵庫から取り出したトリュフチョコにココアパウダーを振りかけながら言う。

「だから一回で将来の分まで渡しとけばいいのよ」

「そりゃまた合理的なだな。途中で別れたらどうするんだ」

「その時はその時よ。そんな数年で別れるような人と私は付き合わないわ。一生私の面倒を見てくれそうで、出来ればお金の稼ぎそうな人に渡すの」

 そして私は家で楽して生活する、などと言っている。どうやら将来の夢は専業主婦という名の二ートになりたいらしい。この女の事が真剣に不安になってきた。

「うっし、完成。とりあえず全部ラッピングしたぜ」

 やっとチョコの袋詰めバイト(自給〇円)が終了した。数えてみると丁度百個ある。

「お疲れ。じゃあちょっと待ってて」

 そう言うと突然大きな紙袋を取り出してラッピングの終了したチョコ群を放り込んでいく。それは別にオレが見てなくてもいいだろう。そう思っていると

「はい」

 そっけない言葉と共に総勢百個のチョコが入った紙袋を差し出してきた。

「は?」

「なにボーっとしてんのよ」

「いや、だってこれ友達と交換するんじゃ」

 オレがそう言うと、顔を朱色に染めてこう言った。

「これは全部アンタにあげるために作ったのよ。先百年分、来年からは無いんだから」

 いやいやいやいや、それはさすがに冗談だろ? だってさ、だってお前は……






 

 オレの妹じゃん!!


皆さんはバレンタインのチョコレートは貰いましたか?

私は家族にしかもらってないです。というか学校休みで人と会ってないので貰えても貰えません。

この話の主人公も家族からのチョコだけというオチですね。

妹のセリフの真意は読者の方のご想像にお任せといった感じです。

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