スキル『理解』で世界を知りたい!
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
物心ついた頃から、僕は知ることが好きだった。
知らないことを知る。
分からないことが分かる。
それが楽しかった。
だから本を読んだ。
だから人に聞いた。
だから旅に出た。
もっと知りたかったから。
◇
能力に気付いたのは十二歳の時だった。
木剣を握った日である。
「構えがなってないぞ」
村の剣士が笑った。
僕は頷く。
「はい」
そして木剣を見る。
何となく。
本当に何となく。
理解した。
剣とは何か。
重心。
振り方。
力の流れ。
斬るという行為。
全て。
◇
「……は?」
数分後。
剣士が固まっていた。
僕も驚いていた。
身体が自然に動く。
知らないはずの技術が分かる。
何故か使える。
「もう一度お願いします」
「いや待て」
剣士は本気で困惑していた。
僕も困惑していた。
◇
それから能力は何度も発動した。
料理。
農業。
算術。
鍛冶。
魔法。
理解すると使える。
理解すると上手くなる。
不思議だった。
けれど便利だった。
◇
旅に出たのは十八歳の時。
理由は単純。
もっと知りたかったから。
世界は広い。
知らないものが沢山ある。
理解できるものも沢山ある。
そう思うだけで楽しかった。
◇
旅先の町。
僕は市場を見て回っていた。
すると。
ふと気付く。
「高いな……」
野菜が高かった。
村よりかなり高い。
不思議だった。
だから調べた。
◇
三日後。
理由が分かった。
輸送路。
税。
商会。
保管費。
利益。
流通。
全部理解した。
◇
「なるほど」
僕は頷く。
「無駄が多いんだ」
そのまま商人へ話した。
改善案を。
より効率的な方法を。
すると。
「……確かに」
「そうかもしれんな」
「試してみるか」
◇
一週間後。
野菜は安くなった。
商人達は喜んだ。
住民達も喜んだ。
僕も嬉しかった。
でも。
一つだけ不思議だった。
皆。
すぐ納得する。
剣士も。
商人も。
役人も。
魔法使いも。
説明すると理解してくれる。
話を聞いてくれる。
協力してくれる。
きっと。
理解できる説明ができているのだろう。
僕はそう思った。
◇
その日。
屋台で果物を買った。
「少し負けてくれませんか?」
冗談のつもりだった。
「いいぞ」
即答だった。
店主は笑っていた。
「本当に?」
「本当だ」
不思議だった。
でも嬉しかった。
安くなった果物をかじりながら僕は考える。
理解すれば。
上手くいく。
剣も。
魔法も。
商売も。
世界は思ったより単純なのかもしれない。
もっと知りたい。
もっと理解したい。
◇
旅を始めて五年。
僕は多くのものを理解した。
剣。
魔法。
商売。
農業。
政治。
税。
宗教。
法律。
国家。
理解するほど面白かった。
世界は繋がっている。
全てには理由がある。
それを知る度に胸が躍った。
◇
王都へ到着した頃には、僕は少し有名になっていた。
あちこちで問題を解決したからだ。
「また来たのか」
商会長が笑う。
「こんにちは」
「今回は何を見つけた?」
「物流の問題です」
「やっぱりか……」
商会長が苦笑した。
◇
三時間後。
僕の説明は終わった。
商会長は机に突っ伏している。
「なるほどな……」
「はい」
「つまり今まで二割損してたのか」
「そうですね」
「そうか……」
商会長は立ち上がった。
「すぐやろう」
◇
一ヶ月後。
王都最大の商会が採用した。
半年後。
他の商会も真似をした。
一年後。
王国全体の物流効率が改善した。
◇
「凄いですね!」
そう言われることも増えた。
でも。
僕は首を傾げる。
「そうですか?」
理解しただけだ。
分かったから説明した。
それだけだった。
◇
ある日。
酒場へ入る。
賑やかな場所だった。
商人達が飲んでいる。
冒険者達が騒いでいる。
情報が集まるので好きだった。
◇
「兄ちゃん」
隣の席の男が声を掛けてきた。
「ん?」
「ちょっと聞いてくれよ」
男は愚痴を始めた。
妻。
子供。
金。
仕事。
人間関係。
色々。
僕は聞いた。
そして理解した。
男のことを。
何に悩み。
何を恐れ。
何を望んでいるのか。
分かった。
本当にそれだけだった。
「簡単ですよ」
僕は言った。
「奥さんに謝ればいいです」
男が固まる。
「は?」
「あなたは怒っているのではありません」
「……」
「認められたいだけです」
「……」
男の顔色が変わる。
さらに続ける。
「奥さんも同じですよ」
「……」
「喧嘩したい訳ではありません」
「……」
「寂しいだけです」
長い沈黙。
そして。
「そうか……」
男は呟いた。
◇
翌日。
男は妻へ謝った。
夫婦仲は改善した。
それからだった。
相談されることが増えた。
商人。
兵士。
貴族。
冒険者。
皆。
悩みを抱えていた。
そして。
何故か僕の言葉を受け入れた。
不思議だった。
でも納得もしていた。
理解しているからだ。
理解すれば正しい答えが分かる。
正しい答えなら受け入れられる。
そういうものだろう。
◇
ある日。
貴族の晩餐会へ招かれた。
場違いだと思った。
けれど面白そうだったので行った。
そこで僕は一人の令嬢と出会った。
美しかった。
そして退屈そうだった。
理由も分かった。
周囲は彼女を見ていない。
爵位を見ている。
家柄を見ている。
価値を見ている。
だから。
何となく言った。
「大変ですね」
令嬢が目を見開く。
「……何がですか?」
「周囲が貴女を見ていないことです」
沈黙。
令嬢は数秒固まった後。
小さく笑った。
「そうですね」
それから話した。
気付けば三時間。
晩餐会が終わるまで。
令嬢は僕の隣にいた。
◇
帰り際。
「またお会いできますか?」
そう聞かれた。
「はい」
僕は頷く。
それだけだった。
ただ話しただけ。
少し理解しただけ。
しかし。
離れた場所で見ていた貴族達は違った。
「あの方は危険だ」
誰かが呟く。
「何故です?」
「気付かなかったのか」
老貴族は顔を青くした。
「たった数時間で」
「公爵令嬢が完全に心を開いていた」
誰一人。
その理由を理解できなかった。
ただ一人。
本人だけを除いて。
世界は少しずつ気付き始めていた。
その男が。
普通ではないことを。
◇
王都に来てから三年。
気付けば随分と遠くまで来ていた。
商会が話を聞きに来る。
貴族が相談に来る。
役人が意見を求める。
王都で知らない人間の方が少なくなった。
◇
ある日。
王城から招待が届いた。
国王陛下との謁見。
「断る理由もないか」
僕は軽い気持ちだった。
国王に興味があった。
だから会いに行く。
それだけだった。
国王は豪快な人物だった。
優秀だった。
決断力もある。
人望もある。
だからこそ。
問題も理解できてしまった。
抱えている不安。
孤独。
恐怖。
責任。
玉座に座る一人の人間。
「どう思う?」
国王が尋ねた。
ただの雑談だった。
外交の話。
税の話。
貴族の話。
だから。
僕も何気なく答えた。
「皆、陛下を信じていますよ」
国王が固まる。
「……何故そう思う?」
「信じられないなら皆逃げております」
少しだけ考える。
「陛下は失敗を恐れている」
「だが周囲はそうではない」
「失敗しても責任を取る人間だと信じている」
「だから付いてくるのです」
静かだった。
そして。
「そうか」
国王は笑った。
本当に吹っ切れたように。
◇
その日以降。
国王は以前にも増して大胆になった。
王国は発展した。
誰もが喜んだ。
ただ一人。
宰相だけが顔を青くしていた。
「おかしい……」
あまりにも簡単だった。
国王が十年悩み続けた問題。
それが。
数十分で消えた。
ありえない。
だが現実だった。
そして宰相は気付く。
そういえば。
商会長も。
大貴族も。
将軍も。
皆同じだった。
会った後。
変わっている。
まるで。
主人公の言葉が正しいと信じているように。
否。
信じている。
◇
半年後。
王国の問題は次々と解決されていた。
商業。
農業。
軍事。
教育。
法律。
全て。
僕は理解した。
そして理解したことを話した。
皆が納得した。
それだけだった。
◇
だが。
周辺諸国は違うものを見ていた。
「またか……」
隣国の国王が報告書を投げ捨てる。
「今度は何だ」
「第三商会」
「買収に失敗しました」
「……そうか」
予想通りだった。
接触した者は。
全員取り込まれる。
敵対していた貴族。
買収された商人。
潜入した間者。
全員。
帰ってこない。
いや。
帰ってくる。
帰ってきて。
こう言う。
「彼は正しい」
それだけ。
それだけなのだ。
だが。
それが恐ろしい。
誰も洗脳されたとは言わない。
誰も操られたとも言わない。
ただ。
全員が。
彼を理解したと言う。
◇
「……災厄だな」
老王が呟いた。
「殺せません」
「説得もできません」
「取り込むこともできません」
「では?」
誰も答えない。
答えはまだない。
だが全員が分かっていた。
あの男は危険だ。
軍隊より。
魔法より。
竜より。
危険だ。
なぜなら。
世界を理解している。
そして。
理解したものを使えてしまう。
物も。
技術も。
人も。
全て。
◇
その頃。
僕は王都の屋台で果物を食べていた。
「美味しいな」
平和だった。
本当に平和だった。
だから。
僕はまだ知らなかった。
世界が。
僕を恐れ始めていることを。
◇
最初は暗殺だった。
「失敗しました」
報告を受けた王が眉をひそめる。
「S級暗殺者だったな」
「はい」
「なぜ失敗した」
使者が沈黙する。
「……暗殺を中止しました」
「何?」
「接触後、自ら断念しました」
「理由は」
使者は震える声で答えた。
「彼は殺されるべき人間ではない」
王は椅子を蹴飛ばした。
「またか!」
これで何人目だ。
全員同じことを言う。
理解してしまった。
そう言って帰ってくる。
◇
次は懐柔だった。
大富豪。
公爵令嬢。
英雄。
王族。
あらゆる人材が送り込まれた。
結果。
全員失敗。
いや。
成功していた。
主人公は好かれている。
尊敬されている。
信頼されている。
だが。
送り込んだ側は何も得ていない。
むしろ失った。
「彼は正しい」
帰ってくる人間は皆そう言う。
まるで壊れたように。
◇
三回目は外交だった。
世界会議。
各国首脳が集まる。
目的は一つ。
理解者への対処。
「話し合うしかない」
誰かが言う。
「分かり合えるかもしれない」
誰かが言う。
「彼に敵意はない」
誰かが言う。
会議は続いた。
◇
数時間後。
全員が主人公の元へ向かった。
そして。
全員帰ってこなかった。
◇
その頃。
「世界会議?」
主人公は首を傾げる。
「はい」
王国宰相が答える。
「皆様、貴方と話がしたいそうです」
「そうなんですか」
◇
少し話した。
世界情勢。
文化。
経済。
戦争。
飢餓。
面白かった。
本当に面白かった。
知らないことが沢山あった。
「勉強になります」
主人公は笑う。
皆も笑う。
◇
その夜。
世界会議は終了した。
参加者全員が。
理解者を支持した。
◇
世界は絶望した。
◇
「終わった……」
老王が呟く。
「誰も勝てない」
「剣でも駄目」
「毒でも駄目」
「外交も駄目」
「愛情すら駄目」
理解される。
それだけで終わる。
理解者は支配していない。
命令もしていない。
洗脳もしていない。
ただ。
理解した。
それだけ。
だから対処不能だった。
◇
そして。
数年後。
世界は決断する。
理解者を倒すのではない。
理解者を隔離する。
巨大結界。
永久封印。
認識阻害。
観測遮断。
国一つを覆う規模の魔法。
◇
「本当に行うのか」
若い王が尋ねた。
「行う」
老王は頷く。
「我々は彼を理解できない」
「彼も我々を理解できない」
「共存は不可能だ」
◇
世界最大の儀式が始まる。
王国を包む光。
空を埋め尽くす魔法陣。
歴史上最大規模の封印。
◇
その頃。
「綺麗ですね」
主人公は空を見ていた。
本を閉じる。
光を見上げる。
「何をしているのでしょう」
本当に分からなかった。
そして。
光が降る。
世界が閉じる。
王国ごと。
理解者ごと。
歴史から消える。
◇
後の世。
人々は彼をこう呼ぶ。
最悪の災厄。
世界を支配した魔王。
すべてを理解した怪物。
――理解者。
お読み頂き、ありがとうございます。




