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妻のNTRを許す代わりに俺もNTRをすることにした  作者: 田中 又雄


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5/15

過去の話①

 2015年


 俺が高校2年生の秋のこと。

地元の公立高校——進学校でも底辺でもない、丁度普通の偏差値の学校に通っていた。


 校舎は古くて夏は蒸し暑く、冬は廊下が死ぬほど寒い。


 制服はブレザー型で、男子のほとんどがズボンの裾を短く折ったり、ネクタイを緩めたりして着崩していたけど、地味でインキャな俺はいつも真面目に着ていた。


 クラスは2年3組。

その時の席は後ろから2番目、窓側。


 休み時間になると、みんながスマホをいじりながら大声で話す中、俺は一人で文庫本を読んでいるか、新型のiPhone 6の画面を眺めていた。


 親に「勉強に使うから」と頼み込んで買ってもらったものだ。


 買ってすぐは意味もないのにちらつかせて、最新アピールをしていたら、先生に没収されたっけ。


 主な趣味は読書とアニメ、ゲーム。

『進撃の巨人』が社会現象になっていた時期で、俺も原作コミックスを全巻持っていた。


 休み時間に陽キャ達が「エレンかっこいいよな」「でもやっぱリヴァイ兵長だろ」と盛り上がっているのを横目で見ながらも、会話に入る勇気はなかった。


 友達は同じくアニメやゲームが好きな男子が2人だけ。


 中学の頃は高校生になればもっと青春ライフが待っているとか思っていたけど、自ら動かないものに青春などやってくるわけもなく…。


 休日は家でPS4をするだけのつまらない高校生活を送っていた。


 ちなみに両親は共働きで、帰宅が遅いので家に一人でいる時間が長かった。


 夕飯はよくコンビニ弁当で、適当にレンチンしたもの。


 最初こそ、寂しいという感情もあったが、慣れていくとそれが普通になっていた。

人間というのは本当に適応能力が高いなと感心した。


 そんな灰色の青春の一方、絹旗凛はクラスの中心にいた。


 黒髪のロングヘアをサラサラさせて、笑うとえくぼができる可愛い顔。


 クラス委員をやってて、いつも明るく、誰とでも分け隔てなく話す。


 文化祭の実行委員も引き受けていて、休み時間は女子グループの輪の中心で「ねえ、模擬店のお菓子どうする?」「お菓子デコ作ろうよ!」と盛り上がっていた。


 何というか、可愛くて陽キャなので自分とは遠い存在だとそう思っていた。


 当たり前だが、男子からの人気もすごかった。

出かけると大学生グループにナンパされたとか、誰かが告白し撃沈したという話もまぁよく聞いたものだ。


 しかし、それを自慢するわけでもなく、ああいい人なんだろうなとそれだけ思っていた。


 俺と絹旗さんは1年も同じクラスだったけど、それまでまともに話したことはほとんどなかった。


 せいぜい「前原くん、これプリント配ってくれる?」と頼まれる程度。


 彼女は俺のことを「静かで真面目な子」くらいにしか認識していなかったはずだ。


 その年の文化祭は10月下旬。


 テーマは「懐かしい未来」とか。

つまり、昔ながらの何かと近未来のものを合わせたもの…というものだとか。


 そして話し合いの結果、なぜかメイド喫茶と射的を組み合わせた「メイド射的カフェ」をやることに決まった。


 要素を詰め込みすぎなわけだけど、今現在はコンカフェも存在するわけで、今思えばあながち的外れな発想ではない気もした。


 そして、俺は目立たないように、看板のデザインとポスター作りをかって出ていた。


 男子の一部は女装して接客するとか言っていたが、俺がそんなことしたら翌日から学校に来れなくなるので、普通に裏方に回った…のだが。


 これが結構な重労働であんまり人手が足りないものの、声をかけることもできないまま、放課後に1人残って黙々と作業していた。


 そして、大きな模造紙に文字を描いていると、意外な人物が声をかけてきた。


「前原くん、まだやってるの?」


 振り返ると、そこにはメイド服というか、衣装合わせのためかエプロン姿で立っていた、絹旗凛さんが立っていた。


 しかもなぜかその格好で両手に刷毛を持って、頰に少しペンキがついていた。


 窓から入る夕陽が彼女の黒髪をオレンジに染めていて、俺は一瞬言葉を失った。


「……ああ。看板の仕上げ。絹旗さんはもう帰らないのか?」

「ううん、私もまだ。模擬店の飾り付けが全然終わらなくて……。てか、1人?他の人は?」

「あー…なんかカラオケ行くとか言ってかな…」

「カラオケ!?前原くんに全部任せて!?酷くない!?みんなに戻ってきてもらうように連絡する!?」

「いやいや、大丈夫だから!俺1人でいいって言ったので…」

「でも…」というと、彼女は俺の隣に座り、刷毛を手に取った。


「じゃあ、手伝うよ」

「いやでも、飾りつけは…」

「あっちは人手はいるから。きっと何とかなるよ」


 最初はぎこちない沈黙が続いた。


 俺は緊張でペンキを垂らしそうになりながら、必死に文字を塗っていた。


 なんだよ、この謎なイベント…。

腹が痛くなってきた…。

早く終わらせて帰りたい。


 しばらくして、彼女がぽつりと言った。


「前原くんって、いつも一人で本読んでるよね。ミステリアスっていうか、なんか大人って感じするんだよね」


 俺は驚いて刷毛を止めた。

まさかそんな風に見られていたなんて。


「ミステリアスって……俺、ただ話すのが苦手なだけだから。みんなが盛り上がっている輪に入れないだけ。進んでそうなってるとかではないから」


 すると、彼女はくすっと笑った。

俺の一番好きな表情を浮かべた。


「ふふ、そういうところがいいんだよ。みんなが『パリピ』とか『リア友』とか騒いでる中で、静かに自分の世界持ってる人っていいと思う。……あ、そういえば、進撃の巨人読んでるんでしょ? 私も好きなんだよね」


 まさかの進撃仲間であった。


「そ、そうなんだ。なんか意外だね。絹旗さんはそういうの読まないと思ってた」

「そうなの?NARUTOとかONE PIECEとか王道のものは結構好きだよ?」

「へー…そうなんだ」


 それから漫画やアニメの話で盛り上がった。


 こういうのを文化祭マジックというのだろうか?

いや、この場合は文化祭準備マジック…か。


 けど、自分にもこんな青春っぽいことが起こるとか…なんてことを考えていた。


 2015年の秋、文化祭の準備室みたいな薄暗い教室で、俺と人気者の絹旗凛は、初めてまともに会話をした。


 それが、すべてのはじまりだった。

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