覚悟
会社からの帰り道。
少し離れた公園で彼女と待ち合わせをしていた。
そして、2人でベンチに座って話をする。
「ごめん、残業入っちゃって…」
「いや、わたしは全然…。それより、話というのは…」
「今日の昼…聞いてたと思うけどその…実は…奥さんが妊娠したらしくて…」
「そうですか…。それは確定なんですか?」
「妊娠は…確定だと思う。けど、時期からすると、あいつと不倫した時期とも被ってるし、中には出してないけど、ゴムはつけてないとかで…正直、DNA鑑定するまで分からないって感じだな」
「そう…なんですね。てか、向こうの男の人ってどうなったんです?」
俺だってよくわかってねーんだよな。
「…あいつの会社の上司で、向こうにも奥さんがいるとか。謝罪にも来やしねーし…最悪あいつの子供なわけだから、産んだらあいつが育てるべきだと思うんだがな」
「それは…そうですね。でも、もし…前原さんの子供だったらどうしますか?」
問題はそこなのだ。
もし俺の子だとしたら…いや、それでも俺はあいつの子供を育てるなんて…。
「…おろすようには言ってる。けど、向こうは産むって言ってて…もうマジでめちゃくちゃなんだよ」と、思わず頭を抱えた。
「…そうですよね。もし、親権を取れるとしたら…どうしますか?」
「…俺1人で育てるってこと?そもそも、旦那の方が親権取るのってめちゃくちゃ大変らしいからな…。そうなっても…無理だろ。俺の子でもあるけど、あいつの子供でもあるからな」というと、俺の手を握ってきた。
「…私と一緒ならどうですか?」
「…は?」
「私は構いません。前原さんの子供というなら私との血のつながりがなくても…愛せます」
「…ちょっ…新川さん…それ本気で言ってんの?」
「はい。本気です。私は…私はそれぐらい好きになっちゃったんです。…それに生まれてきた命ですから。やっぱり…辛いじゃないですか」
それはその通りだった。
子供には何の罪もない。
そんなことはわかっていても、生まれて後悔するなら俺は産むべきじゃないと思っていた。
「…俺はまだ…正直、新川さんのこと…好きってはっきりは言えない」
「そんなことはわかってます。それでも、私はそばにいたいです。どんな形でもそばにいたいんです」
…なんていい子なんだよ、マジで。
「…分かった。とりあえず、もう一回あいつと話してから決める」というと、「はい。待つのは得意なので、大丈夫です」と、笑顔でそう言われた。
本当、最低なことしてるよな…。
◇
憂鬱な気持ちで帰宅した。
ただいまも言わずに家に入ると、リビングで
凛が待っていた。
テーブルには俺の大好物の凛お手製のハンバーグが置かれていた。
…なんでそれを浮気前にしなかったんだよ。
「…お、おかえり…ご飯はできてるよ」
「…もう作らなくていいって言ったろ」
「でも…」
「なぁ、あの男とはどうなってるわけ?」
「ど、どうなってるって…」
「会社の上司なわけだろ。話すきっかけは嫌でもあるだろ。妊娠の話はしたのか?まさか、俺にだけ言ってるわけじゃないよな?少なくてもそうなる可能性の行為をしたわけだし」
「…仕事以外の話はしてない」
「はっ、何それ。面倒ごとになったら同じ職場でもポイとか…ゴミだな。もう一回、向こうに縋ってみればいいじゃん。奥さんと別れて私とって」
「…好きとかじゃないから…」
なんだそれ。
本当に話すたびにムカついてくるな。
「さっさといい男見つけろよ。ツラはいいんだし、結婚してること内緒にして出会い求めろよ」
「…何でそんなこと言うの」
「…そりゃこっちのセリフだ。なんであんなことして、今更あなただけを思ってますムーブなんかできんだよ、アホか」
「…ごめん。…その…後輩の女の子はどんな子なの?」
…新川のこと…か。
正直、優秀な後輩くらいにしか意識してなかったからな。
特に結婚してからは異性とか同性とか本当に意識しなくなったしな。
俺のどこをみて好きになったのかよく分からないんだよな。
「まぁ、年は結構離れてるけどしっかりしてるし、俺のために色々してくれてるよ。お前が産もうとしている子供も育てる覚悟はあるらしい」
「こ、この子は私の子だよ…?」
「俺の子でもあるんだろ?お前が言うには。子供にとっても血のつながりはないかもしれないが、お母さんという存在はいた方がいいだろ」
「…本当に…もう無理なの?」
「…逆にどうすれば愛せるんだよ」
出会った頃の凛はもっとまっすぐで、強くて、そういう曲がったことは大嫌いなはずだったのにな。
なんで、何でこうなったんだろうな。
いや、俺に魅力がなくなったことも原因かもな。
昔は凛と釣り合う男でいるために自分磨きに余念がなかった。
結婚してからは気が緩んだというか…慢心というのか、そういう気持ちはあったしな。
もしタイムスリップが出来るとしたら…きっと、凛はあの日に戻りたいのかもしれないが、俺が戻るなら凛に告白したあの日に戻って、告白をやめて、別の人を好きになって、付き合うだろうな。
そんなことを思いながら、出会った頃のことを思い出していた。




