帰宅
朝方になり家に帰宅した。
時刻は朝の6:00。
まだ、凛は寝ているようだった。
お酒を飲むだけの予定だったため、朝方に帰るなんて言っていなかったが、まぁ…下手したら悟られるだろうな。
けど、一応少し気を遣いながら、音を立てないように家に入る。
すでにシャワーは浴びていたため、Yシャツだけ取り替えて、会社に向かおうと思っていた。
心の中ではまだ燻るものはあった。
やっぱり、妻がいる状態で他の女の子とするというのは相当なストレスというか、俺の場合は公言した上で復讐という形だからまだ罪悪感が少ないが、一体どんな気持ちでしていたのであろう。
まぁでも、これで俺も同罪なわけで…正直、凛への気持ちは冷める一方だった。
そんなことを考えていると、リビングに凛がやってくる。
「…おはよう。…遅かったね」と、そう言われた。
正直、この1ヶ月会話はほとんどなかった。
仕事が忙しいこともあるが、何より話すことがなくなったのだ。
仲良しこよしを演じる気もないし、正直あの男のところに行ってしまえと思っていた部分もずっとあった。
けど、今更私はあなたのそばにいますムーブをされてももう遅いのだ。
やっぱり、あんな提案せずあの場で離婚を告げればよかった。
もう…いいかどうでも。いっそ言ってしまおう。
「あぁ、まぁ…後輩の…女の子と飲んでたから」
それで朝帰りとなればもう分かるだろう。
察してほしい。
結局、俺はお前と同じことをしたのだ。
もう、終わったんだよ、俺たちの関係は。
「そう…なんだ。どうだった?」
なんだよ、どうだったって。
どんな答えを期待してんだよ、それ。あぁ、わかったよ。もう…全部…壊れろ。
「…何それ、なんて言ってほしいのそれ。凛とのセックスの方が気持ち良かったよって言ってほしいわけ?はっ…凛は昔からそういうことをしようとしても、いっつも消極的だし、子供作ろうって言ってきたのはそっちなのに、ずっと受け身でさ…。気分じゃないとか言って断ってきた時もあったよな。その上、他の男と寝て、俺とやる時より気持ちよさそうにしてたもんな…。その子は俺のために色々してくれたよ。…凛とやるよりずっと気持ちよかった」
最低な言葉を吐いた。
もう終わりにしたかった。
俺もしてしまった以上、同じなので向こうがキレてくれるならもうそれでもよかった。
いや、むしろキレてこの関係を終わりにしたかった。
これは俺のわがままだ。
きっと、心のどこかで自分から切るのが怖かったのだ。
だから、ここから去ってくれという気持ちでそう言ったのだ。
すると、長い沈黙が訪れる。
そして、凛から出た言葉は「…そっか。ごめんね。…今から…頑張って…積極的になっても…だめかな?」だった。
「…もう…そういうことじゃないじゃん。そんな風に無理して、この関係続けて何になるんだよ」
「でも…私…子供…出来ちゃったから」
「…は?」
子供?…ふざけんなよ、何だよそれ。
「それ…俺の子って保証あるの?」
「中には一回も出してない…から」
「じゃあ、生ではやってんだろ。てか、向こうの男は何で俺に謝らないわけ?いい年して逃げてさ、どんなやつとしてんだよ、マジで」
「…向こうも奥さんがいるから…」
もう…色々と呆れてものも言えなかった。
「無理…。悪いけど、その子供はおろしてくれ。俺には育てられないし、その子にお金を出したくもない。…その子に罪はないけど、やっぱり許せるわけないし、このあと子供を育てていくとか無理だから」
「…私は…この子を産みたい」
「お前…本当にいい加減にしてくれよ」
すると、膝から崩れて泣き始める。
「私、頑張るから!もうあんなことしないから!亮は浮気してもいい!だから…!!」
「無理に決まってんだろ!なら、その子もあいつに育ててもらえよ!なんなんだよ、もう!」と、振り上げた拳をそれでも残った僅かな理性でゆっくりと下ろした。
もう色々と限界だった。
「…頼むから離婚してくれ…。もう無理なんだよ、俺たち」
「いや…っ!嫌なの!!」と言われた。
本当に…もう、どうしていいか分からなかった。
それから俺は出社の時間にはまだ早かったが、そのまま家を出た。
心の中はぐちゃぐちゃだった。
全てを投げ捨てて、全部やり直したかった。
結局、会社近くのネカフェで少し時間を潰してから出勤するのだった。
◇
ホテルを後にして、家に帰るとベッドに顔を埋めて悶えていた。
前原さんのことはずっと前から好きだった。けど、既婚者だからずっと片想いでいるつもりだったのに…。
まだ、離婚したわけでもないし、私はただの浮気相手だけど、それでもすごく嬉しかった。
体の相性もすごくよくて、前原さんにいっぱい愛してもらって、もうここ10年くらいで一番嬉しい瞬間だった。
思い出すたびに体がウズウズしてくる。
やばい…好きすぎる…。
本当、あんないい人がいて浮気するとか奥さんサイテーだよね。
あ、次はいつ遊べるのかな?とかそんなことを考えながら、ゴロゴロして、それから前原さん分のお弁当まで作って時間になると準備して出勤した。
そして、会社に着くと、前原さんが先にいた。
「あっ、前原さ…」と、その言葉が途中で止まる。
その顔には明らかに正気がなかった。
もしかして、何かあったのかな…と、不安に思いながらも、今はそっとしておいた方がいいかなと思い、挨拶だけ軽くした。
それから昼休みになるも、いつも座っている席に前原さんはいなかった。
そんな風にキョロキョロしていると、後ろから声をかけられる。
「だだだ、誰か…探してるの?」
後ろを振り返るとそこには同期の近藤与一くんが立っていた。
思わず顔が引き攣る。
この人は入社してからずっと私のことをストーキングしていて、何度か上に相談し、注意してもらったものの、日が空いたらまた同じことを繰り返していた。
具体的な被害が何かあるわけでもないので、警察にも言えない状態だった。
「ごめん、大丈夫」とだけ言ってその場を後にした。
すると、いつもと違う席で電話をしている前原さんがいた。
近づいたところで電話の声が聞こえた。
「…いや、だからおろしてくれって言ってるだろ! 頼むよ、凛。もう限界なんだ……」
前原さんの声は震えていて、普段の穏やかなトーンとは別物だった。
というか、おろすって…妊娠ってこと?と思っていると、こちらに顔を向けて辛そうな顔をする。
私、どうすればいいんだろう。




