決断の時
結果が出た夜、俺はベランダで一人、雪の降る街を見つめていた。
冷たい風が顔を打ち、雪片がコートの肩に積もり始めた。
手すりを握る指が凍りつき、息が白く凍る。
マンションの街灯が雪を淡く照らし、地面が白く輝いていた。
遠くから車の走る音が微かに聞こえるだけ。
お腹にいるのは俺の子。
あの紙が、頭から離れない。
後ろから足音が聞こえ、好が寄り添ってきた。
彼女の体温が背中に伝わり、茶髪が風に少し揺れた。
好のセーターの袖が俺の腕に触れ、甘いシャンプーの匂いが混ざった。
彼女の目が俺を心配そうに見つめ、唇が薄く引き結ばれていた。
頰が冷たそうに赤らみ、息が白く凍る。
「亮さん…お酒でも飲みますか?」
好の声は低く、優しかった。
彼女の指が俺の腕を軽く握り、冷たい手が俺の熱を求めるように締まった。
俺は雪の街を見たまま、ゆっくり言った。
「そうですよね。けど、私はどんな選択でもいいんですよ。自分の子なら自分で育てないと思うのも不思議なことじゃないです。それに…3人で育てることも私はいいと思ってます。お父さんがいないより、お母さんが2人いる方が幸せだと思いませんか?むしろ、子育てを分担できると考えたら、いいことずくめじゃないですか……」
好は俺の横に並び、手すりに寄りかかった。
彼女の肩が俺に触れ、息をゆっくり吐いた。
白い息が夜空に溶け、雪片が彼女の髪に落ちた。
好の目が遠くを見、唇が少し震えた。
「それなら、俺や凛はいいとして好は…」
「いいですよ。その代わり、一個お願いがあります」
「…お願い?」
俺は好の顔を振り向いた。
彼女の目がまっすぐで、頰が少し赤らんでいた。
雪が彼女のまつ毛に付き、瞬きするたび落ちる。
「私とも子供を作ってください」
「…おまっ…本気かよ」
「はい、本気です。それなら公平ですよね?まぁ、私は奥さんになれませんけど、この際それくらいは仕方ないと思ってます。お二人は互いに責任を取り合う。そして、私も不倫の代償を払うべきだと思っていたので」
好は頷き、俺の目を見て続けた。
彼女の声は穏やかだが、指が手すりを強く握っていた。
「でも…俺が凛と別れて…好と…いるのが一番幸せだろ」
「どうですかね。私はそうかもしれませんけど、後悔しない自信がありますか?生まれてきた子供にはなんの責任もないんですよ。それに亮さんも不倫したんです。そして私も。責任の取り方としては一番良い落とし所だと思いますけど」
好の言葉に、俺の胸が疼いた。
彼女の目が少し潤み、唇が薄く引き結ばれていた。
嫉妬や葛藤が隠されているのがわかった。
好は俺を愛してる。
それでも、凛と3人で暮らす提案。
それは、彼女の覚悟だった。
俺は雪の街を見下ろし、息を吐いた。
白い息が夜空に溶け、風が冷たく頰を切った。
「…わかった。考えてみる」
リビングに戻ると、部屋の暖房がむっと熱く、雪の冷たさが体から溶けていく。
カーテンが閉まりきっていなかった隙間から、外の街灯の光が淡く差し込み、テーブルを照らしていた。
凛はソファに座り、腹をさすっていた。
彼女の目が腫れ、唇が乾き、肩が落ちていた。
俺たちが入ってくると、凛はゆっくり顔を上げた。
彼女の表情が疲れきっていて、息が浅かった。
「亮……好さん……」
俺はテーブルに座り、好が俺の隣に。
凛は俺たちを見て、目が少し不安げに揺れた。
好がゆっくり言葉を続けた。
彼女の声は穏やかで、指がテーブルを軽く叩いていた。
「凛さん、亮さんの子だってわかって、よかったですね。でも、このまま2人で育てること、凛さんはできますか?」
「私は…やれると思ってる」
「また浮気しないと言えますか?」
「それはしない!もう…しないから…」
「私もそう信じてます。それに私も亮さんを諦める気はありません。だから、この子を一緒に育てましょう。3人で、この家で。」
凛の目がゆっくり開き、好を見た。
彼女の表情が驚きから、希望に変わった。
唇が震え、手が腹を強く押さえた。
「3人って…」
「はい。正直、もしそのお腹の子があの男の子なら私も一緒に育てる気はありませんでしたし、全力でお二人の関係を終わらせるつもりでした。けど、亮さんの子だということなら、仕方ないかなと。その代わり、私は亮さんと子供を作る。その子育ては凛さんも協力してもらう。きっと、周りには理解されないと思いますけど、それでも私はこれが一番幸せな選択だと思ってます」
凛の声が震え、目が潤んだ。
好は頷き、目を細めて微笑んだ。
彼女の頰が少し赤らみ、指が絡まった。
「亮…はそれでいいの…?」
凛は俺の目を見てそう言った。
「…俺の子だからな。それに俺も不倫したことには変わらない。凛のことも…時間をかければ許せるかもしれないから」
凛の肩が緩み、涙が止まらなくなった。
彼女の表情が明るくなり、手が腹をさすった。
「ありがとう……亮、好さん…」
好の目が少し曇り、唇が薄く引き結ばれた。
彼女の心の中が、俺にはわかった。
こうして、俺もその選択を選ぶことにした。




