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妻のNTRを許す代わりに俺もNTRをすることにした  作者: 田中 又雄


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15/18

そして、終わりへ

 マンションから出て、タクシーに乗った瞬間、俺の体から力が抜けた。


 雪が激しく降り始め、窓ガラスに白い粒が付着して視界をぼやかしていた。


 好は俺の隣でスマホをポケットにしまい、静かに息を吐いた。


 彼女の頰は冷たそうに赤く、目が少し疲れたように細くなっていた。


「亮さん……お疲れ様でした」


 好の声は低く、優しかった。

俺は窓の外をぼんやり見ながら、頷いた。


「…ああ。好…ありがとうな」

「いえ、私は…大丈夫です」


 多分、あの男の顔は一生忘れられない。

もちろん、一生許すこともないだろう。


 タクシーのエンジン音が低く響き、車内は暖房の熱気でむっとしていた。


 俺の胸はまだざわついていて、山田の青ざめた顔と、美香さんの涙が頭から離れなかった。

復讐は終わったはずなのに、満足感はなかった。


 ただ、重い石が一つ胸から落ちたような、安堵と虚無の混ざった感覚だけ。


 家に帰ると、凛はリビングのソファで待っていた。


 彼女の目は腫れたままで、腹をさする手が止まらなかった。


 俺たちが入ってくると、凛はゆっくり顔を上げた。


 表情は疲れきっていて、唇が乾いていた。


「…どうだった?」


 俺はコートを脱ぎながら、簡潔に話した。

男の土下座、慰謝料の約束、妻の崩壊。


 凛は目を伏せ、指を膝の上で絡ませていた。

彼女の肩がわずかに震え、息が浅くなっていた。


「…そっか…本当にごめんなさい」と、声は小さく、罪悪感が混ざっていた。


 好が凛の横に座り、優しく言った。


「これでとりあえずひと段落です。今は会社を辞めることと…お子さんのことだけ考えてください」


 凛は頷き、涙を拭った。


「会社の人にどう伝えるか凛に任せる。辞めるにあたって理由も聞かれるだろうし、その時に正直にいうかどうかは」と、俺は伝えた。


 会社にだけはと言っていたが、奥さんがどう行動するかもわからないし、いずれ何らかの形で会社にバレる可能性はある。


 それでも俺はできるなら真実を伝えてほしいとは思っていた。

部屋の空気が重く、誰もが昨夜の出来事を引きずっていた。



 ◇


 翌日、俺は会社でぼんやりしていた。

やばい…な。最近連日こんな感じである。


 同僚の声が遠く聞こえ、ヘッドセットから漏れる音が耳障りだった。

すると、好が隣からコーヒーを差し出してきた。


「亮さん、休憩しましょう」


 休憩スペースで 彼女の指が温かく、目が心配そうだった。


「考えても仕方ないです。ひとまず今に集中しないと…」と、そう言われた。


 俺はカップを握りしめ、窓の外の雪景色を見た。


「…そうだな。考えても結果は変わらないし…。でも、これで一つ、終わったんだ」


 好は微笑み、俺の手を握った。

その感触が、俺の心を少し軽くした。


 一方、凛は会社に退職を連絡したらしい。


 上司——あの男——は会社に来ていないらしい。

そして、真実を人事に伝えると「了解しました。とりあえず、しばらく育児休暇で申請します」と言ってくれたとのこと。


 そして、好が凛の隣に座り、背中をさすった。


「私、サポートしますから」


 凛は好を見て、小さく頷いた。

二人の視線が交わり、微かな連帯が生まれていた。


 10日の待ち時間は、長く感じた。

毎朝、俺は会社でぼんやりし、昼に好のコーヒーで心を落ち着かせ、夜に家で3人の沈黙に耐えた。


 凛のつわりは悪化し、吐く音が夜中に響くようになった。


 彼女の顔はさらにむくみ、腹をさする手が止まらなかった。


 好は凛のために食事を作り、栄養ドリンクを買ってきて、静かに支えた。


 俺はそれを見て、胸が痛んだ。

好の優しさが、俺の罪悪感を増幅させる。


「亮さん、凛さんを気遣ってあげて」


 好の言葉が、耳に残った。


 ある夜、俺は凛の部屋を覗いた。


 凛の声は弱々しく、何かを懇願するように呟いていた。


 リビングで好が待っていた。

彼女は俺を抱きしめ、耳元で囁いた。


「結果が出るまで、待ちましょう」


 俺は好の背中を抱き返した。

この待ち時間は、俺たちの関係をゆっくり変えていくようだった。


 結果の連絡が来る日が、近づいていた。

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