王子の助けはやってこない
「お願いです。どうか、王子を呼んでください」
私の言葉を、周りの令嬢達はせせら笑い無視する。
「私が泥棒をしたなんて、何かの間違いです。王子に来てもらえば、誤解だとわかってくださいます」
私にでっちあげの盗難の罪を着せようとするニア伯爵令嬢は、私を陥れるための偽の証拠を手に嘲り笑う。
「あなたの部屋から、この国宝の宝石が出てきたのよ。あなたが、盗んだのは明白じゃないの」
「そんなの偽物の宝石に決まっているじゃないですか。国宝がしまっている金庫の鍵は王族の方々しか持ってません。私に盗めるはずがありません。王子ならわかってくださいます。王子を呼んでください」
「あなたごときのために王子を呼ぶなんてするわけないじゃない」
その他の令嬢達が、ニア伯爵令嬢に追随する。
「そうよ、そうよ」
「第一、平民のあなたが王子のお気に入りなんて、おかしいじゃない」
「でしたら、せめて正規の取り調べをしてください。ちゃんとした騎士団の人達を呼んでください。なんですか、この怪しい人は?」
「失礼なことを言わないでちょうだい。その人はあなたが逃げようとしないための見張りよ。普段は娼館の用心棒をしているそうよ。あなたの罪が証明されたら、あなたが叩きこまれる娼館のね」
私の手をつかんでいる男は、下品な笑みを私にむける。
「なんてことを。私にありもしない罪をかぶせて、こんな人間をこの王宮に入れるなんて」
「うるさいわね。あなたは国宝の宝石を盗んだ罪人なの」
「本物は金庫の中にあるはずです」
私の言葉に、にんまりと笑顔になるニア伯爵令嬢。
「それなら、確かめてみましょうか」
「金庫の鍵は王族の人達しか持っていないはずです」
「だから、私が金庫の鍵を開けてあげるわよ」
と、王子の妹が、金庫の鍵を持って現れる。
兄が大好きなこの妹は、私がこの王宮に来た時から、私のことを嫌っていた。
金庫の鍵が回され、重厚な扉が開く。
中には様々な高価な宝物があった。
「ちゃんと国宝の宝石があるじゃないですか」
「あなたが偽物とすり替えたんでしょう。鑑定をよろしくね」
ニア伯爵令嬢は、私の腕をつかんでいるにやにや笑いの男に言った。
「こんな人に宝石の鑑定ができるわけないじゃないですか。私を陥れるために口裏を合わせるつもりですね。それが本物なのに、偽物だったと言い張るつもりなんですね。誰か、お願いですから、王子を呼んでください。お願いします。王子を呼んでください!」
男が口を開く前に、ニア伯爵令嬢の取り巻きが飛び込んでくる。
「ニア様、大変です。王子が帰ってきました」
私は思わず心の中の悪態を口に出しかける。
くそっ。王子が長期の外交から帰ってくるのはまだ先だったはずだ。
「何を騒いでいるんだ。慈愛の乙女?なんだそれは?僕の紹介状でやってきた?おい、ちょっと待て。王族の文章を偽造するたいそれたことができる奴らなんて、帝国を荒らしまくった怪盗兄妹しかいないだろう」
遠くから王子の声が聞こえてくる。噂通りに頭の回転が速いようだ。
幸いなことに、一番の難関だった金庫の扉を開くことは完了した。
私の腕をつかんでいた兄ちゃんが、国宝の宝石を掴む。
私も、別の宝石を掴む。
さあ、とんずらだ。
おわり




