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5話 衝突

「あーあー遂にやっちまったよ。これで『極殺』とウチらの全面戦争じゃんかさぁ」


「ん〜? あいつらを返り討ちにしてバラしたのは誰だったかな〜? いざとなったらバカネ差し出して謝る〜!」


 怒ったアカネからの鞘による突きをひらひらと避けながら、渚が煽り文句を言い切った。


「んだとぉ!? ルナの指示だろうが! お前もカットして『極殺』にくれてやろうか? ああ!?」


「やっだよ〜ん。そうそ! ルナっちさ、この作戦の報酬でカニ奢ってくれるってホント? 軍工場の怪しい缶詰じゃなくて本物のカニ!」


 そう言うと渚は満面の笑みを浮かべて、ピースした指を突き出す。


 つまり彼女は侵入者が二人いることを探知し、それをルナに伝えているのだ。


 *


 ルナたちが敵に回した「極殺小隊」は、Cランクである「便利屋コロシ部」よりもランクが上のBランクチームだった。


 ランクの違いは単純な構成員の「アドバンス」能力やチームとしての強さの差だけではない。


 チームのランクは、受けた依頼の数や達成率、それらの難易度、所属する構成員の評価も加味され総合的な判断に基づいて下される。


 Bランク以上のチームを相手取った下剋上狙いとなると、成功したという報告はほぼない言っていい。


 ただ、仮にそれに成功してしまえばそのチームの名はきっと東京中に轟くだろう。


 だがルナの狙いはただの売名行為ではなく、依頼人の香川そのものにあった。


「いくらなんでもやり方が過激すぎるだろうが……わざわざ格上を刺激してどういうつもりだ……!」


 嫌々挑発に参加していたヤクザの香川が苦々しく吐き捨てた。


「過激な方がいいんだよ、目立つしね。この戦いを見てるのは『極殺』だけじゃないから」


「見てるったって……どうやってだ? このご時世に映像の中継なんかそう簡単にできるもんかよ」


「あの手この手でじゃない?」


 ルナが空を指差す。


 おそらく何者かの「アドバンス」能力によって、不自然に同じ場所をくるくると旋回し続けるカラスの群れ。


 カラスの視覚から両者の戦いを見届ける気なのか。どこの手の者かはわからない。


 ルナが地を指差す。


 敗者の縄張り、その奪い合いに先んじようと様子を見に来たルナにとっての「ご近所さん」たち。


 複数のチーム関係者がそれぞれ干渉し合わないように監視している。


 果ては黒い制服が特徴的な「東京軍」本部の士官までいた。


 確実に成果は上げるが過剰に犠牲を出す問題児ザクロと、正式除隊後たった数か月で立ち上げたばかりのチームをCランクまで押し上げた風雲児ルナ。


 両者の激突は様々な勢力の力関係に影響を与えると判断した軍本部は「アドバンス」担当部門の士官を派遣したのだった。


 *


 アカネと渚が緊張感なくじゃれている最中も、凛子によるザクロへの狙撃は引き続き行われていた。


 彼女には事実上の不死に近い再生能力を駆使し、能力による反撃があっても囮の狙撃手として目立ち続けるという役割があった。


 対人には過剰とも思える対物ライフルを用いるのも視覚的、聴覚的に目立つ目的がある。


 大口径の狙撃銃を凛子が一発撃つごとに、轟音と周囲の空気が痺れるような奇妙な感覚に包まれる。


 対するザクロは人間を胴体ごと吹き飛ばす威力のある弾丸を、難なく掴み取り、そして払いのけて見せた。


 スモモは子どもサイズに仕立て直した戦闘服に身を包み、ザクロに隠れるように進む。


 狙撃が真正面から防がれる事態に臆することなく凛子は撃ち続ける。


 そんな状況で突然凛子は喉元をかきむしってから倒れ、一定のリズムで響いていた銃声が止んだ。


 凛子の首筋は刃物でかき切られ、階下への助けを呼べないようにされていた。その後、心臓を一突き。


 姿を消す能力を持つレインコートの少女、アンズの不意打ちだった。


「こちらアンズ。狙撃手を無力化完了。また傷口の修復を確認……蘇生し次第再殺する。敵に動きはまだない。作戦か、勝った気でいるか……判断はザクロに任せるよ」


 ザクロが正面から攻撃を受け続けたのは彼女が自分自身を囮とした策であった。


 囮同士のぶつかり合いは「極殺小隊」が制した。


 アンズに注意が向いている隙に不可視のアンズが先行し、敵の懐に入り込む。


 狙撃手の射撃が止まれば、当然屋上まで誰かが様子を見にやって来ると彼女は考えた。


 それを屋上にいるオリーブの操る兵士とアンズの二人がかりで制圧ないし殺害する。


「再生能力持ちが狙撃手とは宝の持ち腐れだな。まあいい、計画通りオリーブとアンズで誰かが上に来れば殺せ。狙撃手は定期的に殺し直すことを忘れるな」


 彼女はまだ能力の割れていない敵の一人、リーダー次第で戦況がひっくり返ることを警戒し、決して気を緩めない。


「誰かが階段を上がってくる……オリーブと連携し排除する」


 アンズからの通信。


 ザクロの考えでは屋上に来るのは刀の少女。


 敵は近接戦に特化した刀の少女を侵入者である「極殺」にぶつけ、時間を稼いで狙撃手を再生させるとザクロは考えている。


(さあどう出る。オリーブの話では相手に探知担当がいるらしいが……そいつは今稼働していないのか?)


 狙撃手が蘇生すれば、オリーブの体が無能力の兵士である分「極殺」側が不利。


 だがザクロはアンズの短刀に猛毒を塗らせている。おそらく敵の狙撃手は再生後、体内に残った毒で再び死ぬか、再生が阻害されるはずだった。


 敵が時間稼ぎに走ればザクロとスモモはビルまで容易に接近することができる。


(ビル内部に侵入する必要はない……スモモの能力の射程まで入ってアンズを離脱させれば十分だ。オリーブの思念は体が死ねば本体に戻る)


 着々とザクロの思惑通りに事態が進んでいく中、予想外の事態は突然に訪れた。


 アンズの通信を聞く限り、屋上に上がって来たのは刀の少女……アカネではなかった。


 強化された視覚でそれを視認したザクロは困惑する。


 二人が待ち構える屋上へ単身乗り込んできたのが小柄な茶髪の少女、つまりはオリーブの報告にあった探知担当だったからだ。


「やっほ。アカネ……刀の子が来ると思ってたっしょ。正解は渚ちゃんでした~。不正解の『極殺』さんには残念賞~」


 渚が挑発的に笑うと、アンズは姿を消し、不意打ちの準備を整えた。オリーブは渚の気を引くため、冷静に言葉を返した。


「へえ、残念賞ねえ。何か景品はあるのかな」


 次の瞬間、不可視のアンズが短刀を渚の心臓目がけて繰り出した。


 寸分の狂いもなく肋骨の隙間を狙った死をもたらす一撃。


「残念賞の景品は、死刑!」


 刃が渚に届く寸前。残念賞の発表と同時に渚を起点とした強力な衝撃波が放たれた。


 屋上入り口のドア枠がひしゃげ、落下防止用の策が落ちていく。


 渚に最も近い位置にいたアンズが吹き飛ばされ、オリーブは頭を打ち意識を失う。


「能力の応用で探知もしてるってだけでさあ、渚ちゃんが戦えないなんて誰も言ってないんだが~? ば~か!」


 透明化の解けたアンズと意識のないオリーブに向けて渚が高らかに宣言する、と同時に周囲を見渡す。


「あれ……リンちゃん先輩いなくね? 落ちた?」


 渚の勝利の笑みが次第に引きつったものに変わっていった。


 衝撃波で弾き飛ばされた再生途中の凛子が、ビルに向かってくる「極殺小隊」メンバー。つまりはザクロとスモモの目の前に落下していたからだ。

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