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22話 新宿制圧

 屠龍は度重なる頭部への負傷で狂乱状態となり、ザクロに拳を浴びせる。


 ザクロは屈み、防御に徹しながらも決して膝を突こうとはしない。


「これで満足? ステラ……いや、柊星来!」


 ルナが暗くなり始めた空に向かって叫んだ。


「全然。勝っちゃってるし。でもまあ陽向お姉ちゃんのクローンがこんな簡単に負けるはず、ないよね?」


 突如としてルナの目の前に転移してくるステラ。


 離れた場所でこの戦いを見守っていたらしい。


「姉さんと面識があるの? いつ、どうやって?」


「来ないで」


 ステラが何者なのか問い詰めるためルナが一歩前に出ると、一歩分転移するステラ。


 それは空間干渉の能力が強く発現していることを見せつけるかのようだった。


「もうチップだけ寄越して消えてよ。遠回りしたけど本来の任務は香川(アイツ)のデータなんだし」


「どうして私に見せるように仕向けたの。ヘリで介入してきた時、回収しようと思えばできたはずでしょ」


「言えない。言いたくない。言う必要ない。わかる?」


 嘲笑うステラ。さらに一歩ルナが前に出る。


 そしてステラが転移して一歩下がろうとしたとき。


 それよりも早くルナがステラを引き寄せ、頬にビンタをした。


 口の中を切り、血の混じった唾を吐いたステラの目が殺意に燃える。


「調子乗るなよ。コピー……!」


「ならあなたは姉さんの本当の妹? それにしては目の色が変な気もするけど」


 陽向とルナ……美月の黒い瞳とは異なり、ステラの目は夕焼けのような赤だった。


「殺す」


 ステラは近くに倒れていた名も知らぬ「アドバンス」の少女の手から拳銃を自身の手に転移させ、ルナを狙う。


 だが次の瞬間、白髪の「神使兵」が横合いからステラにぶつかり、銃弾が逸れる。


「ステラ、君は『柊星来』というのか。そしてこのルナという少女とは血縁関係があると」


「紫電……お前!」


 一撃でステラを制圧した紫電はルナを値踏みするように見ている。


 固有の能力、戦闘力、技術、精神面……そして柊陽向との関連性。


「答えてくれ。バディに手荒な真似はしたくない」


「私が代わりに答えようか? 私とリンちゃん先輩、飛ばされた仲間の安全が確保されたらの話だけど」


「だ、そうだが」


 普段指揮権をステラに移譲している紫電だったが、立場的には格上であり一方的にステラを処分する権限も持っている。


 黙りこくったステラに対してルナが仲間の安全を再要求しようとすると、突然複数の車のエンジン音が接近してきた。


 装甲車から次々と重装備の少女たちが降り、展開する。


「来たか」


 紫電が一瞥し、淡々と告げた。


 東京軍の管轄のど真ん中である新宿地区でこれだけの武力介入が行われたのだ。


 彼らが黙っている道理はない。


 東京軍の実働部隊。特に「アドバンス」を中心に構成された「アドバンス歩兵」による東京軍の主力。


 彼女たちは小規模の「チーム」として依頼を請け負う少女たちと異なり、統一された軍隊としての装備が特徴的だった。


 通常の兵士では行軍不能な全身防弾仕様の戦闘服や、反動の大きい銃を持ち前の身体能力で扱うことができるのは「アドバンス」だからこそ。


 東京軍の柏木中尉の率いる部隊は、手始めに屠龍の排除から着手した。


 暴走しながらも強い相手を求めているのか、屠龍は防戦一方のザクロから柏木の部隊に接近してくる。


「撃て」


 「神使兵」の存在は東京軍もある程度把握していた。成人男性を十回は昏倒させる鎮圧弾を撃ち込む少女たち。


 屠龍はしばらくの間よろめきながらも歩みを進めていたが、もんどりうって倒れた。


「東京軍の柏木中尉だ。降伏までは求めない。率直に言うと一目見た感じ、君には勝てない。だが君たちの部下は大勢死ぬだろう。だから即時撤退を勧告する」


 紫電と対峙する柏木には、普段陽向から感じるものに近い強い圧を感じていた。


 柏木もそれを表には出さず、冷静に敵の戦力を判断して撤退を求めた。


「紫電だ。勧告を受け入れよう。だが新宿駅の反対側で戦っている仲間がいる。その安全の確保は」


「東京軍所属ではない『アドバンス』たちへの命令権は僕にはない。自分で解決してくれ」


 冷たく言い放つ柏木。


 交渉において最初から譲歩することが屈服を意味することを彼は理解していた。


「わかった。すぐ撤退に移ろう。だがそこに倒れている大男はこちらで回収するぞ」


 柏木は黙ってそれを受け入れた。


 そして──。


「ふざけんな、紫電! こんな奴ら私たちで全員殺せるでしょ!? それからこのコピー女に……」


「君は戦争がしたいのか」


 ルナの屈服にこだわるステラは紫電に食ってかかる。


 手にした拳銃を向ける。彼にとってそれが玩具同然だと理解していても。


「そうか」


 ステラの態度を見てこれ以上の対話は不可能と判断した紫電は、無表情のままステラの首に鋭いチョップを入れた。


 脳が揺さぶられてその場に倒れるステラ。


 ルナや柏木にはその軌跡が見えず、唖然とするしかなかった。


 倒れたステラを引きずり起こす紫電だったが、そこで初めて彼の顔に感情らしきものが見えた。


 ステラが気絶していないのだ。


 陽向に連なる者としての力か、超人的な意志の力か、とにかくステラには意識がまだあった。


「前線を君にばかり任せていて、少し鈍ったか」


「女も殺せない、温い奴……」


 そう言い放ったステラを紫電は引き起こした状態からやや力任せに揺さぶって、今度こそ気絶させた。


 その表情に苛立ちの片鱗が見えたのはルナや柏木の見間違いではない。


「流石は柊の系譜といったところかな……」


 普段陽向と接している柏木だったが、改めて柊の血を宿す者の力と精神力に驚嘆する。


 紫電はステラを肩に担ぎ、意識のない屠龍の襟首を掴んで引きずっていく。


 柏木は彼らを見送ると大きなため息を一つした。


 そしてルナに向き直って言う。


「君の仲間はこちらで保護している。すごいもんだよ。『タケミカヅチ』と現地『アドバンス』を相手取って大立ち回りだ」


 ルナが柏木に近付こうとすると部下の少女たちが一斉に銃口を向けた。


「悪いけど、接触は最小限にと言われている。これはまあ、貸しだ」


「一つだけ質問。あなたは柊陽向の何?」


 柏木は少しの間考えてから、再確認する用に答えた。


「部下じゃあないな。当然友人でもないし、完全な他人でもない。うん、観測者。互いに観測し合う関係かな」


 要領を得ない柏木の回答にルナが困惑していると、武装少女たちに囲まれたアカネと渚が歩いてくる。


 アカネは誰から奪ったのか模造品のような出来のレイピアを手にしており、渚は何度も「念波」を放ったのかげっそりとしていた。


「きっついよ~ルナっち~」


「この剣知ってる? かっこいいよなあ」


 いつもの調子の二人を見て、ルナは少し安心した。


 そして柏木が唐突に告げた。


「新宿平定おめでとう。東京軍はこの新宿区域を正式に『便利屋コロシ部』の管轄と認めた。組織立った『チーム』の多くが壊滅したからね」


「新宿平定……」


 それは東京征服の取っ掛かりとしての最初の目標だった。

 

 地下鉄民を保護し、東京軍への影響を強めるという「自治区」設立に一歩どころか、大幅に前進したのだ。


「撤退する。君が向こうの子(ステラ)より聞き分けがよくて感謝してるよ」


「姉さんによろしくと言っておいて、柏木中尉」


 柏木は曖昧な笑みを浮かべると、彼は部隊を後退させる。


 彼にとって柊陽向との接触は興味深いことの連続だったが、必ずしもいいことばかりではない。


 今回「ヤマト陸軍」に対処させるように柏木を推薦したのは陽向だったからだ。


「命が何個あっても足りないというか、何個あれば足りるか知りたいな。全く」


 ぼやきながら柏木も下がっていった。


「ねえねえルナっち~? これってさあ、つまり……」


「『東京征服大会』の予選……新宿の制圧が済んだってことだよ」


 力の抜け、再生速度が落ちている凛子を引き上げて乗ってきた軍用車まで運ぶ三人。


「ねえルナちゃん……私、副部長としてやっていけると思う?」


「できるよ」


 一日で大きな成長を遂げた凛子にルナは短く、そして確信を持って答えた。


「え? ふくぶちょお? 出世ってことかよ? なあ?」


 そう言ったアカネが渚に小突かれた。




 柊陽向を中心とした謎は深まるばかり。


 だが少女たちは新たな居場所を手にしたのだ。

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