19話 行動開始
「美月、あんたこれからどうするつもりなの?」
亞矢の問いに対し、ルナは何も答えず一点を見つめている。
「コロシ部」の仲間と言葉を交わした後、もう一度映像を確認していたのだ。
チップに記録された映像は、どう見ても陽向と幼いルナだった。
ルナは実験映像の再生が終了し、黒く止まったままの画面からまだ目を離さない。
「美月!」
亞矢が語気を強める。
(私は私。ルナであって柊美月。それは私自身が肯定する。でも、東京を壊そうとする姉さんを守った? 私が東京を壊した?)
クローンという出自を受け入れたルナだが、遅れて自身の犯した罪の重さに潰れそうになる。
ルナの動揺は能力の制御を不安定にさせ、微弱な引き寄せがAショップ店内の商品を揺らした。
「美月なんて人、知らない……だって部長は部長だし、『便利屋コロシ部』の部長はルナちゃんでしょ?」
沈黙を続けるルナに代わって亞矢へ反論したのは凛子だった。
「さっき見たでしょ? この子は柊陽向の妹扱いされてたクローンで……」
「違うよ!」
凛子が大きな声で否定する。
それはルナや渚よりも先に入隊し、凛子を前から知っていたアカネですら聞いたことのないものだった。
凛子の反応に亞矢は面食らい、ルナもようやく画面から視線を外した。
「ううん。亞矢が正しい。柊美月は柊陽向のクローンで、姉さんと一緒に東京を壊した大罪人。みんなの部長をする資格なんて、ない」
凛子が言葉を失う。
訓練生時代も「コロシ部」以降も、何度も折れかかっていた凛子をその都度支えてきたルナが折れようとしている。
それを支える術を凛子自身が持たないと感じたのだ。
「で? なんか次の当てでもあんのかよ。ルナ部長よぉ」
アカネがあっけらかんとして次の指示を仰いだ。
「わからない? 『東京軍』も『アドバンス』が殺し合う仕組みも……作ったのは全部私なんだよ?」
「そうかよ。けどウチは『東京軍』のおかげでクソ親父から解放されてよかったけどなあ。あのジジイ、借金取りと娘を戦わせてたんだぜ? 頭おかしいだろ」
「でも、そういう世界を作ったのが私かもしれなくて……」
アカネは乱暴に頭をかいて、何か言いたげな渚に順番を譲った。
「ルナっちさあ。何か勘違いしてるよ。じゃあルナっちがこの世界そのものに責任を取るの? それは違うっしょ。悪い奴らが悪いことをしてきただけ。アカネの親だってそう。その結果がこの世界なんだから」
「あーそれ否定できねぇー」
アカネが顔を歪めてぼやいた。
「だからって私が、柊美月がそのきっかけを作ったことには変わらないよ」
「べ、別人!」
突然声を上げた凛子に視線が集まった。
「え……?」
「そう、別人だよ。だって部長に記憶がないのに責任があるなんて話、おかしい……。部長がクローンなら他にもそういう人がいるかもしれないし、やっぱり映像の部長と『コロシ部』の部長は別人のルナちゃん……じゃない美月で、あれ?」
途中で話がこんがらがった凛子を見てアカネと渚が笑う。凛子の耳が赤くなった。
そして凛子の言い分を聞いて一つだけ思い出したことがあった。
「柊星来……」
「はあ? 陽向と美月だけじゃないの? あんたら何なの、マジで」
「ホントにいるんだ。ルナっちシリーズ……」
驚き呆れる亞矢と渚。
(私が姉さんのコピーだったら、あの子は一体何者なの?)
確かに映像でルナは陽向への銃撃を防ぎ、東京の破壊に加担していた。
しかしその記憶は既視感すら覚えないほど、完璧に消し去られている。
彼女が記憶している陽向とのやり取りは全てガラス越しだったからだ。
つまり本来ルナの持つ記憶は事件以降になる。
記憶のないルナに過去を思い出させるという行為と、どこにも記録のない星来という存在。
ルナは何者かの意図を感じずにはいられなかった。
「姉さんに直接確認する。でも、みんなを巻き込むわけにはいかないから『コロシ部』は一旦お休みにして……」
「意味わかんねえ。投げ出すのかよ、東京征服」
ルナの胸倉を掴んでアカネが凄む。
「そんなに世界だの『アドバンス』だのに責任感じるならお前が変えろよ。ついでに東京征服もして……いや世界がついでだな。なあ先輩、渚」
凛子と渚が頷いた。
「でも聞いてアカネちゃん。もう十分私の事情に巻き込んじゃった。だからね……」
「やだね。それにしてもバッカだなあ、ルナらしくねえ。だったらウチらは生まれた時から巻き込まれてんだろうが」
「そっか。そうだね……今さらだ。それに東京なんか簡単に獲るくらいじゃないと、世界なんか変えられないよね」
アカネなりの叱咤激励でルナはどこか吹っ切れた様子だ。
ルナの言葉を三人が待っている。
「やっぱり獲ろう。東京」
「えっと部長、じゃあ次の目標は……?」
ルナが元通りに戻ったか不安な凛子が恐る恐る問う。
「もちろん『極殺』不在の新宿平定から」
自信を取り戻した様子のルナの肩をアカネが小突く。
渚が小さく片手を挙げて待っているのでルナも手を挙げてタッチする。
(私が世界を作り直す。贖罪でするんじゃない。姉さんの放り出した世界を、私が作り直して完成させる)
仲間たちの存在によって立ち直ったルナを見て、決心した亞矢が告げた。
「あんたにしか頼めないんだけど。新宿が無事平定できたらここの人たちを連れ出してくれない?」
地下鉄は安全な場所だったが、それはただ奪うべきものがないからだ。
地下の住人の栄養状態は悪い。
「じゃあ、さっき払うことにした迷惑料二百万クレジットから報酬分を引いて地下のみんなに分配して。ここの人たちにも迷惑をかけたし依頼料だと思って」
「ったくホント切り替えが早いんだから」
覚悟の決まったルナを見て、亞矢は報酬分を含めた二百万クレジットの全てを地下住民のために分配することを決めた。
それは地上に移住して生活が安定するまで、当分皆が暮らせる額の金だ。
「『便利屋コロシ部』行動開始!」
ルナの掛け声と共に、仲間たちがAショップから駆け出して行った。




