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第5章 闇の中の光

「最近、紬ちゃん来ないんでしょ?」

 

 移動教室の時、沈んだ表情の私に通りすがりの磯良姉ちゃんが話しかけてきた。磯良姉ちゃんは1学年上なだけとは思えない程しっかりとしていて、私の相談にいつでも乗ってくれるから血縁関係はないけど、親しみをこめて〝磯良姉ちゃん〟と呼んでいる。

 

 「うん」

 

 もう薄々気づいている。学校には風邪だと言って休んでいるらしいが、今日でもう2週間。紬は不登校になったんだ。きっと紬が先生に菜穂花のことを言った日の帰りに何かあったんだろう。先生に信じてもらえなかった?まぁ、考えても無駄か……

私は昨日紬の家に行ったが、紬のお母さんから今は誰とも話したくないという風な伝言を伝えられた。

今まで菜穂花にいろいろと立ち向かえていたのも紬っていう存在があったからだし、紬と一緒なら

何でも乗り越えられるって思ってたからだったのに。これじゃあ、私だけが1人で菜穂花たちからいじめられなきゃいけないんじゃん。それでも紬のことをいつまでも守るという気持ちと、一人で逃げるなんてズルいと いう気持ちが心の中でせめぎ合う。

 

 「紬がいたから、学校楽しくなったのに……」

 「夢來ちゃんは紬のおかげで本来の紬ちゃんになれたんでしょ?だったら、今の紬ちゃんの状況は

 周りに心を開く前の夢來ちゃんと同じ状況なんじゃないかしら?」

 

磯良姉ちゃんも小学生時代に同じような経験をしたらしい。だからたまに怖いくらい率直に図星な意見をされる。

 

 「そうかもしれないけど……」

 「でもさ、紬ちゃんが夢來ちゃんの心を開かせてくれたんでしょ?だったら、今度は夢來ちゃんが紬ちゃんの心を開いてあげようとすればいいんじゃないかしら?」

 「でも、私にはそんな行動力ないし」

 「自分に自信を持ちな!最近はだんだん元の夢來に戻って来たけど、幼稚園の時のヤンチャな夢來とは

 違うよ‼」

 

 いつもは夢來のあとにちゃんを付けて呼んでくる磯良姉ちゃんが今は夢來と呼んでくる。

 

 「幼稚園の時とは違うんだもん。」

 「でもさ、私が6歳の時、夢來ちゃんと遊んでたら大型犬に襲われたことあったでしょ?

 で、私に大型犬がとびかかって来た時夢來が迷わず私の前に体を張ってたって、私をかばってくれたじゃん」

 

 だから、と磯良姉ちゃんが私の両肩を持つ。

 

 「夢來ちゃんなら出来る!私は信じてるよ」

 

 磯良姉ちゃんのガッツポーズが私の記憶をよみがえらせた。

 磯良姉ちゃんが大型犬に襲われた時私がその間に立ちはだかった。それでも、磯良姉ちゃんは犬に引っかかれてしまった。私が病院に行こうと言って近くの川城総合病院まで磯良姉ちゃんの手を引いて歩いた時があったでも、途中で磯良姉ちゃんがもう無理といって泣き出してしまった。その時私がしたのがガッツポーズだった。

 

 「あとちょっとだよ。頑張って!磯姉なら出来る!」

 

 あの時のことを磯良姉ちゃんは覚えてたのだろうか。幼稚園の頃の私は無邪気そのもの。あの頃は周りの気持ちを考えなくて困らせることもあったけど一番楽だった。

 

 「ありがと、磯良姉ちゃん」

 「そうそう、そういう夢來が好きだよ~」

 

 磯良姉ちゃんが頭をなでなでしてくれる。

 

 「ん~!磯良姉ちゃんったら!」

 

 磯良姉ちゃんはペロッと舌を出すと手を振りながら走り去っていった。

 でもどうやったら、紬が心を開いてくれるかな。もう1回紬の家に行く?いや、前みたいに追い返されるだけ。じゃあ、プレゼントを渡す?プレゼントの隙間に私のLINEのIDを書いた紙を挟んどくとか。うん、いいね。LINEをもしつないでくれたら、そこでLINEを送ろう。そうしたら面と向かってじゃなくても紬の心を開けるかもしれない!

 ………………………………………………………………………………………………………………………………

 「紬、夢來ちゃんが来てるけど……」

 

 ドア越しに続く会話。ここのところ家でも引きこもりになっていてまともに人の顔を見ていない。

 自分でもどうすればいいのか分からなかった。夢來には会いたいけどあった時にどう対応すればいいのかも悩んでしまう。菜穂花との間にあったことは親友の夢來にも言いたくはないのだ。紬はお気に入りのウサギの人形〝マロ〟に抱きついた。マシュマロみたいにふわふわだからマロ。マロに抱きついた時だけは、この上ない安らぎを感じるのだ。

 

 「紬、どうするの?会うの?会わないの?」

 「……会わない」

 「そう」

 

 ドアの向こうから小さなため息が聞こえる。分かってるよ、迷惑かけてるんだって。でも、自分でもどうしようもないんだから。マロ……

しばらくして、もう1回ドアのノックが鳴る。夢來、帰ってくれないのかな。

 

 「夢來ちゃんが」

 

 ああ、やっぱり……

 

 「紬にプレゼントを持って来てくれたみたいだから、もらってあげて?」

 

 え?帰ってくれないんじゃないの?心があったかくなった。私のことを思ってくれている。

 

 「外に、置いといて」

 

 ちょっと興奮して声が上ずった。コトッという物音が聞こえドスンドスンとママが階段を下りる音が聞こえたドアを開ける。花柄の紙袋に金色のシールが張られていて、雨に濡れないようにか周りにはビニール袋がかぶせてある。ビニール袋を外し、紙袋に貼ってあったテープをはがす。中から出てきたのは私の好きな〝きのてん〟というキャラクターのキーホルダーだった。私、きのてんが好きだって言ったっけ?タグを見ると思いっきり値段が書いてあるシールがついてある。

 2080円……値段のタグは切ってください‼っていうか人にものをあげる時は値札を外すって常識じゃないの⁉紬はクスっと笑ってしまった。こうやって笑うの久しぶりかも。元気だったときは不登校の子ってどういう気持ちなのかなって思ったこともあったけど、案外無心だな。ぼーッとしている間に一日が終わってる、みたいな。入ってるものはこれで終わりかな。紬が袋をひっくり返すと、ぺらっと一枚の紙がひらひらと落ちてきた。夢來からの、手紙だ。読みたくないけど、読みたい。いったいどういう感情なんだろう、これは。もし、夢來が菜穂花にいじめられている、とか書いてあったら、それは私の責任だ。もっと自責してしまって、立ち直れなくなってしまうかもしれない。でも、せっかく夢來が書いてくれたんだから。紬はゆっくりと折りたたまれた手紙を開いた。

 『つむぎへ 紬が最近全然学校に来ないから寂しいよ。私のLINEのIDを書いとくから、もしよかったら繋いでみない?話せる範囲でいいから相談してくれたら、私で良ければ相談相手になるからさ。私、口は堅いから心配しないで相談してね』

 LINEかぁ。つい菜穂花とのLINEを思い出してしまう。でも、LINEなら直接会わなくても相談できる。

 ID:Line.yura.@.co.jp 私は友達追加画面に行き夢來のIDをいれた。確定のボタンを押す。夢來さんと繋がりました!という通知が来る。本当につないで良かったのだろうか。私が相談をしても、夢來が困るだけなんじゃないの?

 ポスッ。突然、夢來からLINEが届いた。

 『紬!待ってたよ‼』

 なんて返せばいいんだろう。さりげない感じが1番だよね。

 『夢來、久しぶりだね』

 『プレゼント、喜んでくれた?きのてん、好きだよね?』

 『うん。すっごくうれしかった。何で夢來は私がきのてんが好きって知ってるの?私言ったっけ?』

 『ひーみつ!分かるよ、親友だもん』

 LINE上だけど夢來と直接さりげない会話をしているような感覚。もっと元気になって来たらテレビ電話しようかな。

 『夢來、ありがとう』

  

突然登場しました!宮本磯良、通称磯良姉ちゃん。

皆さんはどのキャラクターが好きですか?

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