エピソード 12
何で中国語を第二外国語に選択したのかと言えば、それは英語が嫌いだからで、漢字に似ているからきっと理解も早いだろうという浅はかな考えからだった。
僕は今とても後悔している。
英語の比じゃないくらい難しい。何しろ聞き取れない。トモミが「チャイ語は向いてない」とぼやいていたけど、僕も全く同じ気持ちだった。講義中イチカワさんは熱心にノートをとっていて、トモミは全然関係のない文庫を読んでいた。僕はといえばテストで困らない程度に講義を聞いているだけで決して熱心な学生とは言えなかった。
「イチカワさん、いつも真面目に講義受けてて偉いよね。全然休まないし」
僕は向いに座るイチカワさんに言った。
「そんなことないよ。さっきもね、ちょっとだけ眠くなちゃったの」そう言ってイチカワさんはフラペチーノを飲み込む。
僕らは渋谷駅のスタバにいた。
店内は少し騒がしくて、僕は慣れない場所に居心地の悪さを感じてしまう。
トモミはいない。
言い出したのは彼女だったのに、渋谷駅に向かう途中で友達が家に来ることになったと一人帰っていった。
残された僕らは顔を見合わせた。イチカワさんはいつも通りちょっと困った顔をしている。
「イチカワさん、折角だしちょっとスタバ寄ってかない?」
僕と二人じゃ嫌かなと迷いもしたけれど、そう提案するとイチカワさんは少し微笑んで頷いた。
そうして僕らは向かい合わせにソファに座り、僕はコーヒーを飲み、イチカワさんはフラペチーノを飲むことになった。
「実はさ、俺スタバって初めてなんだよね」
僕は少し声を小さくして言った。カワベもコヤマも煙草を吸うから、一緒の時は禁煙のスターバックスに入る選択肢はない。僕はと言えばドトールで十分だし、お金があればルノアールに行きたい。最近緑色のあのグッズを持っている女の子を大学の構内で見かけることがあって、お洒落っぽくて流行っているんだろうなとは思っていたけれど、僕はそんなものには興味がなくて女の子と二人こうしてコーヒーを飲んでいるのは不思議だった。
「私も初めて来たの」そう言ってイチカワさんがフラペチーノをまた飲み込む。
「来てみたかったから嬉しい。一人で入る勇気なかったから。これ甘くて美味しい」そう言ってフラペチーノを持ち上げる。よほど気に入ったんだろう。
「わかるよ。初めての店ってシステム分からないしね。さっきさ、注文する時もトールサイズって何だよって思った。受け取る場所も分からないしさ」
「うん。オカベ君がいてくれて良かった。私一人だったら、きっと挙動不審な人になちゃってたよ」
「いやいや、俺もオロオロしてたけどね」
僕の言葉にイチカワさんは笑う。
あれ、イチカワさんと話してるのってこんなに心地よかったけ。優しくてゆっくりした空気が流れていく。イチカワさんは両手でフラペチーノを持って小動物みたいに飲んでいる。
「ん・・?」
見つめてしまっていたことに気がついて我に返る。僕は気まずさを感じながらも言った。
「また、フラペチーノ飲みに来ようよ」




