しゃりしゃりと踏む
荒れてたのにー すいません生三つー 整形したー?
にぎやかな空気が同窓会を包んで皆々の表情も朗らかである。そして僕も頗るニコニコしながら旧知の今を聞かされているところだ。
「おれ高校のときとか金髪にしちゃってピアスもやっててさぁ、でも流石に大学生になってからは世を知ったっていうの?黒髪センターパート『どしたんはなしきこか』っつってさぁーw」
全くこの男は変わってしまった。中学の頃は話が面白かったのに、今はしょっちゅう織り込まれるユーモアが面白くなさ過ぎて溝が広がっていく…こんな尋常でない喪失感に悶える羽目になるとは。弱ってる女子とのワンナイトを狙うだけの下賤な男(俗称『どしはな』)に成り下がった姿を見たくなかったな。そんな風に考えながら、僕は適当にへえ、とか、ええ、とか相槌というより鳴き声みたいな言葉を発して傾聴に持していた。
「しかも俺と付き合った女皆俺のマネしだしっちゃってさぁ」
…?なにか状況がシュールで数秒理解に戸惑った。けど、流石に聞き流せなかったので之に言及した。
「女の子が『どしはな』になったの?ほんとに?w」
彼は虚を突かれたような顔をして
「マア雛は親鳥のマネをするみたいな感じじゃね」
と捲し立ててしまった。あれ、こいつ嘘ついてる?そう思いついたら可笑しさが止まらなくなって。
「絶対嘘じゃんw」
と言ってしまった。見る見るうちに彼の顔はふてぶてしくなっていき、さっきまでのは虚勢だったのかと
僕は腹を抱えてのたうち回った。僕を見つめる目が画鋲の如く鋭くなっていく彼の瞳を見据えてもう一度問いかけた。
「で、ほんとはほんとは?」
そして僕の高揚さに腹を立てたのだろう。彼は舌打ちを打ってそのままトイレに逃げ込んでしまった。ああ、帰ると伝える覚悟がないからせめてもの避難場所に便所を選ぶとは、をかしげなり!…しかし僕には旧知と言える者は彼しかいなかったから暇になってしまった。どうしたものだろう。仕方がないので僕はスマホを開いて動画を見ることにした。酒を愉しめる耐性があったなら僕にもこの暇を平らげられるくらいの余裕があったというのに。だが本質的に『逃避してる』という行動に差異はないし、どのみち彼を侮辱することはできないな。そして僕はイヤフォンをつけて…
「あれー高橋君?」
この機を窺っていたように横から丁度良く声をかけられた。内心跳梁跋扈しながら平静と受け答える。
「ん、うん。…佐々木さんだったっけ?」
「そうそう!覚えててくれてたんだー」
この人は陽キャ陰キャ分け隔てなく接せる丁度良い顔面偏差値を賜って降臨した人間の申し子。中学生のころまともに女子と話そうとしなかった僕にも積極的に話しかけてくれて、とても春が高鳴っていたのを覚えている。燻ぶった青春を萌芽させる天照。中学生の頃の僕は、恋敵でもあった旧知と彼女の懐柔案を議論していたものだ。しかしなぜだろう、今彼女の姿を見ても何の震撼もない。凋落か成長かー何事も無常なんだなあと思っていると佐々木さんが
「てかスマホで何聞こうとしてたの?」
と問いかけて来た。何を聞くかすら想像もしてなかったから適当に拵えることにした。
「あー、この間流行ってた『ボンボンもつらいの』のセルフエコー版」
彼女は活路を見たような明朗な顔を見せて、頓に奏でた。
「『夢を見ることありません♪かみなしで烏合しか見れません♪』ってやつでしょ?私tiktokで踊り狂ってたーw…それのセルフエコー?」
「なんか懼勿金さんが山で歌ったらしくて、山彦でエコー掛けてやったらしくて」
彼女はろうたげに笑って
「めっちゃ谺しそーw」
といった。愉しそうな人を見ると触発されてこちらまで気分が上々する。共鳴した笑いが僕の怯えた心を揉み解していく。そうだ、いくら中学のころ友達じゃなかったからと言って皆に怖気づく必要はなかったんだー敵じゃない。佐々木さんとの打ち解け合いで発見した勇気を最大限この同窓会へ還元するぞと拳ながら彼女との会話を弾ませた。するとその会話にもう一人入ってきた。
「なんのはなしー?」
この人は前島さん。中学の頃は界隈の違う所に生息していたから授業中の寝てる姿しか思い出すものはない。だけど多分佐々木さんの友達なんだろう。佐々木さんが前島さんに事のあれこれを語った。すると前島さんは興味深そうな顔をしてこちらを振り返ってきた。
「高橋って俗な曲聞いてんの?!めっちゃ意外~」
皮肉に聞こえる物言いだと一瞬思ったが、快活であった僕は物騒な雰囲気を醸さず彼女に返答出来た。
「うん、例えば『パワフルエビデンス』とか最近流行ってるよね」
そして僕のこのパワフルな知識を拝むような表情で
「え、高橋なんか変わった?」
と応えて来た。マア佐々木さんへの片思いも成仏したし変わったんだろう…という風にして否定したい気持ちを堪えて、ウーンどうだろうwと曖昧に応じてみると、これに鼈のように食い付いてきてーというか饒舌になんか語りだした。
「いやぁ、私高橋は変わると思ってたのーなんか頭よかったじゃん?でもコミュニケーション取りにくかったからープライドあったと思うんだよね。で、多分高校のころ多分皆の学力の高さで自己嫌悪がやばくなっちゃってーそれでプライドが消えたと思うの。私高校が一番人間を形成する段階だなって思っててーだから私昔こんな感じじゃなかったでしょ?私高校のころー」
何を言ってるのかよくわからない…いや、わかろうとできない…一生の不覚。社会にはこんな化け物も潜んでいるのか。良性の部分しか見れてない楽観的な解釈は簡単に打ち砕かれて、僕の心は絶望に臥すようになってしまった。魂が腑抜けてる間にも、彼女の口数は雨足のように増長されていく。もうやめてくれ、魂を地獄にまで堕とさないで下さい…。だが僕もれっきとした大人だし、『どしはな』と同じくらいの嫌悪感しかないので彼女の言葉に鹿威しの如く頷いていた。
「だから私っていまこんなに落ち着いてるっていうかーもともとこんなにクールしてなかったからーだからやっぱ拉麺と卵のトッピングって別にー」
彼女が閉めようとしたその矢先、或る声がした。
「どうしたの」
『どしはな』再来。流石に便所に立て籠もるのは困難だったか…そもそも今いる店は共有トイレが一個しかないから退去を命じられること必至なのだ。だが先ほどの調子と比べて結構落ち着いている気もする。漸く素直になれたか、とカツ丼を貪る被疑者へ向ける慈愛の念を彼に向けた。が、それ以上に前島の自己表現が群を抜いていて猪突猛進、勢いをブーストする為だけに彼に呼びかけた。
「あー!小島じゃーん!えー同窓会来てたの?」
「うん高橋からの紹介を預かって、高橋も行くなら俺も行こうかなーみたいなノリで」
端から見れば尋常でない温度差だが、ゾーンに入ってしまった前島は気づく由もなく、怏々としてパサパサの話を具にべちゃくりだした。しかし彼の目にはコジマ二ティーが取り戻されていて、救済を受託する菩薩のような心持であるのが見て取れる。愚者と小島の光明が判然としてきたな。なんて思ったことを佐々木さんに話してみた。
「なんかあーゆー人だったの?前島さんって」
彼女はははは…と苦笑いをして
「酒飲んじゃうとああなるのかな…てかもともと影響受けやすい性格だから、なんかあんな感じのなんかを見たんじゃないw?」
「あー影響受けちゃう…でもなんかわかるかも…」
実際今の自分が同窓会メンバーに対して敵意を向けなくなったのは彼女に影響されたからでもある。と思っていると急に高橋が立ち上がって、大口を開いた。
「みんな盛り上がってるー?」
え?なになになになに。彼女は右手にビールを掲げている。イッキ?もしかしてイッキするのか?あまりにも突然の出来事だったもんだからちょっとした悲鳴も上がっている。…悲鳴を上げる程か?と会場はさらに困惑の色が濃くなっていく。も適応能力の高い男たちがクレッシェンドのバイブスを高橋に掛けていった。がしかし全く彼女はそれに応答せずまだ満を持してないというような面持ちでじっと佇む。次第に場内は珍妙な静まりを見せて高橋に脚光を向けることとなった。
「三年四組最高ー!」
彼女はマネキンくらい同じポーズをしたまま応援団長みたいな声量で応援団長みたいな台詞を吐いた。皆が困惑の呈そうを示しているのにまだ彼女は無視して叫ぶ。
「高校の方が最高だったけどー!」
ーその瞬間。プレートから数えて十万キロにも及ぶ巨大な氷塊が地球を凍結させた。
あれ…?
やば、めっちゃ滑ったかな。エグ。皆凍り付いたみたいに止まってて汗止まんない。Nウォームで寝てー!
「…ってのは冗談なんだけどねー!」
…ほんとに動かない。もしかしてこのタイミングで超能力覚醒した?時止まってる?しかも、視界がサーモグラフィーみたいになってて、めっちゃキモイ…なんかみんな無色透明なんだけど。そういえば隣の客室からの談笑もしんと静まり返ってる。私は気になって、隣の部屋へ通うづる襖を開いてそこを覗いてみた。うわ、やっぱりみんなちっともうごかない。時計の針も、動いてない。何が起こってるんだろう。取り敢えず私は元居たところに坐って、この超常現象が解消される瞬間を待つことにした。そして数分経ってあることに気づいた、スマホが使えない。漫画とか読めたら無限に時間を潰せたのに…。また数十分立ってあることに気づいた。食べ物がカッチカチ。解凍しきれず氷菓のような噛み応えがする感じじゃなくて、氷の礫を嚙み砕いてるようなーとりあえず咬筋がヒリヒリする。何時間かたってあることに気づいた、時計の針の音がいい脈拍を取っていて歌唱するのにちょうどいい。これから歌を歌って暇をしのごうと思う。
幾何かの時間が経ってあることに気づいた、お腹が減らない。もう何度も何度もこの居酒屋で熟睡したほど時は経っているにも関わらず私の食欲ー及び三大欲求はすべて無に等しくなっている。(先ほど述べた熟睡とは、暇を紛らわすための疑似睡眠のことを指す)つまり、体力が無限にあるのだ。退屈なこの状況から脱出しようと私はやっと外へ出てみた。ああ、やはり道行く人々は硬直している。私はマネキンのように同じポーズをする無色透明なそれらを通り過ぎながらいろいろな場所に旅をしようと決めた。時間の猶予は悠々とあるんだ、静止した川を歩いて、丘を登り、海を見た。地平線の向こう側には何もないと錯覚してしまうくらい、あの先が真っ白だ。そうだ、突然発生したこの超常現象の謎を究明するためにも、世界を歩き回ろう。そう決めて、私は海を渡ることにした。広大すぎる海は、退屈で圧倒的だった。潮流と魚影とカモメ、ノイローゼになりそうなほどパターン化してる変化を感じることだけが私の娯楽になっていた。どこに向かっているかもわからない。やめたい気持ちもある。でも、私は高校のころ、諦めるのはダメだって決めたから進まきゃいけないんだ。水面をしゃりしゃりと踏む。そして進む。己を鼓舞するために。徒然なるままに鮮烈な記憶を脳内で綴りながら。
高校のころ私はバトミントン部に入った。中学のころからバトミントン部に入っていたので、同期の人たちと差をつけられると思ったのだ。優越感を得るために入った部活は初め何の障害もなく、私の貪欲な肯定感はトプトプと満ちていったのを覚えている。そして高校一年生の総体で、私は見事選手に選ばれることとなった。まさか二年生をも凌駕してしまう程私の能力は卓越していたのか、と浮足立った気持ちが私を油断させた。だから大会当日、私たちは初戦で敗退した。私は井戸の中の蛙だったのか。今まで調子よかった私の天狗の鼻をへし折られたショックは大きく、バトミントンをするモチベーションが消え失せてしまった。元から自分を肯定するために入った部活だったんだから負けたら意味ないじゃん、なんて思って私はどんどん部活には行かなくなった。だが、しばし部活をやっていないと、やることが無くて苦痛になるものだ。あと親からの勉強の催促にうんざりして、気晴らしにでもバトミントンしようかと、私は久々に部活に顔を出してみた。皆からどうして休んてたの、と素朴な口調で祝福されたのがまた私の優越感を満たしてくれた。「ああそうだこれだ」そうして蠢いてきた自信に操られて、同期のメンバーに練習しようとコートの中に誘った。そしてラケットを握って触感を思い出す、地面の感触も暖かく私を抱擁して…私はかつての自分と同調しているイメージを作り上げた。ブランクなんて一切なかったと脳を騙して気を整えていると、向かいの相手がサーブを軽くこなし、試合が開始した。シャトルに体を引っ張るようにして球を返す。しかしいつもの調子がまだ出ていない。相手はさえないとこに返して、私は簡単に弾き飛ばした。まだまだ余裕だ。しかし、違和感がある。ふつう私とのラリーは大体二度目返した時に相手が追い付けなくて終わるんだけど、こいつ、中々ついてくる。相手はまた返して、私もまた打つ。また返す。打つ。段々相手のシャトルの軌道が良くなってきた、フィールドを大きく動かないと返せなくなってきている。打つ。打つ。だんだん私のシャトルの方が冴えなくなってきた。打つ。打つ。打つ。相手の操作するルートを私は無意識に追従するようになって、打つ。そして相手が…と思われたとき、遂に体力の限界が来て、あえなく試合は終了した。絶望に拉がれながらネットのそばに寄る。相手は友達みたいな面をして「ナイスプレー!」と励ましてきた。瞬間湧いてきた嫉み、殺意、嫌悪。そしてそれらを圧倒的に虚無へと押し流す敗北感が私の胸底に溜まって「ありがとう」と俯いた。確か彼女の名前は佐々木。私はベンチで待機していた人と入れ替わって、入れ替わりと佐々木の試合を呆然と眺めることにした。ーこんなことになるなら、もう来なければよかった。悔しくて、死にそうになる。それから私は佐々木に勝つためだけに部活に行った。あいつに追いつければ、私はスランプから脱却できると信じていたから。そしてひたすらに打ちまくった。日に日にレベルは向上して、かつての自分さえも超えていたと思う。なのに佐々木との勝負では一回も勝てなかった。佐々木だけではない。歯牙にもかけてなかった同期のメンバーにも、勝利する回数は減っていった。だから私はこの頃から才能に疑念を抱くようになったのだ。だから、その可能性を振り払うために何度も打って。腕を振って、悪夢を振り払おうとした。そうして、セミの鳴き声がけたたましく響き渡る季節になったころ、また総体のメンバーが発表されることとなった。何百回も練習した。きっとこの空間にいる誰よりも研鑽した…しかし、悪夢は振り払えなかった。私はスタメンから外されて、補欠として入ることになった。この悲報を聞いてから、私はラケットを握る握力も気怠く感じ、また部活から逃げてしまった。私がスタメンから外されたのは、初戦敗退したあの日から部活をさぼったツケだったんだ…私には才能はあったんだ。だのに、あの日から皆に取り残されてしまったせいで、揮った結果を出せなくなってしまった…そう思うようにしている。だから、私は諦めてはいけないことにした。
とどうでもいいことを考えていると、今まで何もなかった地平線の向こうに、影が見えた気がした。どこの国だかわからないが、やっと陸地に足をつける。そう考えただけで、私は高揚した。そうして漲った力で私は夢中に走った。徐々に鮮明となっていく島は真白で、雪国だった。そして目を細めると、どうやら粉雪に眩まれてる小屋がある。海ばかりを渡って、人恋寂しくなっていた私はそのまま小屋の中に入ってみることにした。
「おや、お客さんかね」
「え」
突然の呼びかけに戸惑ってしまった。なんでこの人動けるんだ。しかも平然としてるし…いやそれ以上に、なんか…
「サンタクロース、さんですか?」
「ええ」
小太りで赤い服を着た、白髭の老人は朗らかな笑みを私に向けた。
「君が、今年の悪い子ですか」
「え?」
困惑する私に、実はと言って話し始める。
「全盛期のころの私は難なくクリスマスプレゼントの置き仕事をできていたのですが、百年位前からどうも体の自由がきけなくなってしまって、お手伝いさんを作ることにしたんです。そしてそれから、その国の中で最も悪い子だった人には、同じ国の子供たちにプレゼントを置く仕事をしてもらうようにしたんですよ。」
「え?」
まだ状況が掴めていない。だが些細でもこんな状況も受け止めてしまっているのは、海を渡ったことによる、諦観の発達だろう。いや、というか、海また歩かなきゃいけないの?悄然とした思いが心を蝕んでしかたない。そして、異論がある。
「でも、殺人犯とか、詐欺師とか…とにかく私以上の極悪人ってもっといますよね。なんで私なんですか」
余裕がなさ過ぎて、初対面なのにきつい言い方をしてしまった。しかし、サンタクロースは何かを思い出したかのように宙を見つめ、そして私に目線を戻した。
「すいません、説明不足でしたね。『悪い子』というのは、法で罰せなく、クリスマスまでに観測された最大値の悪童力が100以上の人を指します。悪童力とは、例えばマナーを守ってなかったり、誰かの陰口をたたいたり…つまり、人が嫌がる行動をとってしまうとその分加算されるのです。大人数の前なら、なおさら…」
…思い当たる節は確かにある。にしても私?たかだかあの一言で悪童力優勝?私って嫌われてたのかな…
「じゃあ、私がプレゼント配ればこのフリーズした世界も動くんですね」
「そういう事です」
そしてサンタクロースは後ろを振り返っておい、トナカイ。とインフラを呼びつけた。私はサンタの風呂敷を投げつけられ、ではお行きなさい。と小屋の外に追い出されてしまった。しばらく待っているとジングルベルの音色が空から近づいてきた。首輪にベルを使たトナカイが地上に降り立ち、呆気にとられていると、ソリの上に乗れよと言わんばかりに膝をついて私の顔を睨みつけてきた。どうやらこっちもプレゼント配りは本意ではないらしい。そそくさと私はソリに乗って、肩見狭く日本まで空を渡るトナカイを見ることにした。それから数日たって日本に到着して、漸く私のプレゼント配りが始まった。そして日本の領域内に入ると視界がサーモグラフィーみたいな見ずらい状態になった。…ああ、これってサンタの力だったんだ。無数とある家から沢山の情報が入ってくる。無色透明の人は大人、赤色は既にプレゼントをもらってる、青色はまだプレゼントをもらってない。そして、青色の人影の隣にはほしいプレゼントが書いてある。という具合に。そして私は早速、プレゼント配りに取り掛かった。数万件の家を回って体力の大切さをひしひしと感じた。この与えられた力はプレゼント配りがより効率的になるようできたものだったんだ。とささやかに感謝しながらプレゼントを捌いていった。なんか、いろんな家族見てるとみんな人生があるんだ、っていう実感がひしひしと湧いてきた。当たり前だし、論理的には知ってるんだけど、漠然と解ってきた。人間は、豊かで面白い。海を見てるより、ずっと変化が多様で見応えがある。そして、私もそんな変化の一部分なんだ。何百時間もたって私がプレゼントの仕事を終えたとき、世界は進行した。そして私は、元の居酒屋に戻っていた。周りからの目は冷たくて軽蔑の色が滲んでる…でも、まあいいよ、そういう色だ。
「皆のこと思い出せるから!」
私はビールをイッキした。
だってさ