第三話 「張り付く」
母が家を出て一月もせず、引越しをしたのを覚えている。元々兄を含めた4人で暮らしていたのだから当然手広に感じる。最早住む理由もなく、学区の変わらない範囲で引越しをした。
引越してすぐ、父は僕を学童保育へと入れさせた。授業後に児童を預かり、所定の時間に集団下校させる託児所的なアレだ。
学童保育に入ってすぐに友達が沢山できた。僕は『仮面』のおかげで僕であり続けられた。
仲良くなった子の1人に、理子という女の子が居た。理子は引っ越した家のすぐ側に住んでいて、他の子と比較しても一段と仲良くなった。登下校も共にし始めた。
僕は何を血迷ったか、理子に僕の家庭事情を話した。ほんとうに、なんでそうしたのか覚えていない。誰かに話した方が楽だったと考えただろうか?
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あの日、と母のいない朝、を経て僕は内心、荒れていた。当然のことだろう?小一で両親の離婚を経験した上に最低最悪なシチュの母親の姿が頭にべっとりとこびりついている。荒まない方が可笑しいとも言える。
けど外面は違う。
内面では絶望 失望 別離 いくつのもの哀しみを潜ませながらも、『仮面』を被り、気丈に振舞った。
理由なんて何も覚えていない。ただそうしないといけないと思ったんだ。思ってしまったんだ。
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僕はまるでさも当然のことかのように理子に
「俺母親いないんだよね。離婚してて」
と言った。
最初理子はなんの事か理解していなかった。当たり前だ、普通の小一の辞書に離婚なんて言葉は無い。
僕は離婚が何を意味するのか、1から、いいや0から100まで全て懇切丁寧に伝えた。
忘れもしないあの表情。
理子は僕を哀れんだ。
仮面が深く、深く張り付く気がした。