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99人の勇者と平民の俺  作者: 甘党むとう
『99人の勇者と平民の俺』
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第8話 スローライフを!

「どうして、火が怖いんだ?」


 俺は興味本位で聞いてみた。

 桜は少し、表情を曇らせた。


「いや、話したくないならいいんだ。

 踏みこんで聞いて悪かった」

「いえ、大丈夫です」


 桜は一呼吸おくと、決心したのか話し始めた。


「私は生前、強盗にお姉ちゃんを殺されたんです。

 わたしを殺そうと刃物を向けてきた強盗の前に、お姉ちゃんは立ち塞がりました。私はお姉ちゃんのおかげで、家から出て助けを呼びに行けました。無我夢中でした。でも平日の昼間で誰もいなくて。私は交番に駆け込みました。

 ですが、戻った時にはもう……家が、燃えていたんです。あの時の火が頭から離れなくて。あの中でお姉ちゃんが燃えていると思うと、もう震えが止まらなくなって」


 ぎゅっと自分の腕を握る桜。


 なんて声をかければいいか分からなかった。

 かわりに何の事情も知らず、炎が怖いという理由だけで桜を置き去りにした、あいつらへの怒りがこみ上げてきた。


 桜が大きく息を吐いた。


「すいません、こんな重い話をしてしまって」 

「いや、こっちこそごめん。気軽になんで火が怖いんだとか聞いて」 


 自称神はなにをもって桜にこのスキルを与えたのか?

 あいつをぶん殴る回数が、俺の中でどんどん増えていく。


「お姉ちゃんじゃなくて、私が刺されたらよかったんですけど」


 力なくハハッと笑う桜。

 その表情をみて、俺は胸が締めつけられる思いだった。


「いや、お姉さんは君のことを救えて嬉しかったと思うよ。

 何にも知らないやつが何言ってるんだと思うかもしれないけど、それは間違いないと思う。それに、後悔されるより感謝されるほうが嬉しいだろ。君が生きているだけで、お姉さんは喜んでるさ」


 この辛さは本人にしか理解できない。

 決して、他人が共感できるものではない。

 だが、妹を守った姉の行動は報われるべきだ。

 それだけは、たしかだ。


 突然、桜の目から涙が溢れ出した。


「ごめん! 部外者なのに分かったようなことを……」

「違うんです。そんなこと言われたの、初めてだったから。

 お姉ちゃんは私と違って、美人で明るくて、優しいなんでもできる人でした。

 モデルもしていたんです。だからあの事件の後、周りからはなんで死んだのがお前じゃなくてお姉ちゃんなんだって言葉ばかりで……。

 だから、その、悠斗さんの言葉が嬉しくて」


 信じられない言葉に怒りが湧き上がる。

 だが、これはぶつけようのない怒り。

 俺はこの怒りをどこに着地させればいいか、分からなかった。


「あの、もしよろしければ、私とパーティを組んでくれませんか?」


 桜が話す。

 相当勇気を振り絞って言ったのか、桜の手は少し震えていた。

 だが、桜はすぐに両手を横に振った。


「いや、やっぱりいいです。

 あ、今のいいですは嫌だってわけじゃなくて、その、私なんかがおこがましいという意味で、その、あの……」

「いいよ。パーティーを組もう」


 呆けた顔の桜が、俺を見た。


「……え、いいんですか?

 私、火は怖いし戦うこともできませんよ」

「知ってる、今聞いたし。その上でオッケーしたんだよ。

 ただし、俺からも言わなくちゃならないことがある」


 桜の表情に緊張が走る。

 俺は桜に落胆される覚悟で、言葉を続けた。


「俺、勇者じゃなくて平民なんだ」

「……え?」

「まあ、最弱ってことだよ。

 ……それでもいいかな?」

 

 俺は桜に向かって手を差し出した。

 桜は涙をぬぐいながら、迷わず俺の手を握った。


「はい! もちろんです。

 強い人よりも優しい人の方が、私は好きなので!」


 桜の顔にはさっきまでの涙はなく、嬉しそうな笑顔があった。


 あ、やばい。今のキュンときた。

 震える心を抑えながら、気を引き締めなおす。


「よし! それじゃあ今日も森に行くぞ!!

 武器を買ったら今日の宿代がなくなるから、稼ぎに出発だ!!」

「はい!」


 俺は異世界で活躍することは諦めた。

 魔王なんて他の勇者に任せればいい。

 桜と一緒に、異世界でゆっくり暮らすだけで十分だ。

 そう思った。

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