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99人の勇者と平民の俺  作者: 甘党むとう
『99人の勇者と平民の俺』
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第6話 死してのち已む

 ぼやけていく視界。

 意識がどんどん希薄になっていく。


 俺、死んだのか。

 かっこ悪い死に方だなぁ。


 うっすらと女の子が見えた。

 熊は俺を気にすることなく、もう一度女の子に照準を定めていた。


 くそっ!

 せめてあの女の子だけでも助けることはできないのか。

 俺の命はどうなってもいいから。

 ……たのむ。……だれか。


 ……神さま、お願いします。



 何を言ってるんだ!!

 神なんてろくでもないやつじゃないか!!!

 俺を平民なんかにしやがって。

 誰かを頼るんじゃない、俺が助けるんだ。

 動け! 動け! 動け!! 動け!!!



 ブンッ!



 突然、俺の目の前にステータスが表示された。

 

『スキル A ど根性 (HPが2以上の時、1日に1度だけ致死量のダメージを受けてもHPが1残る)

 スキル S  死してのち()む (HPが1の時、ちからとすばやさのステータスが倍になる)』


 0だったHPが1になった。

 意識がはっきりする。

 視界が開ける。

 体が軽くなる。


 熊は女の子に向かって突進していた。


 急げ! まだ間に合う!!

 右足に力を込める。その瞬間、俺の体は宙に浮いた。

 周りの草木が放射線状に過ぎ去っていく。

 熊との距離は、一瞬にして縮まった。


「お返しだ!!」


 俺は熊の腹にむかって足を振り上げた。

 足が熊の腹に食い込んだ。


 熊は小さな放物線を描きながら木に激突した。

 苦しそうに呻き声を上げる熊。

 何が起こったのか分かっていない様子だった。

 血走った目で、辺りをキョロキョロと見回している。

 

 しかし、熊が俺を見つけることは出来なかった。

 熊を蹴り上げた直後、俺は上に向かってジャンプしていた。

 木の枝が目の前に見える。高さはこれで充分。

 後は重力に任せるのみ!


 空中で一回転し、かかとに全体重を乗せる。

 熊が俺に気づいた。だがもう遅い!


 ズガンッ!


 熊の頭が地面にめり込んだ。

 放射線状のヒビが、地面を伝った。


 数秒後、熊が消えた。


「……ふう」


 どうやらなんとかなったみたいだ。

 安堵の息が零れる。HPは1/60。

 ぎりぎりの戦いだった。

 いや、一度0になったからぎりぎりではないのか。


 状況が飲み込めていないのか、呆然と俺を見つめる女の子。

 腰を抜かしていて、立ち上がる気配はない。


 まあ、そうだよな。

 あんな状況で、パニックにならない方がおかしい。


 俺は急いで女の子の元へと向かい、手を差しのべた。


「大丈夫? 立てる?」

「あ、え、あの。生きて……?

 あ、はい。だい、じょうぶ、です」


 全然大丈夫じゃなかった。

 これは少し落ち着くまで、ここから動けないか。

 大きな音を出してしまったし、一刻でも早くここから移動したいが……。


「あ、あの。あ、ありがとう、ございます」


 頭を下げる女の子。

 ボロボロな姿で謝られると、何もしていないのに罪悪感が生まれた。


「気にしないで。通りがかっただけだから。

 それよりも、怪我とかしてない?」

「は、はい。だいじょうぶです。

 あの、これ……」


 女の子はステータスを開くと、いくつかの操作をして、右手に薄い緑色の液体が入った小さな瓶を出現させた。ドロドロとした液体は、瓶の中で奇妙にうねっていた。


「これ、回復薬です。

 ど、どうぞ」

「……あ、ありがとう」


 俺はそれを受け取った。

 

 これ、本当に回復薬なのか?

 少し、いや、とても不安だ。


 女の子を見る。彼女は俺を曇りない眼で見つめていた。

 よく見ると、眼鏡はわれ頬に引きずったようなすり傷があった。

 こんな姿で頼まれたら、断るなんてできない。


 俺は覚悟を決めて、瓶の蓋をとりそれを飲んだ。

 すると、HPが1から21まで回復した。

 

 よかった。本当に回復薬だったみたいだ。


 しかし、安心したのも束の間、突然体が重くなった。


 やはり毒だったか。

 今更ながら後悔の念に駆られる。

 あんな得体の知れないものを飲むなんて。

 しかも、知らない人から渡されたものを……。


「だ、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫」


 毒を渡しておいて「大丈夫ですか?」ってなんだよ?

 で、なんで俺も大丈夫って答えてるんだよ?


 しかし、この体の重みが長く続くことはなかった。

 徐々に体が馴染んでくる。


「さ、先程は危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました」


 女の子はなんとか立ち上がり、再度頭を下げた。

 きれいな九十度だった。


 よかった。立ち上がれるならすぐにここから移動できる。

 俺の体も、もう違和感はないしちょうどいい。


 ……あっ、そうか!

 死にかけた時に獲得したあのスキル。

 たしか『死してのち已む』だったか。

 このスキル、HPが1の時にこうげきとすばやさ倍になるんだよな。それならHPが回復すれば、こうげきとすばやさが半分になる。すばやさが半分になったことで、体が重くなったんだ。なんだ、毒じゃなかったのか。


「どうしたんですか?」


 俺が一人で納得しているのを見て、女の子は不思議そうに首を傾げた。


「な、なんでもないよ!

 とにかく森を出よう!!」

「は、はい」


 緊張か恐怖か。

 ぎこちなさを残しながらも、返事をしてくれた女の子。


 俺は彼女を連れて、森を出た。


 これからのことは街についてから考えよう。

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