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99人の勇者と平民の俺  作者: 甘党むとう
第一章 『冒険者編』
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第43話 最悪の再会

 ドロイドの谷を抜けた悠人たちは、斜面を登った先の森で久方ぶりの休憩をとっていた。


「次の街、ペイリンツリーはこの森を抜けた先にある。

 明日の朝、ここを出発し、日が沈む前にペイリンツリーに到着する。

 なにか異論がある者はいるか?」


 エルの問いかけに、三人が首を振る。

 エルは頷くと、一人、その場に横になった。


「私はこれから睡眠をとる。

 夜は私が監視役をする。

 日が沈んでから、一時間後に起こしてくれ」


 そう言って、悠人のアイテムボックスから取りだした毛布にくるまったエルは、小さな寝息をたて始めた。エルの顔に落書きしようとするレジーナを止めながら、俺たちは空っぽのお腹に干し肉を入れ、束の間、穏やかな時間を過ごした。


――――――――――――


 エルを起こしてから一時間後。

 見張りをエルに任せ、悠人も体を休めるため、横になった。


 浅くまどろみながら、悠人はドロイドの谷での出来事を振り返る。

 ドロイドの谷で馬車が破壊されたときは、どうなるかと思ったが、みんな無事でよかった。一番の難所であるドロイドの谷を越えた今、残るはペイリンツリーのみ。そこを無事に抜けることができれば、遂に目的地のジークリード王国だ。この依頼を達成できれば、やっと俺の平和な異世界生活が始まる。そうなったとき、桜に告白しよう。桜に好きだと伝えよう。一緒にいてくれと、もう一度はっきり言葉にしよう。

 今までの旅で痛感した。何も伝えられないまま終わるのだけは絶対に嫌だ。たとえ、それが悪い結果になったとしてもいい。もう、後悔はしたくない。


 少しずつ、睡魔がおそってくる。

 告白するときに、何か渡したほうがいいだろうか。例えば、花束とか。アクセサリーなんかどうだろう。どんなものでも、桜は似合うんだろうな。次の街で調達するか? いやジークリード王国の方が、いろんなものが売ってそうだ。そこで買おう。王国っていうくらいなんだから、いいものが揃ってるはずだ。


 瞼が閉じていく。

 そういえば、ミリオムから貰った手紙の謎、まだ解けていなかったな。いろいろありすぎて忘れていた。だが、そもそも、本当にあの手紙に謎なんてあるのだろうか。封蝋された文書のダミーとして、敵を騙すために送られただけなんじゃないのか? 現に、あの手紙を持っていた俺は襲われている。囮として、充分に活躍している。きっとそうだ。あのミリオムなら、何も伝えずにやりかねない。あの手紙の内容に、意味なんてないんだ。


 周りの音が消える。

 想像以上に疲労していたのか、俺は深い眠りへと、静かに落ちていった。


――――――――――――


「………!」

「………ナ、……て……いよ!!」

「…ざい!! …よるな!!!」


 なんだ、うるさいな。

 騒がしい声に、休んでいた脳が無理矢理、起こされる。

 瞼を開けると、明るい光が飛び込んできた。

 もう朝か。寝ぼけ眼をこすりながら、俺は体を起こした。


「二年と四十一日ぶりの再会じゃないか!

 もっと喜びを分かち合おう!!」

「うるさい! お前のそういう細かいところが嫌いなんだよ!!」


 森の中。聞いたことのない男の声と、苛立ちが滲み出たレジーナの声が、飛び交っている。俺は慌てて、その声が飛んでくる方向に顔を向けた。そこに見えたのは、知らない男がレジーナにすり寄っている姿だった。


 嫌がるレジーナ。だが、男がそれを気にする様子はない。振りほどこうとするレジーナをものともせず、男はレジーナの手を、がっしりと掴んでいた。


 軽くウェーブした茶色の髪に、耳にキラリと銀色に輝く丸形のピアスをつけた男。派手な服装に合わせて、首からは、透明に澄んだクリスタルのネックレスをぶら下げている。

 その姿は、森の中に似つかわしくない姿だったが、それが変だとは全く思わなかった。それほどに、男は整った顔立ちをしており、その姿が似合っていた。


 そんな男に、レジーナが強烈なパンチを食らわせる。

 男は、遙か後方へと吹き飛んでいった。


「懐かしの、このパンチ。最高だよ……」


 男は倒れたまま右手を挙げると、親指を突き上げ、グーサインをする。

 その後、すぐに男の右手は、力なく崩れ落ちた。

 レジーナは珍しく、苦虫を噛みつぶしたかのような顔をしていた。


――――――


 桜が男に回復薬を飲ませる。

 男は起き上がると、すぐに膝をつき、桜の手をすっと握った。


「麗しのレディよ、ありがとう。

 お礼として、今度一緒に食事でもどうかな?」


 男が桜の目をまっすぐ見つめる。

 その視線うけて、桜はあたふたと目を泳がせた。


 なんだ、あいつ!?

 もう一回、気絶させてやろうか!!


「おい、カイル!

 いい加減にしろ。私たちは急いでるんだ。

 なぜ、お前がここにいるのか、早く説明しろ」


 突然、男と桜の間に割って入ったエル。

 この男と面識があるのか、エルは不用心に男の肩を掴むと、鋭い視線を投げつけた。カイルと呼ばれた男は、そんなエルの行動に動揺することなく、まるでいつものことのように「はいはい、相変わらずお前はかたいねぇ」と言って、桜から手を離した。

 だが、桜へ向ける視線は変わらず、ウインクで桜に合図を送る男。その姿を見たエルが、怒りを顕わに拳を振り上げる。男は慌てて、「冗談、冗談」といって、しぶしぶ座り直すと、今度は少し引き締まった表情で俺と桜を見た。


「知らない顔がいるなぁ。

 となると、まずは自己紹介からかな。

 俺はカイル・デリオット。

 フリーの冒険者をしている。よろしく!

 レジーナとの関係は、三年前に一年と四十二日、一緒にパーティーを組んでいた仲だ。エルとの関係は……まあ、腐れ縁みたいなやつだな。

 それよりも、俺とレジーナの運命の出会いの話でもしようか。

 あれは、俺が一人で街を歩いているときだった……」


 これは長くなりそうだ。

 思わず桜と顔を見合わせる。


「その日は雨が降っていた。パーティー内で問題を起こした俺は、一人雨に打たれながら、何度も考えた答えの出ない問いを、またぐるぐると考えていた……」

「そんな話はどうでもいいから!

 アンタがなんでここにいるのか、早く教えな!!」


 レジーナの荒げた声が、カイルの話を遮る。

 同時に、レジーナから放たれた凄まじい圧。

 自分に向けられた訳ではないのに、思わず背筋が寒くなる。

 それでも、カイルはレジーナが反応してくれたのが嬉しかったようで、満面の笑みをレジーナに向けた。


「おお! 女神に頼まれたのなら仕方ない。

 それじゃあ、泣く泣くだが、俺とレジーナの話は置いといて……。

 なぜ、俺がここにいるのかを話そうかな。

 俺は、ある依頼を受けて、この周辺を見回ってたんだ」


 依頼という言葉で、カイルを除いた四人に、緊張が走った。

 そんな雰囲気に気づくことなく、カイルは話を続ける。


「依頼内容は、スカンビアからジークリード王国へ向かうパーティーがもつ、手紙を奪うこと。殺しあり。手紙さえ無事なら、何してもいいっていう依頼だ。

 本来、俺はこういう依頼を受けないたちなんだが、金欠だったこともあり、けっこうな額の前金が貰えるってことで、この依頼を受けたんだ。だが、殺しはしたくなかったし、報酬の額的にも難易度が高そうだったから、てきとうにふらついてやりすごそうと思った。それで、ここらを歩いていたのさ。

 この依頼、他にも受注者がいっぱいいるから、サボるのも一苦労なんだ。でも、ここならドロイドの谷が近くて誰も近寄らないし、ちゃんと見張っていたという言い訳もできる。これで俺は何もせず、大金をもらえるってわけだ。どうだ、完璧な作戦だろ?

 そうだ! エル、レジーナ。ここらで変なパーティーを見てないか? お前らと一緒なら、標的から手紙だけ奪うのも簡単にできそうだ。ちゃちゃっとすませて報酬金を貰って、一緒に豪遊しよう!!」


 いいアイデアを思いついた、というように身を乗り出すカイル。

 俺はそんなカイルを尻目に、ゆっくりとエルとレジーナを見た。

 二人は黙って、カイルを見ていた。


「どうしたんだよ、二人とも。

 エルはともかく、レジーナまでそんな顔して。

 せっかくのかわいい顔が台無しだ」


 その言葉を聞いたエルが、大きな溜息を吐き、その場から立ち去る。


「おい、エル! なんだよ、その態度!!

 いいアイデアだろ!?

 報酬金も三等分にしようって言ってるんだぜ??

 何が不満なんだよ!!


 ……まさか、お前。まだあの時のこと根に持ってんのか!?

 元はと言えば、お前がスカンビアに残るって言いだしたから……」

 

 とどまることを知らなかったカイルの口が固まる。

 直後、だらだらと、カイルの額から汗が流れ始めた。

 カイルは、静かに俺たち全員を見回すと、頬を微かに上げて、こう言った。


「……嘘だろ?」


 レジーナが小さく、首を振った。

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