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99人の勇者と平民の俺  作者: 甘党むとう
『99人の勇者と平民の俺』
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第3話 裏切り

 日が傾き、森に深い影が伸び始めた頃。

 海斗の所持金は720G、悠人は110Gまで増えていた。


 今日分かったことは、主に二つ。

 一つ目は、モンスターを倒せばお金が自動的に増えていく、ということ。お金を得られるのはモンスターにとどめをさしたもの一人だけで、これはモンスターから得られるアイテムも同様、倒せばステータスのアイテムボックスに自動的に入れられた。

 二つ目は、レベルアップについて。レベルアップはお金やアイテムとは違い、とどめをさしていなくても、近くにいれば上がった。俺と海斗は、戦うことが苦手な子のためのシステムではないか、と推測している。


「今日の成果はこんなもんか」

「ごめん、海斗。俺が足手纏いだったせいだ」

「そんなことないさ。俺は楽しかったぜ」


 海斗の慰めの言葉が胸に刺さる。

 俺は申し訳なさでいっぱいになりながら、帰路についた。


――――――――――


「その所持金だとうちでは泊まれないね。他をあたってくれ」

「お前らなめてるのか? それで泊まれるのは豚小屋だけだよ」


 門前払いをくらうこと五軒目。

 何も食べず一日中森の中を歩いていた悠人たちは、すでに半分、心が折れかけていた。

 

「悠斗、この世界に来た時、どれくらいのお金を持ってた?」

「ごめん。俺、一文無しだった」

「……そうか」


 さすがの海斗も、このときばかりは落胆の表情を隠せてはいなかった。

 おもむろに道の端に座った海斗が、「ふぅ」と小さく息を吐く。

 あの海斗がうなだれる姿を、悠人はただただ見守るしかなかった。


「しょうがない、今日は野宿でもするか」


 両手を地面につけ、海斗が空を見上げる。


「まずは何か食おう。

 二人の金を合わせて、買えるだけ買って」


 こんなときでも俺を見捨てない海斗に、またも涙がこぼれ落ちそうになる。

 だが、今大切なのは、海斗のいうとおり何か食べること。

 悠人は海斗に向かって、手を差しだした。


「海斗、ありがとう」

「なんだよ照れくさい。

 さっさと飯屋を探そうぜ!」


 腕を引き、海斗をひきあげる。

 悠人たちは街灯が煌めく街を、もう一度、歩きだした。


 その時だった。


「あのー、ちょっといいですか?」


 背後から声をかけられ、思わず振り返る。

 そこには、見知った服装をした男女が二人いた。深い紺色の上着にネクタイ、そして、ねずみ色のズボンをはいた男性と、同様に紺色の上着にネクタイ、こちらはスカートをはいた女性。悠人が今着ているものとは違うが、紛れもなく元の世界の服である制服を着た二人。二人は少し不安げながらも、明るい笑顔を悠人たちに向けていた。


「いきなりですけど……二人って転移者ですか?」


 海斗を見る。

 海斗が無言で頷いたので、俺は素直に答えることにした。


「……はい、そうです」

「やっぱり! 俺たちもなんですよ!!

 俺は平山仁ひらやまじん、こいつは……」

山口朱音やまぐちあかねです。よろしく!」


 同じ制服を着た二人が、軽く頭を下げる。


「俺は暁海斗、よろしく」

「山中悠斗です、よろしく」


 軽く応えると、二人は悠人たちに近づいてきた。


「もう宿屋は決めた?

 決まってなかったらさ、俺たちと一緒のところに泊まらないか?

 親睦を深めるのもかねてさ」

「……いや、俺たちお金がないんだ」

「お金ぐらい貸すよ。せっかくの転移者同士、仲良くしようぜ!」


 もう一度、海斗を見る。

 海斗は納得していないようだったが、静かに頷いた。お金のない俺たちに選択肢はない、といった様子だ。悠人はその海斗の姿を見た後、平山仁を見た。悠人と目があった平山仁は、優しく微笑んだ。悠人は、この人は信じられる、そう思った。


「それじゃあ、お言葉に甘えて」

「やったぜ! 朱音、晩飯は豪華にしよう!!」

「そうだね! なんだか楽しみになってきた!!」


 軽やかに歩き始めた二人。

 そんな二人の後を、眉根にしわを寄せた海斗がついていく。

 このとき悠人は、海斗が何を考えているのか全く気にすることなく、ただただ三人のあとをついて歩いた。


――――――――――


 宿屋に着いた後、悠人たちは様々なことを話し合った。

 話の内容はこの世界に来る前のことがメインだった。

 何のクラブに入っていたかとか、どれくらい勉強ができたか、などだ。

 

 平山仁と山口朱音は同じ高校に通っていて、さらに小学校からの友達だった。いわゆる、幼なじみというやつだ。二人とも明るい性格で、俺たちの状況を知っても馬鹿にすることなく、むしろ協力的な姿勢を見せてくれた。


「俺たちが異世界に来たとき、朱音が50000G持ってたんだよ。

 俺は5000Gだったから……なんか意味でもあんのかなぁ?」

「俺は500Gだったな」

「俺は0G」

「0G? それはかわいそう」

「よーし! それじゃあ今日は朱音のおごりだ!!」

「任せて! でも仁は自分で払ってよ。今日森で狩りをした分があるでしょ!」

「えぇ~、朱音のケチ」

「うるさい!」


 俺と海斗が笑う。

 たわいもない話ばかりだったが、皆ノリがよく、まあまあ盛り上がった。


 意外にも、お金がなく路頭に迷っていたこと以外のこの世界の話や、お互いのステータスの話は話題にあがらなかった。お互いを完全に信用しているわけではない、といったところで、宿屋に入る前、悠人は海斗に、この世界で得た情報はまだ伏せるよう念をおされた。相手も同じような感じで、三人の優秀さが垣間見えた。


 悠人はその夜、自分が平民であることを話さなかったことに、一抹の罪悪感を抱きながらも、突然の異世界転移と一日中歩いた疲れによって、一瞬で眠りにおちた。


――――――――――


 次の日。悠人たち四人は、昨日と同じ森へと向かった。

 

 ためらうことなく森の奥へと進んでいく仁と朱音。

 大きめのカラスやオオカミが瞬殺されていく姿を、悠人と海斗は呆然と見ていた。俺は二人が昨日、この世界に飛ばされたばかりの人間だとは、到底信じられなかった。


 森にきて三十分ほど。

 悠人の耳には、何度もレベルアップの音が鳴り響いていた。悠人は何もしていなかったが、仁と朱音が倒したモンスターの経験値が悠人にも入り、更に、昨日とは比べものにならないモンスターの強さにより、おこぼれの経験値でも悠人のレベルはどんどんと上がっていた。


 途中から、レベルアップした回数を数えなくなって数十分。

 ブンッと音が鳴り、突如、悠人の目の前にステータスが現れた。

 一言もステータスとは言っていないのに現れたステータスに、悠人は驚きながらも目を向けた。なんだか、嫌な予感がする。


ヤマナカユウト

 職業 平民

 レベル 13

 HP 45

 MP 10

 ちから 13

 かしこさ 3

 みのまもり 3

 すばやさ 3

 みりょく 3


 スキル 


『レベルアップポイント 100』

 (ポイントが上限に達しました。今すぐポイントを割り振ってください)


 なになに? ポイントが上限に達しました?

 なんだ、それだけか。よかった。

 後で割り振ろう。


 そう思って、悠人はステータスを閉じようとした。

 しかし、ステータスの画面は消えなかった。いつもは右上にばつ印があり、そこを押せば消えたのだが、今回はばつ印が無かった。

 

 仁と朱音がどんどん前に進んでいく。

 数分前から戦闘に加わり始めた海斗も、こちらを気にする様子はない。


 このままでは、みんなに置いて行かれてしまう。

 こんなオオカミや熊が出る森の奥深くで置いて行かれれば、平民の俺なんて一瞬で殺されてしまうだろう。早くなんとかしなければ!


 ステータスの右上を押す。

 だが、やはりステータスは消えなかった。


 これはもう、ポイントを割り振るしかない!

 急げ、急げ! 前回はちからにポイントを多めに振ったから、今回は……


 焦りで思考がまとまらない。

 そのせいで、俺はいつの間にか近づいていた、海斗の存在に気づかなかった。


「悠斗、またレベルが上がったのか?」


 海斗が俺のステータスを覗きこむ。

 俺のステータスを見た海斗の表情が、一瞬で変わった。

 狩りを楽しむ朗らかな表情から、無機質な真顔に。


「海斗……その、悪い。

 いつか言おうと思ってたんだけど……。

 その……タイミングが。なくて」


 言い訳ばかりが口から溢れ出す。

 あまりに情けない。こんなことになるなら、やはり出会った時に打ち明けておけばよかった。だが、時は戻せない。海斗には、素直に謝るしかない。


「ほんとにごめん! 海斗を騙すつもりは……」

「ぷっ、あっはっはっは!」


 海斗が突然、腹を抱えて笑い始めた。

 俺はあまりに意外な展開に、一瞬、理解が遅れた。

 そして、すぐに自分の顔が赤くなっていくのを感じた。


「悠斗。お前、平民だったのかよ!

 そりゃ、弱いはずだわ!!」


 海斗が笑う。大声で笑う。

 あまりに大声で笑うので、奥へ進んでいた仁と朱音が戻ってきた。


「どうしたんだ?」

「何か面白いことでもあったの?」

「仁、朱音、ちょっとこれを見てくれよ」


 海斗は仁と朱音を手招きしながら俺のステータスを指差した。二人は言われた通りに俺のステータスを見た。その瞬間、二人とも腹を抱えて笑いだした。


「嘘だろ!? 平民じゃん!!!」

「めっちゃうけるんですけど!!」


 あまりの恥ずかしさに、爪が肉に食い込んだ。

 もう、誰の目も直視できなかった。


「はぁ、今までお前に気をつかってきて損したわ。

 けっこう冷静で、優秀な奴だと思ってたんだけどな。

 まさかの平民だとは。しかもこのステータスでスキルなし」


 海斗がまた笑い出す。

 俺は何も言い返せなかった。


「はー、笑った笑った。

 それじゃあな、悠斗。

 俺たちはこのまま森の奥に進んでいくから、お前は気をつけて帰れよ」


「えっ? それって……?

 ど、どういう意味だよ??」


 海斗が驚いた様子で悠人を見る。


「どういう意味って、そのままの意味だよ。

 分かるだろ? ここでお別れってことだ。

 平民と一緒に冒険なんかできねぇよ。

 魔王討伐なんて夢のまた夢だ」


 まてまてまて!

 そんなことされたら俺は……。


「じゃあな! 悠斗。

 また会えたらいいな」


 そう言って三人は、笑いながら森の奥へと進んで行く。


 俺は一人、森に置き去りにされた。



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