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99人の勇者と平民の俺  作者: 甘党むとう
『99人の勇者と平民の俺』
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第2話 絶望的なステータス

 山中悠人、高校二年生。

 車にひかれ、異世界に飛ばされました。


 自称神は、『異世界で勇者となって魔王を倒せ!』とか言っていたような気がするんだが……。


ヤマナカユウト

 職業 平民

 レベル 1

 HP10

 MP2

 ちから 1

 かしこさ 1

 みのまもり 1

 すばやさ 1

 みりょく 1


スキル


 だめだ。

 なんど表示しても、ステータスは変わらない。スキルもない。


 ……。


 ……詰んだ。

 俺の異世界生活、お先真っ暗だ。


 平民ってなんだよ!

 全員勇者じゃなかったのかよ!?

 

 激しい怒りが、胸の奥からふつふつと込み上げてくる。

 だが、俺にできることは何もなかった。あの神と名乗る存在の声は、もう聞こえない。全てのステータスは1でスキルもない。そして、なんといっても、職業がただの平民。


 おかしい。異世界では、俺はすごくなれるんじゃないのか?

 異世界って、もっと楽で簡単な世界じゃないのか??

 こんな異世界、最悪だ!!!


「おぉーい! 悠斗ーー!!」


 どこからか、俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 この世界で、俺の名前を知っている奴はまだいないはず。知っているとすれば、今となっては憎たらしい自分を神だとか名乗る自称神じじいか、あの不思議な空間で出会い、少ないながらも言葉をかわしたあの青年だけ。俺の名前を呼ぶこの声は、しわがれてなんかいない。ということは……。


 期待を胸に、顔を上げる。

 信じられないことに、まばらな歩行者のなかを、大きく手を振りこちらに走ってくる海斗の姿が見えた。異世界で平民というひとりぼっちの境遇になり、不安で押し潰されそうだった俺の心に、一筋の光が差しこむのが分かった。


 おいおい、まじかよ!

 こんなことって本当にあるのか!!


 海斗が俺の前で立ち止まる。


「悠斗、良かった。一緒の街だったな!」


 息を荒げながらも、嬉しそうに笑う海斗。

 その顔をみたとき、なぜか目頭が熱くなるのを感じた。

 俺は自分が思っていたよりも、想像以上に心細かったようだ。

 海斗に会えてよかった。おかげで、まだ、前を向ける。


「なあ悠人! このステータス、見てくれよ!!」


 海斗は息を整えた直後、そう言うと「ステータス!」と叫んだ。


アカツキカイト

 職業 勇者

 レベル1

 HP47

 MP28

 ちから 21

 かしこさ 35

 みのまもり 20

 すばやさ 32

 みりょく 50


 スキル S  天水分身アメノミクマリ (水を自由自在に操る)


 俺は開いた口がふさがらなかった。

 高水準のステータスに、Sランクのスキル。たとえ俺が勇者であったとしても、ここまですごいステータスではなかっただろう。あの自称神も、適正にあったスキルを与えると言っていた。ということは、海斗にとってこのSランクスキル『天水分身アメノミクマリ』は、適性があったということ。つまり海斗は、それだけ優秀であるということ。


「悠人はステータス、どうだった?」


 海斗の言葉で、我に返る。

 思い浮かんだのは、1が並んだステータス。こんなステータスを見せられた後に、あのステータスを見せるのか。スキルもない、勇者でもない、最弱の平民であることを、俺は海斗に証明するのか。きっと海斗は失望するだろう。哀れみの目で俺を見るだろう。そんなの耐えられない。海斗はこの世界で唯一の知り合いだ。そんな海斗相手に、惨めで、恥ずかしい思いはしたくない。


「いや……、その……。

 ええっと……」


 だが、もしこの後、海斗と一緒に行動することになれば、俺のステータスはいつかは打ち明けなければならないことになる。ここで秘密にするよりも、正直に打ち明けて、今、見捨てられたほうがマシなんじゃないか? ここで言わずに、罪悪感を持つことになるよりも、笑い飛ばして、開き直ったほうがいいんじゃないか?


 そうだ。ずっと秘密を隠し続けることはできない。今ここで、打ち明けよう。

 俺が最弱だということを。俺が勇者ではなく、平民だということを。


「その……海斗。

 俺のステータスは……。俺は……」

「やっぱいいや!

 いきなり個人情報のステータスを見せろなんて、ありえないよな。

 俺のことを信頼できるようになったら、いつでも教えてくれ!」


 海斗が俺の肩を叩く。

 言葉が出なかった。海斗の優しさにただただ感動した。俺は、目から涙を零れさせないようにするだけで、精一杯だった。


「……海斗。ありがとう」

「気にするなよ! ほら、早く狩りにでも行こうぜ!!

 さっき持ち金で武器を買ったんだが、そこの親父が金を稼ぐなら南の森だって教えてくれたんだ。さっさとしないと日が暮れちまうぜ!」

「ああ。そうだな! 行こう!!」


 俺と海斗は駆けだした。


 こうして始まった、俺の異世界生活。

 この後、俺は自分が平民であると、海斗に打ち明けなかったことを後悔することになる。そんなことは分かっていた。でも、言えなかった。俺の心は弱かった。


 そして、スキルもない平民という前途多難な未来。

 だが、これはただの序章に過ぎなかった。


――――――――――


 南の森に向かう道中、俺と海斗は、この世界について話し合った。


 まずはお金について。これは先ほど、海斗が鍛冶屋のおっさんに教えて貰ったことを教わった。この世界はG(ゴールド)という金貨がお金の役割を担っており、一、十、百、千、万とそれぞれの金貨で経済が回っていた。俺たちのことを考えて、日本と近しいお金の仕組みにしたのだろうか。『ステータス』がある俺たちは、ゴールドをステータスに無限に貯めることができ、出し入れも自由にできた。お金以外の持ち物も同じで、無限ではないが一定量、ステータスの持ち物の欄に入れることができた。運び屋をすれば大もうけできそうだな、と海斗と笑い合ったが、平民である俺は、真剣にその道もありだなと思った。


 次にステータスのMPについて。

 俺は疑問に思ったことを、海斗に聞いてみた。


「なあ海斗。スキルなのにMPっておかしくないか?」

「どういうことだよ?」

「普通、スキルならSPじゃないか?」

「……たしかに」

「この世界にはMP、つまり魔力が存在していて、魔力を消費してスキルを使うのなら、もしかしたら異世界人じゃなくても、強い奴ならスキルを使えたりするんじゃないか?」

「ありえるな。そうなると、勇者だからといって油断はできない。

 そもそも、百人の勇者が送られる時点で、この世界が簡単じゃないことは分かっていた。より一層、気を引き締めないとだな」


 海斗の言葉に頷く。

 やはり海斗は優秀だ。海斗となら、この世界でもやっていける。


「そうだ。鍛冶屋で買った木刀、一本使うか?」


 海斗が「ステータス」と言って、持ち物から木刀を取り出した。


「予備にと思って、二本買ってたんだ」


 木刀の握り手である柄が、俺に向けられた。

 俺はそれを、すぐには受けとれなかった。


「でも海斗、これって全財産で買ったものだろ?」


 海斗は、先ほどこの世界にきた時は、500G持っていたと言った。だが、今は0G。この木刀は海斗がなけなしの金で買った物だった。ちなみに俺はずっと所持金0G。あの自称神は絶対に許さない。


「いいんだよ。隣で死なれても困るし。

 気になるなら、金はあとで返してくれたらいいから」


 こいつ、本当にいいやつだな。

 俺は「ありがとう」と言って、木刀を受けとった。

 海斗には助けてもらってばかり。少しずつでも、この恩を返していこう。


 俺は決意を新たに、南の森への歩みを進めた。


――――――――――


「おらっ!」

「どう? スライム倒せそう」

「もうちょっとでいけそう。くらえ!

 よし、倒せた。そっちは」

「うん、三体ぐらい倒した」


 俺、完全に足手まといだな。

 

 高い城壁に囲まれた街から歩いて三十分ほど。俺たちは南の森に入り、その森の入り口でスライムを倒していた。海斗は一発でスライムを倒していくのに対し、俺は四、五発殴らなければスライムを倒せなかった。これが勇者に選ばれた者と、ステータスオール1の平民との差か。悲しい現実だ。


「初日だし、今日は無理せずいこうか」


 海斗の優しい言葉に、頷くことしかできない俺。

 あまりに自分が惨めで、またも涙がこぼれ落ちそうだった。


――――――――――


 森に入ってから二時間ほど。

 スライム以外にも襲ってくる獣や植物を倒しながら、森を散策した俺たちは、少しひらけた場所で休憩をとった。


 道中、ときおりでてきたレベルアップの表示。

 海斗についていくので精一杯だったので、ステータスを確認することができていなかった俺は、この休憩でゆっくりとステータスを開いた。


ヤマナカユウト

 職業 平民

 レベル 4

 HP 16

 MP 6

 ちから 1

 かしこさ 1

 みのまもり 1

 すばやさ 1

 みりょく 1


 スキル 


 『レベルアップポイント 30』


 上がったレベルは3。

 しかし、ステータスがHPとMP以外一つも上がっていない。『レベルアップポイント 30』を見るに、他のステータスはどうやら、ポイントを振り分けて伸ばしていくようだ。俺は試しに「『ちから』にポイント10」と言ってみた。するとステータスの『ちから』が、1から11へと変化した。ふむふむ、こうやって強くなっていくのか。


「どうした、悠斗?」


 俺がステータスを閉じてから、海斗が話しかけてきた。


「レベルが上がったから、ポイントを割り振ってたんだ」

「レベルが上がったのか!? ステータス。

 うーん、俺は上がってないな。ちなみにどれくらい上がったんだ?」

「3かな」

「3も! すごいな」


 いやお前の方がすごいから。

 俺のステータスを見たら幻滅するぞ!

 

 羨ましがる海斗をよそ目に、俺は改めて自分のステータスを開いた。

 海斗は正面におり、俺のステータスを見ることはできない。いつかは見せなければと罪悪感を感じながらも、俺は海斗の優しさに甘えていた。もう少し、俺が一人である程度のモンスターを倒せるようになってから、その時に打ち明けよう。そんな言い訳ばかりが、頭の中に浮かんだ。


 残るポイント20を『ちから』『かしこさ』『みのまもり』『すばやさ』『みりょく』にそれぞれ2ポイントずつで割り振って、俺はステータスを閉じた。ステータスが正確に変化する。一度見た海斗のステータスに追いつくのは、まだまだ時間がかかりそうだった。


「『天水分身アメノミクマリ』!」


 突然、海斗が叫んだ。


 なにもない海斗の右手から生まれる水。

 その水はどんどん大きくなっていき、海斗は生まれた水の照準を、離れたところにいたスライムに合わせる。「いけっ!」という声とともに、海斗の手から水の塊が放たれた。それは凄まじい勢いで空を切り、スライムを跡形もなく吹き飛ばした。


「やったぁ! 俺もレベルが上がったぜ!」


 子供のようにはしゃぐ海斗。

 

 確信した。俺が海斗に追いつくことは、一生ないな。

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