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エンゲブラ的短編集

【4分短編】ようこそ、はじまりの村へ

作者: エンゲブラ

「ようこそ、はじまりの村へ」


村人A、私に与えられた仕事。

それは村の入口付近に立ち、訪れた冒険者たちに話しかけられたら、上記のセリフを返すこと。その後、何度話しかけられても、同じ定型文を返すことしか出来ない。


「ようこそ、はじまりの村へ」


私がこのセリフを冒険者に返すと、直後に同じく村の入口付近で徘徊している村人Bが冒険者へと近寄り、この村の特徴を定型文で述べて足早に立ち去る。


「ようこそ、はじまりの村へ」


私はいったいいつからこんなことをしているのだろうか?

気付くと私はすでに村の入口に立っていた。

一歩たりとも動くことが出来ない。

昼も夜もなく、ただただ同じ場所に立ち続け、次の冒険者が現れるのをずっと待っている。


「ようこそ、はじまりの村へ」


どうして私は自我を持ってしまったのだろうか?

そもそも私のこの思考は、いったいどこから生まれたものなのか?


「ようこそ、はじまりの村へ」


独房よりも孤独な、気が狂いそうな日々。


「ようこそ、はじまりの村へ」


意思とは関係なく、このセリフしか返すことが出来ない。

人形の中に閉じ込められたもうひとりの私は、今にも爆発しそうである。


「ようこそ、はじまりの村へ」


これで99999人目の冒険者に私はこの定型文を返したこととなる。




「ようこそ、はじまりの村へ」

「おいおい、まじかよ」


スクロールを広げ、私とスクロールを交互に見つめる冒険者。


「なあ、オマエ俺の仲間にならないか?」

「ん、なにを言っているんだ、この男は……んっ!!?」


―― ど、どうして()()()()()()()()が発声できた??


「いや、だってオマエすごい能力値じゃん!」

「……能力値?」

「仲間に出来るのは3枠だけだっていうから、無理にまでとは言わないけど、こんなところで突っ立っているよりも、俺と冒険に出た方が断然楽しいだろ?」

「冒険……この私が?」




【ヴァリサガ】はじまりの村の第一村人、実は最狂の魔導士だった件www part.13


VRMMOゲーム『ヴァーリ・サーガ』の攻略板にこんなスレッドが立ち、話題に。なんでも、はじまりの村の入口に立っていた定型文NPCの村人Aが、実は最強の魔導士になれる資質を持っていたというのである。


ヴァーリ・サーガは、一般ユーザー同士だけでなく、全NPCを仲間にすることが出来るVRMMOのRPGゲームだ。パーティーの最大人数はプレイヤーを含め4名まで。ゲーム開始時に1枚だけ「対象の能力値」が確認できるスクロールが与えられる。追加購入する場合は、2万Gと非常に高額なスクロールである。なので使用する相手には、どのプレイヤーも慎重に慎重を重ねるのが、通例であった。


そんな中、サーバー登録10万人目に選ばれた幸運なプレイヤーが、はじまりの村の入口に立つ村人Aであるハージ・マリオ(※ユーザーによる命名)にスクロールを使用し、仲間に勧誘したというのである。


なぜ、そんなことをしたのか?

登録10万人目に選ばれたプレイヤーが与えられた特典の中に、スクロールが5枚ほど含まれていた。普通のプレイヤーの思考なら下取り価格が、たとえ6割値だとしても、ショップで数枚を売却し、装備を揃えるのが必然。

だが、このプレイヤーはゲームど素人であったため、いきなり村人Aに貴重な1枚を使用してしまったというわけである。


この世界における魔力量の成長は、そのキャラクターが受けてきた「精神的抑圧の深さ」が大きく関係しており、極限に近い状態にまで追い込まれたことがあるほど、後から強力な魔法を放てるようになるという一風変わった仕様となっている。


10万人を相手にずっとワンフレーズの定型文しか返すことが許されなかった村人A。そんな彼が冒険者の仲間に指名されたことにより、初めて定型文以外のセリフが話せるようになり、冒険者に絶対的忠誠を誓う。この時点で、ハージ・マリオの魔力量はすでに魔王軍の四天王に匹敵していた。



―― その後、はじまりの村の定型文NPCたちは、片っ端からスカウトを受けることとなり、軒並み高能力値を叩きだしたが、ハージ・マリオを超える能力値のキャラクターは、未だ見つかっていないという。


補足)この村以降は、プレイヤーたちが村や町の統治者にもなれるシステムとなっており、NPCたちの自我の開放は比較的早くに済まされており、はじまりの村の村人たちほどは抑圧ポイントも溜まっていなかった、という後付け設定マシマシで。



普段ゲームをしない人間が、雰囲気だけで書いてみたゲーム世界の小噺です。


ディテール等でおかしな点がございましたら、感想欄にてよろしくお願いします!

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