太ったケンタウロス
雲を踏みつけて進むにはケンタウロスは太りすぎた。
「ふむ。ダイエットせねば」
ケンタウロスは決意した。
そして、その日からケンタウロスは毎日地球を3周していた。しかし何故だか一向に痩せる気配がない。
「なぜだ!?何故痩せぬ!!」
ケンタウロスは地団駄を踏んだ。
「毎日運動した後に牛を300頭と豚を500頭と鶏を100匹も食べてれば太らない方がおかしいからじゃない?」
「・・おお、ハニーか!おかえりなのだ!!!」
ケンタウロスの妻が猪狩りから帰ってきてケンタウロスは大喜びしている。
「暑苦しいわね。離れて」
「すまぬ」
ケンタウロスはへこんだ。
「まだダイエットしてるの?」
「そうなのだ。太りすぎて、もう以前のように雲の上をお主と駆け回ることもできやしない」
「そうね。それは困るから痩せるべきだわ」
「でも痩せれぬのだ。どうすればいいのかもうわからぬのだ・・・」
ケンタウロスはさらに項垂れた。
「わかったわ。食べなければいいんじゃないかしら?」
「それはできぬっ」
「なんでよ!」
「吾輩は誇り高いケンタウロスなのだぞ!大食いじゃないケンタウロスなんてただの馬ではないか!」
「ただの馬でも走るのが遅いケンタウロスよりマシじゃないかしら?」
「・・・そうなのか?」
「・・・ええ」
「・・・・うぅ・・わかった。食べる量を減らすのだ。ハニー、ダイエットを手伝ってくれるかの?」
ケンタウロスは涙目になった。
「・・え、ええ、もちろんよ。当然じゃない」
「ありがとうなのだ。愛してるぞ。ハニー」
ケンタウロスは機嫌が良くなった。
ケンタウロスは妻と一緒に空の上に向かった。
*****
「いくわよ!よけてちょうだ〜い」
ケンタウロスの妻は雷をケンタウロスに向けて撃ちまくる。
「ふん・・ふん・・あ、痛いのだ」
ケンタウロスは我慢した。
「これをあと十年は続けるわよーー!」
「わ、わかったのだーー!」
十年後。
「はあ・・はあ・・痩せてないのだ」
「本当ね。不思議だわ」
「不思議すぎて怖いのだ」
「ねえ、あなた、もしかしてこの十年間私に隠れて何か食べていたのかしら?」
「そんな暇なかったのだっ!」
ケンタウロスは膨れた。
「・・・呪いかしら?」
「もうなんでもいいのだ。お腹すいたのだ!家に戻るのだ!」
「はいはい。戻るわよ」
ケンタウロスは妻と手を繋いで家に帰った。
*****
「食べ過ぎよ」
「我慢できないのだ。美味しいのだ」
「病気よ」
「悪口はやめてほしいのだ」
「ごめんなさい」
「怒ってないのだ。あと、ちょっと恥ずかしいのだ」
ケンタウロスはさっきから妻に口の周りを拭かれていた。
「だって汚いんですもの」
「吾輩は食べ物を綺麗に食べられないのだ・・・」
ケンタウロスは妻に申し訳なくなった。
「・・・・・難しい話題だわ」
「吾輩はただの意地汚いデブなのだ・・・」
ケンタウロスは落ち込んでいるようだ。
「・・・慰めてほしいのかしら?」
「そうなのだっ!」
ケンタウロスは顔を輝かせた。
「はいはい、愛するあなたが一ミリでも大きいことは素敵なことだと思うわ」
「心がこもってないのだ」
「恥ずかしいんですもの」
「吾輩はもっと甘い言葉をかけて欲しいのだ」
「恥ずかしいわ」
「言葉は大事なものなのだ。大切な人にはちゃんと大切なことは言わないといけないのだ」
「そうよね。その通りよ。だからこれからも私にちゃんと伝えるのよ、あ・な・た」
ケンタウロスは妻の手を握った。
「もちろんなのだ!・・・あれ?」
「それより、どうしてあなたは痩せないのかしらね?」
「わからぬ。そういえば十年前にエルフの男に『太ってしまえ!この馬野郎!』って言われてから太った気がするのだ」
「・・・・・なんでそんなことを言われたの?」
「ハ、ハニー?怖い顔してるのだ」
ケンタウロスは思わず妻の手を離した。
「はやく答えて頂戴」
「わ、吾輩が酔ってエルフたちに絡んだからなのだ」
ケンタウロスはビクビクしている。
「・・・呆れた」
そう言うとケンタウロスの妻はケンタウロスの頭を撫で始めた。
「ハニー?」
「まあ、原因がわかってよかったわ。とりあえずエルフたちに謝罪しに行きましょうか」
「わかったのだ。ハニーも一緒に来てくれるかの?」
「そうねぇ。今回だけですからね」
「もちろんなのだ!」
その後、ケンタウロスたちはエルフたちに謝罪して許してもらった。
そのまた2ヶ月後、ケンタウロスは元の体型に戻った。
「ハニー!久しぶりにデートで雲の上を駆け回ろうではないか!」
「ええ、かまわないわよ」
ケンタウロスは妻と一緒に雲の上に向かった。