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91話 再び

テオが退室してから数時間後、彼が言った通りリオは目を覚ました。


けれど私はリオに会いに行くことが出来なかった。


今更どんな顔をしてリオに会えばいいのかわからなかったからだ。


私はリオの父親を殺し、国を奪った将軍の娘。


リオはきっと私を見る度、父やサディアスの事を思い出していたのだろう。


私が転生者だったからリオは私に協力すると言った。


それなのに私は破滅ルート阻止のためになんの対策も出来ていない。


恐らく近いうちにウィリアムから婚約解消の話が持ち上がるだろう。


私はその申し出を断るつもりはないのだけれど、婚約解消を受け入れた後に私は何と言って父を説得すればいいのだ。


私の話などまともに聞いた事のない父が、今更私の言葉を聞くとは思えない。


ましてやその理由がウィリアムに好きな人が出来たからなんて、双方が納得いくとは到底思えなかった。


だから、物語のエリザは殺されたのかもしれない。


同じようにこのまま私が何も出来ないでいれば、アメリアの暗殺を企てないとしても適当な理由を付けて殺されてしまいそうだ。


かといって、双方が納得する婚約解消の理由を思いつかないでいた。


そんなことを考えながら廊下を歩いていると、目の前をリオが歩いているのが見えた。


私は条件反射で隠れてしまう。


今あったところでどんな言葉をかけていいのかわからない。


私は慌てて身を隠すようにして、ひとけのない裏庭に逃げ込んだ。






裏庭のベンチで空を見上げる私。


ロゼにはお花を摘みに行くと言って出て行った切り、教室に戻れないでいた。


私はこのままリオと口を利くことなく、リオがアメリアたちと一緒にいた方が幸せなんじゃないだろうかと思った。


アメリアと一緒にいるリオはどこか落ち着いていて楽しそうだった。


私といる不機嫌なリオとは違う。


そう考えると段々とイライラしてきた。


やっぱりアメリアの事好きなんじゃないか。


好き嫌いをこんなにはっきり出されたら、さすがの私でも落ち込む。


「くそぉ、リオの馬鹿野郎ぉ!」


校舎には響かないような小さな声で私は悪態ついてみた。


本人の前では絶対に出来ないからだ。


「誰がバカだって?」


振り向くとそこにはリオがいた。


今は授業中だ。


今頃、授業を受けていると思って安心していたが、こいつもサボりの常習犯であったことを思い出す。


そうであってもいつもなら科学室に籠っているはずなのだが。


私はベンチから立ち上がってリオを見た。


リオは相変わらず不機嫌そうに私を睨む。


「リ、リオ! なんでここに!?」


「なんでじゃないよ。君が授業をサボろうとしていたのはわかっていたからね。サボるならここだろうと思った。君って本当に行動がワンパターンなんだよ。君の行きそうな場所なんてすぐに予想がつく」


いつものように憎まれ口を付くリオを見ると、私は安心してしまった。


ここ何週間か、私たちはまともに言葉を交わしていなかった。


こうして、くだらない会話を交わすのも久しぶりな気がした。


だからつい笑ってしまったのだ。


それを見て、リオは更に不快な表情をした。


「何笑ってるのさぁ。君、ボクにバカにされているのわかってるの?」


「わかってるよ。そんなのいつものことでしょ? でも、リオが元気そうで良かった。長い事口利いてなかったから、リオの様子もわからなかったからね。それになかなか目を覚まさなかったから、心配したよ」


私の言葉に珍しくリオが狼狽えた。


そして、顔を背けて答える。


「あれは、つい油断したんだよ。自分のイベントが始まっているのはわかっていたけど、あのタイミングで魔法が暴発するとは思わなかったんだ。それに君、ボクが闇属性であるの忘れていただろう! この世界の筋書を知っている転生者なんだから少しは気を回してよね」


相変わらず生意気な事ばかりいうリオ。


確かにあの時のリオはらしくなかった気もする。


「でも、ちゃんと助けたでしょ? あの場面でアメリアがいないことには焦ったけど、何とか見つけられて良かった。それに、あのセリフ何? アメリアにボクの天使だとか、大好きだよぉなんていっちゃってさ、本気でアメリアに惚れたなって思ったよ」


私はいつもの仕返しをするように意地悪を言った。


案の定、リオは顔を真っ赤にしている。


こういう所はまだまだ子供だと思う。


「しかたないだろう!! イベントの締めはアメリアへの告白って決まっているんだから。あそこでボクだけお門違いなこと出来るわけないじゃないか!? それにあれは本心じゃない。ゲームの展開を聞いているから、それに合うように合わせただけだ。ボクは断じてアメリアに惚れてない!」


「そんな強がっちゃって。この数週間、アメリアにべったりだったじゃない。あんなにリオが楽しそうにしてるのを初めて見たよ。幸せそうだったじゃん。あれが本来のリオなのかなって思ったぐらいだよ……」


自分でも段々何を言いたいのかわからなくなっていた。


本当は仲のいい男友達を取られた気がして寂しかったのに、そんなこと口が裂けても言えない。


何か言い返して来ると思ったのに、そこには真顔のリオが立っていた。


こんな真剣な顔のリオを初めて見ると、私は少しドキドキしてしまった。


「勝手に決めないでよ。ボクが本当は誰が好きだとか、誰の側にいるのが幸せだとか、そんなことはボク自身が決めることだ。本来のボクがどちらなのかなんて知らない。ゲームの中のボクはアメリアの前にいるボクだったんだろう? でも、ここにいるボクだって本物だ。君に偽りの姿を見せているつもりはないよ」


私はなんて返事をしていいかわからず黙ってしまった。


今のリオが嘘だなんて思わない。


けれど、私といて彼が楽しいのかもわからなかった。


彼はゆっくりと私に近づいて私の長い髪を手に取った。


何をするつもりかわからなくて、私はただじっとリオを見つめていた。


「ボクだって不安だったんだ。一人でイベントに立ち向かって、想定外の魔物が出て来たり、魔法が暴発したり、本当は怖かった。君が側にいてくれたらどれほど心強かったか。でも、あの時君が全力でボクを助けようとして一人アメリアを探しに行ってくれたことは嬉しかったよ。ボクだってあそこまで魔法が暴走するとは思わなかったんだ。君が居なかったらもっとひどいことになっていたと思う」


あまりに素直なリオに驚愕してしまう。


意識を失って、人格まで変わってしまったのかと心配した。


彼はそっと私の髪を自分の口元に当てて上目遣いしてきた。


「ボクがいたい場所はここだから。ボクは君の側にいる時が一番ボクらしくいられるんだ」


彼はそう言って微笑を浮かべた。


これには私も恥ずかしくなって赤面してしまう。


すると今度はにやにやと笑いだし、私をからかっているのだとすぐに分かった。


「だからこれからもボクの為にしっかり働いてよね。前回みたいに待たせるようなことはしないでよ。君はボクの都合のいい舎弟なんだから!」


私はイラっとしてリオの頬をつねる。


「誰が舎弟だよ! 調子に乗るな!!」


するとリオも私の頬をつね返す。


「君こそ、いつも誰が君のフォローをしていると思っているの? たまには役に立ってくれてもいいだろう」


お互いにつねあっているのを見て、私はおかしくなった。


私達にはムードというものが一切ない。


しかし、それで良かった。


この関係が私には心地の良いリオとの距離感なのだ。


だから、つい声を出して笑ってしまう。


それを見たリオが驚いていた。


「でも良かった。いつものリオで安心したよ。おかえりなさい、リオ」


リオも私の頬をつねる手を止めて、私の顔をじっと見ていた。


そして、一瞬目線を落とし、少し照れくさそうに笑って答えた。


「ただいま」

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