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89話 協力者

私は昼休み、ロゼたちに断りを入れて一人リオのいる保健室に向かった。


あれから彼は目を覚ましていない。


専門の医者が学園に訪れて往診したようだが、特に異常はないようだった。


ただ、彼の意志で目を覚まそうとしないのだという。


私は闇魔法の事をよく知らないのでわからないが、強い力を持つということはそれなりの代償というものがあるのかもしれない。


私は保健室に誰もいないことを確認して中に入った。


そして、リオのいるベッドに近づき、側にあった椅子に座り、彼の寝顔を見つめる。


こうして見ると彼がどれほど整った顔をしているのか、改めて認識させられる。


「リオ、ごめんね。私はリオにとってどんな存在だったのかな。私が転生者じゃなかったら、きっとリオも私なんかと仲良くなろうとは思わなかったよね」


寝ているリオに語り掛けるように私は話しかけた。


聞こえるはずはないとわかっていながらも、話しかけずにはいられなかったのだ。


私はあまりにもリオの事を知らない。


今まで散々私のくだらない話を聞いてくれて、時には正してくれて、たまにだけど協力してくれて、なのに私はリオの何も知ろうとはしなかった。


ゲームをしただけで彼の全てを知っていると勘違いしていた。


あのゲームの中のリオはアメリアに向けられた姿で、そして私といるリオはあの彼とも違った。


どうして自分はリオの本当の姿を知ろうとしなかったのだろうと後悔した。


そして、その胸の内にある思いを確認しようともしなかった。


彼はアメリアに言った告白。


今でもあの光景が目に焼き付いていた。


彼はアメリアの側にいる方が幸せなんじゃないだろうかと思えてしまう。


一人悲しみにくれているところに保健室の扉が突然開いた。


養護教諭が戻って来たと思って慌てて隠れようとしたが、手遅れだった。


振り向いてみるとそこには見たこともない男が立っていた。


いや、見たことがないこともないのかもしれない。


整われた顔。


白い肌。


銀色のストレートの髪に金色の瞳。


この姿をどこかで見たような気がした。


細かい装飾のついた上質なチュニックの服装が、身分の高さを伺えた。


室内で私を見つけると、彼はその険のある目で私を睨みつける。


そして、凍り付くような冷たい声で話しかけて来た。


「お前がエリザか? リオまでもこんなことになって、お前たちは何をしているんだ」


いきなり何を言ってくるのだろうと驚いていたが、男は至って冷静だった。


彼は後ろにいた従者に部屋の外で待つように指示し、扉を閉めさせる。


私はこの目の前の男と二人にさせられたのだった。


「お前、この世界の筋書を知っているのだろう? ならもう少しマシな反応を見せたらどうだ? そんな間抜け面、ゲーム内のエリザでもしていなかったぞ」


その言葉を聞いた瞬間、彼がリオの言う協力者である転生者だと理解した。


そして、その人物こそが今のリオの後ろ盾となっているオルガルド王国の第一王子、テオだということも同時に知る。


「何のための転生なのだ。俺を見てすぐに誰かということぐらい一瞬で理解しろ」


「ちょ、ちょっと待ってください。まだ混乱しているんです。リオには協力者がいて、それが私と同じ転生者だということは知っていましたが、まさかその相手がテオ様だったなんて信じられなくて」


私は慌てて弁解した。


テオは呆れた表情を見せる。


「それすらも察せないとは、リオの報告書通り、お前はどうしようもない無能な転生者らしいな。それでお前の死の結末は回避できると思っているのか? こんな腑抜けた転生者、小説でも出てこないぞ」


初対面から手厳しいことばかり言ってくる。


王子なのだから偉そうなのは理解できるが、同じ転生者として考えるとあまりに横柄な態度に見える。


しかし、ヒントがなかったわけではない。


リオは確か、転生者に関して彼と言っていたし、私と同じような理不尽な運命に悩まされているようなことを言っていた。


確かにこの世界の悪役がエリザである私だが、私は所詮小物。


良く見積もって中ボスクラスだろう。


クライマックスでアメリアたちの強敵とされたのが、魔王と称されたこの第一王子テオなのだ。


この世界の都合で殺されるもう一人の人物と言ってもいい。


自分でもどうしてこんな簡単な事も予測できなかったのかと思った。


ただ、あまりにもかけ離れた存在で視界の中に入っていなかったのだ。


「あなたも転生者なんでしょ! なら、私の苦労も理解できるんじゃないんですか? リオに任せきりじゃなくて、あなただって少しはシナリオ改変を手伝ってくれても――」


「寝言は寝て言え。俺をお前と一緒にするな。お前は転生者でありながら、全く何も対策出来ていないと聞く。記憶が覚醒してからどれだけ経っているのか知らないが、ここまで何の措置もされていないとは逆に驚かされるわ。犬死するつもりか?」


テオの目は更に冷たい、蔑んだものとなっていた。


確かに覚醒してからだいぶ経つのに私は何もできていない。


けれど、知っていたからと何ができるというのだろうか。


「なら、あなたは何か対策を立てているというのですか? この世界は一定の法則によって守られています。安易な考えで回避できると思ったら大間違いですよ」


「当たり前だろう。俺はお前みたいな能天気な思考は持ち合わせていない。だが、俺は学園の生徒でもなければ、王子という立場もある。お前たちのように好き勝手に行動もできないのだ。だからこそ、俺はシナリオが動き出す前にリオを見つけ出し、学園の監視に当てた。リオを説得し、協力者とすることでシナリオの展開を大きく変えたはずだ。後はお前を抱き込んでもう少し事を起こしやすくするつもりだったのだがな、とんだ茶番だった。お前がここまで無能で考え無しとは計算外だったからな。お前が死のうが生きようが俺にとってはどうでもいい。俺はただ、自分が魔王なんて馬鹿げた産物として死んでいくことを阻止したいだけだ。そのためにはお前の父、ヴァロワ卿が落ちてしまっては困るのだよ。お前たち一族は俺の為に動いてもらわなければならない。あんな馬鹿な弟が統治する国などにしてたまるか」


この男は私の事を道具ぐらいにしか思っていない。


それはまるで父、ヴァロワ卿と同じだった。


そして、それはリオに対しても同じだ。


ここまで協力している相手を無下にするだなんて許せなかった。


同じ転生者ならもう少し話がわかるやつだと思っていたが、思い違いだったようだ。


「この世界はゲームとは違います。同じように進行しているようで、深いところでは大きく変わってきているんです。ゲームでは登場しなかったリオの母親のマルグリットまで現れた。彼女は私達のシナリオ改変を阻止しようとしています。それでもあなたは自分の力だけでどうにかできると思っているんですか?」


テオはふんと鼻を鳴らした。


「そのことはリオの報告書で把握済みだ。まさか、俺もマルグリットが現れるとは思わなかったが、何かしら大きな変化はあるとは思っていた。お前の死を阻止したところで結末までは変わることはないのかもしれない。それでも俺は最後まで戦う。俺はこの乙女ゲーなどという馬鹿げた世界が大嫌いでな。今すぐにでも破壊したいぐらいだよ。たった一人の女の為に作られた世界で生きるだなんて、反吐が出そうだ。プログラムなんて面倒くさいシステムがなければ、俺の手であの女を殺しても構わなかったのだがな、そう言った短絡的な行動では解決出来ないようだ。だからこそ、望みの薄いお前にも多少なりとも期待したのだ。同じ転生者がここまで使えなかったことが何よりも誤算だ。こんな事なら、エリザはゲーム通りの愚か者の方が幾分ましだったろう」


目の前にいるのが王国の王子だとわかっていても、私は今すぐにでも性根の悪いこの男を殴ってやりたかった。

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