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87話 決意

ここはアメリアに任せようと思っていたのに、どうも気になって眠れない私がいた。


恐らくサディアスは授業が始まる前に父に会いに行くだろうと思い、ニアに連絡を頼んで少し早めに寮を出て、学長室の前にいた。


既に学長室には学園長と父が入室していて、何か話し込んでいるようだった。


ここからでは、耳を澄ませても良く聞こえない。


私は諦めてサディアスが来るのを待った。


自分自身、一体何がしたいのだろうと思う。


マルグリットを正式な学園の教官にしたくない。


それは変わりないけれど、結局私はこのゲームの望む展開を演出してしまっている。


本来であればイベントそっちのけで破滅ルート阻止に尽力しないといけないのに、私も世話好きなのか他のイベントにまで手を出している状態だ。


リオが私にやきもきしてしまう気持ちは十分にわかる。


私もモニター越しや読者の立場なら、きっとエリザに対し苛立ちを感じていたことだろう。


マルグリットのいうように性格とはそう簡単に変わるものではないらしい。


しかし、マルグリットの登場は想定外だった。


各イベントが終わり、アメリアのエリザに対する不信感を解消できれば、私の死は免れると思っていたが、プログラムが実体化したような彼女が現れて余計動きにくくなってきたのだ。


私が何もしなくてもサディアスは筋書き通り学園に残ったのかもしれない。


だが彼はあくまでシークレットルートの攻略対象だ。


ここで彼が学園を去ったところでハーレムルートには影響がない可能性もある。


むしろ彼が居なくなった方が展開しやすくなることだってある。


そんなことをぶつぶつと考えていると、廊下の向こうから浮かない顔のサディアスがやって来た。


そして私の存在に気付くと立ち止まる。


彼の手には辞表のようなものが持たれていた。


それを見て私は、アメリアの説得は失敗したのかと思った。


やはりこのルートにサディアスはいらない。


逆にここでサディアスに学園を去らせて、アメリアとの感動的な別れのシーンを演出するつもりだったのかもしれない。


それもまたプレイヤーたちを喜ばせそうな展開だと笑いが零れそうになった。


「エリザ、お前こんなところで何をしている?」


サディアスは私を見ると不快そうな表情で言った。


「父上と叔父様が話される前に話しておきたいことがありまして」


私はそう言って一歩サディアスに近づく。


「話したいこと? お前が?」


「アメリアに叔父様のことを話したのは私です」


その言葉を聞いて、サディアスは驚愕していた。


アメリアと仲が悪い私がわざわざ彼女に話すとは思わなかったのだろう。


私の意図が全くわからず、彼は不審に思っているのがわかった。


明らかに警戒しているのが見て取れる。


「叔父様が私を良く思っていないのは知っています。あなたが私を見る目はいつも冷たく、けれどどこか怯えているようにも見えた。それほど、私や父が怖いですか?」


その質問にサディアスは顔を背ける。


答えたくないようだった。


「本音を言えば私もあなたの事は昔から好きではなかった。他の親族と同じで冷淡で無関心。同じ血が通っていてもこれほど遠い存在なのだなと感じていました。だから、あなたがウサギ事件の時、苦しんでいる姿を見ても助けようとは思わなかった。むしろ、いつも平静を装い、強いふりをしているあなたが心を乱しているのが惨めで笑えたほどです。だから、あなたも今まで通り私を姪として可愛がろうとか、贔屓しようなどと思わなくて結構。それでも、あなたはこの学園にいてもらわないといけない」


「どういう意味だ?」


サディアスはやっと顔をこちらに向ける。


「あなたには今まで通り魔法実習の教官としてここに残ってほしいということですよ。それは私の願いでもありますが、アメリアの願いでもあります。アメリアにはあなたが必要なのではないですか? それに、いつまでもこうやって父の呪縛から逃げられないでいる情けない叔父様を見るのも飽きました。そろそろその重い腰を上げて、自分の意志で立ってみてはいかがですか?」


その言葉を聞いて腹を立てたのか、サディアスの表情が険しくなる。


私のような小娘にそのような事を言われ、屈辱を感じたのかもしれない。


「お前にもわかっているだろう。ヴァロワ家は他の貴族とは違うのだ。我々はこの国の王族の配下ではない。ヴァロワ領は名こそオルガルド王国の領地となっているが一つの国と同じなのだ。我が一族は領民の為に動かなければならない。その責務がある」


「しかし、それを理由に叔父様が父上の言いなりになるのは違うかと思うのですが。領民の為と言うならば、あなた自身が領民の為に何ができるか考え、動くべきです。あなたにはそれが出来るのでしょう? ヴァロワ卿の娘である私には王族と婚姻を結び、関係性を深め、後ろ盾を得ることを強いられています。でも私自身、それに納得しているわけではないのです。私も叔父様も父や一族の為の道具ではない。人間なのです」


「エリザ、お前……」


今まで一度だって自分の意志を両親に伝えたことはない。


言葉通り、私はサディアス同様に父の都合のよい人形でしかなかった。


でも、人形として生きても結局のところ幸せになるどころか、王子に婚約破棄され、誰かに殺される人生しかないのなら従い続ける理由はない。


私の人生は私のものであり、サディアスの人生もまたサディアスのものなのだ。


サディアスは私に父の意思を背く覚悟があることを知り、驚いていた。


「だから叔父上もいつまでも父の後ろに隠れていないで、自分の意志で動いてみてはいかがですか? あなたは父の配下ではなく、同じヴァロワ一族の人間なのですから」


私はそれだけを告げて、彼の前から去った。


これ以上何かを告げても、彼に強い意志がなければ何も変わらない。


もし、ここでサディアスが学園を去ったとしても私は次の手を考えるだけだ。


彼が残ったところでマルグリットが学園を去ってくれるとは限らない。


私が出来る抵抗もここまでだろうと思った。


サディアスはやはりそれ以上何も言ってこなかった。


悔しそうな表情で私の背中を見つめるばかりだ。


そして、彼はそのまま数十秒間立ち止まっていたが、覚悟を決めたのか学長室の扉をノックした。


学長室から学園長の声が聞こえる。


彼はその返事を聞いて、部屋の中に入った。


そこには予想通り、兄のヘンリーも一緒にいた。


彼は手に持っていた封筒を手の中で握りしめ、それをポケットに突っ込んだ。


「学園長、兄上、二人にお話があります」


彼はそう言って扉を閉めた。


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