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84話 暴走

二人は黙って倉庫の中で誰かが自分たちを探しに来るのを待っていた。


倉庫の中は思いのほか静かで、時間もゆっくりと流れていく感覚がする。


隣り合わせに座る二人の手が軽く触れた。


その瞬間、お互いの体温の温かさを感じ、二人の鼓動は一気に早くなった。


「ご、ごめんなさい」


アメリアはつい癖で謝ってしまう。


いつもならそれほど気にならないこんなハプニングでも、こうして静かな密閉された空間で二人きりにされてしまうと意識せずにはいられない。


既に二人の想いが通じ合っていることもわかっていたからだ。


ウィリアムは自分の心を落ち着かせ、ゆっくりとアメリアの顔を見つめた。


彼女の顔は真っ赤でこんな初々しい彼女を見るのは久しぶりだった。


「こんなふうに二人きりになるのは久しぶりだね。いつも君の近くには誰かがいたから、こうしてゆっくり時間を過ごすこともなかった」


アメリアも顔を上げ、彼の顔を見つめた。


「最初はこうして君を簡単に独り占め出来たのに、いつの間にか君は人気者になってしまって、僕の手の届かない場所に行ってしまう気がしていた」


「そんなことありません。私は入学したあの日から何も変わっていません。あなたに声を掛けられ、馬車に乗せていただき、平民である私になんの隔たりもなく話しかけて下さったのはウィリアム様が初めてでした。あなたがいたから私はこの学園で勇気をもっていろんなことに挑戦で来たんです。ルークたちと仲良くなれたのも、ウィリアム様がいたからです」


感謝していますと彼女は微笑んだ。


ウィリアムは初めて彼女と出会った時の事を思い出していた。


その時の表情は今の彼女と何も変わらない。


そして、その時からウィリアムは彼女に惹かれていたのだと実感した。


「僕も同じだよ。僕も君がいたから頑張れたんだ。君が僕の心の支えなんだ」


ウィリアムの表情も自然と柔らかいものに変わる。


お互いに数秒間、見つめ合っていた。


自分たちの想いが体中から溢れそうな感覚がして、自然と顔と顔が寄せ合う。


アメリアがそっと瞼を閉じた時、突然扉から何か激しい音が聞こえた。


誰かがドアを開けようとする音だった。


二人は慌てて入り口に目をやる。


そして、音が鳴りやまったと思うと扉はゆっくり開き、そこに一人の人物が立っていた。


それはあまりに意外で二人は声が出なかった。


そこにいたのが息を切らしたエリザだったからだ。






エリザが倉庫の前に立った時、扉が閉まっているのが見えた。


自分の予測が間違っていたのかと一瞬思ったが、扉は閉まっていたのに鍵が掛けられていないことに気が付き、この状態でアメリアが中にいるのではないかと思った。


金属の閂がかかっているだけで、施錠はされていないのでエリザでも開けられる。


そのさび付いて固くなった閂を懸命に動かし、重い扉を力いっぱい開けた。


中には予想通りアメリアがいて、その隣にはウィリアムも座っていた。


この独特の空間で良い感じになっていたのは見て取れる。


完全に私が邪魔をした状況になってしまったが、今はそれどころではない。


私はアメリアに向かって叫んだ。


「アメリアさん、リオ・ハールゲンが暴走した。あなた、彼が闇属性なの知っていたわよね? 今の彼を止められるのはあなただけなの!!」


助けてと懸命に目で訴える。


するとウィリアムも驚いたのか立ち上がって、私に尋ねた。


「闇魔法? まさか……。そうだ。ニルソン教官はどうしたんだい? 彼女なら彼の暴走を止められるだろう?」


「それが見当たらないから彼女を呼びに来たんです。お願い。すぐに彼を助けて!」


その言葉に引っ張られるように彼女は立ち上がり、微かに感じるあの独特の感覚に気づき、飛び出した。


ウィリアムは止めようとしたが、こうなった彼女をもう誰も引き留められない。


リオもアメリアにとって大切な人の一人なのだ。


「しかし、彼女の光魔法はまだ完璧じゃない。やはり、ニルソン教官を探した方が……」


ウィリアムは酷くアメリアを心配しているようだった。


この国では闇魔法は珍しい。


そして、恐ろしいものだと認識されている。


それにウィリアムは実の兄が闇属性の持ち主なので、その恐ろしさを良く知っているのだ。


宮廷魔術師のような熟練の光魔法の魔術師ならまだ知れず、アメリアでは不安が残る。


しかし、私は知っていた。


このイベントはアメリアでなければいけないことを。


正規の筋書でもリオを救ったのはアメリアなのだ。


だから今回もうまくいくと私は確信のようなものを持っていた。


それでもウィリアムが複雑な感情を持っているのは見ていればわかった。


こんな時、婚約者としての私はどのような顔をしていいかわからない。


私はそっとその場を離れて、リオ達の元に向かった。






リオの暴走は更に酷いことになっていた。


アメリアを見つけたサディアスが彼女に声を掛ける。


「ウォンバス教官! ニルソン教官はいらっしゃらないのですか?」


「ああ、探しているのだが見当たらない。申し訳ないがアメリア、君の力を貸してくれないか?」


教官として何もできないことが悔しかったが、今は彼女に助けを求める事しか出来ない。


彼女は深く頷いて、リオを見つめた。


彼は自分の身体を抱き込むようにして懸命に耐えていた。


身体から漏れ出す黒い影。


身体に纏う激しい風。


彼がとても苦しそうな表情になっていたのがわかった。


「リオ! 今行くから!!」


彼女はリオにそう叫んで風に向かいながら、進まない足を懸命に動かし、彼に手を伸ばす。


「ダメだ、アメリア! 危険だからボクに近づかないで!!」


「そんなこと出来ないわ! あなたがそんなに苦しんでいるんだもの。ほっとけるわけないじゃない!」


彼女は止めるリオの言葉も聞かないで着実に近づいていく。


時折、闇の鞭が彼女の身体や顔に当たり、肌を切り裂く。


その度に少しだけ流血をした。


彼に手が届く場所に行く間に、彼女の身体中に切り傷を作っていた。


「ごめん、ボクの所為で……」


泣きそうな顔のリオがアメリアに告げた。


彼女は首を振り、彼の腕を掴む。


「当り前じゃない。リオは私のとって大切な友人だもの」


そう言って彼女は優しくリオを包み込むようにして抱きしめた。


それでも暴れ出すリオの闇魔法。


「やめてよ、アメリア! このままじゃ君が大怪我をしてしまうよ」


リオも必死に叫ぶがそれでも彼女は放さなかった。


「怪我してもいい! あなたをこれ以上苦しめたくないの!!」


アメリアが叫んだ瞬間、彼女の身体から眩い光が溢れた。


それは暖かい光と共に彼らを包み込み、あれほど暴走していた力が少しずつ弱まっていく。


そして次第にリオの力も抜けて行き、その場で倒れた。


アメリアはそんなリオを支え、自分の膝に彼の頭を乗せて寝かせた。


暴走が止まり、アメリアの光魔法も消えた頃、リオの意志も戻ったのかうっすらと眼を開けた。


目の前には心配そうな表情をしたアメリアの顔があった。


彼はそっと彼女の頬に手を伸ばし、弱々しく笑った。


「本当は君が来るのを待ってた。なかなか来ないから心配しちゃったよ」


「ごめんなさい……」


彼女は申し訳なさそうな顔で答える。


「謝らないで。こんなに傷つけてしまったのはボクなんだから。傷つけたくないのに自分の気持ちが抑えられなかった。でも、君の温もりを感じた時、すごく安心して嬉しかったよ。ありがとう。君はやっぱりボクの天使だね」


彼女は自分の頬に触れる手を握る。


「大好きだよ、アメリア。君がいたからボクは強くなれたんだ。こうしてここにいられるのも君のおかげだよ。君が側にいてくれたらボクはもっと強く生きられる。君の側にいるだけで勇気が出るんだ。ボクだけのものになってほしいけど、きっとその願いは叶わないよね。それでもボクは願うよ。君がそうして優しく笑っていられるようにってね」


彼はそう言ってアメリアに微笑んだ後、また意識を失った。


魔法の暴走で体力を使い切ってしまったのだろう。


サディアスも近づいて来て、眠りについたリオを抱えて校舎へと移動した。

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