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83話 倉庫

この世界にすっかり溶け込んでしまっていたとしても、忘れてはいけないことだった。


ぼんやりと覚えていたはずのリオの魔法属性。


彼は四属性のオールラウンダーなどではない。


闇属性の持ち主だ。


闇属性のコントロールは非常に難しいという。


しかも、そんな闇魔法に対応できるのは光属性の魔術師だけ。


リオルートではそんなリオの苦しみを光魔法のアメリアが助けるという目的があったはずだ。


リオの魔法が強いことや人前に現れたがらないキャラクターということは覚えていたというのに、肝心のリオルートにおけるクライマックスの展開を忘れていた。


しかも、リオはそのことをギリギリまで隠していたし、打ち明けるのもアメリアだけだった。


恐らくリオが今の私にその話をしなかったのはゲームの筋書を知っている私ならわかっていると思ったのだろう。


当然のことだ。


それが唯一の転生者としての利点なのだから。


未だに私は自分がこの筋書きを理解する者として全く自覚出来ていないことを知る。


しかし、この段階で後悔しても遅い。


リオの闇魔法は突風のように吹き荒れ、黒い靄は鞭のように暴れ回った。


近くの生徒達は悲鳴を上げながら遠ざかっていく。


「お前たち直ぐに校舎に戻れ。ここは俺たち教官が対処する!」


サディアスは周りの生徒にそう叫んで、避難させた。


父も学園長もその場に残り、どうすべきか思案していた。


「マルグリットはどうした!? マルグリットならこの状況を打破できるだろう」


父は腕で巻き上がる風を遮りながら、周りを見渡した。


しかし、マルグリットの姿は見えない。


「何のための光属性の魔術師なのだ。役立たずめ!!」


イライラした様子で父は悪態をついていた。


学園長も袖口から杖を取り出し、被害が拡大しないように対処していたが、やはり闇魔法にはあまり通用しないようだった。


「光属性の生徒ならアメリアがいます。私はアメリアを探しに行ってきます」


サディアスはそう言って現場を学園長に任せ、サディアスはアメリアとマルグリットを探しに行こうとする。


それに対し、父は怪訝な顔をしてサディアスに一括を入れた。


「バカな事を言うな、サディアス! あんな光魔法もろくに使えない小娘に何が出来る。とにかくマルグリットを探せ。あの女がこの状況を把握できていないとは思えない!」


それはそうだと私も父の意見には同意する。


マルグリットは多少離れた場所にいてもこの状況に気づいていないとは思わない。


それに教官の立場でありながらそんなに遠くに行っているとも思えない。


今、ここに現れない理由があるとするならば、この問題を自分ではなくアメリアに解決させようとしているのかもしれない。


それにしたって、さっきからずっとアメリアの姿も見えなかった。


このままではリオの暴走が止められないまま、シナリオは良からぬ方向に進んでしまうだろう。


私は避難するのを辞めて、自らもアメリアを探しに動き出した。


リオイベントにはアメリアの活躍が必須なのだから。


そんな私に気が付いた父が私に声を掛けて来る。


「何をしている、エリザ! お前も直ぐに校舎へ避難しなさい!」


私の耳にも声は届いていたが、聞こえないふりをして校舎とは別の方向に歩き出した。


アメリアがもしこの練習場内にいれば、この状態をほっといて校舎に避難するとは思えない。


だとすれば、この状況を把握しづらい場所にいると考えるのが妥当だろう。


校舎に行っているのなら今頃他の生徒に事情を聞いて、この場所に飛び込んで来るはずだ。


それもないとするならば、校舎でもない室内にいる。


下手をすればこの状況に気づいていても来られない状況にあるのかもしれない。


彼女のような真面目な学生が授業をサボってどこかに行くとも思えないし、考えられる可能性があるとするならば、マルグリットが何か仕掛けた可能性だ。


何のためにそんなことをしたかはわからないが、アメリアが誘われて素直に行く場所を考えた。


それに未だウィリアムの姿が見えないのも気になっていた。


そう言えばと私はこの実習で使う倉庫が目の前の林の奥に建てられていることを思い出した。


もし、何か道具を使って練習をすると言われれば、アメリアなら素直にそこへ向かうだろう。


同時に心配したウィリアムが彼女について行く可能性も十分に考えられた。


私は駆け足で倉庫へと向かった。


――リオ、もう少しだけ堪えて!


私は胸の中で念じるようにリオにエールを送った。






マルグリットに頼まれて倉庫に向かったアメリアはメモに書いてある道具を探し始めた。


元々使う予定だったのか、倉庫の鍵は既にあけられていて、ご丁寧に扉まで開かれていた。


しかし、その必要な道具はなかなか見つからない。


探していくうちに砂埃が舞い上がってしまい、咳をしていると後ろからウィリアムの声が聞こえた。


「アメリア、大丈夫かい?」


アメリアは身体を起こし、振り向いた。


「ウィリアム様! どうされたのですか?」


「ニルソン教官に頼まれてね。荷物運び、手伝うよ」


ウィリアムはそう言って彼女に近づいた。


彼女は慌てて首を振った。


「そんな! ウィリアム様の練習時間を邪魔するわけにはいきません。準備する道具はそれほど多いわけではありませんし、私一人でも大丈夫です」


するとなぜかウィリアムはくすりと笑った。


彼女の服や顔に探し回って真っ白になった砂埃の跡があったからだ。


「そんなこと言って、本当は見つからないんだろう? 僕の事は気にしないでいいよ。一緒に必要な物を探そう」


彼がそう提案して、近くの道具に手をかけると部屋が薄暗くなって、入り口の扉が閉ざされた。


その後、がたんと音を立てて何かが落ちる音がした。


「ウィリアム様!」


「ああ」


二人とも慌てて入り口の方へ近づく。


扉を開けようとしたが、鍵が掛けられているのかびくともしなかった。


「どうしましょう?」


アメリアは困った顔で俯く。


するとウィリアムはすっと杖を取り出して、魔法を使おうとした。


「学園には申し訳ないが、魔法で鍵を開けよう。アメリア、少し離れてくれ」


彼はそう言って杖を構えると、呪文を唱え始めた。


しかし、何の変化も起こらない。


険しい表情のまま再び魔法を使おうとしたが、やはり無反応だった。


「どうしたんでしょう?」


アメリアも異常な状態に気が付く。


「もしかしたらこの倉庫には魔法無効の呪文がかけられているのかもしれない。魔法で鍵を壊せたら施錠する意味がなくなるからね」


アメリアはウィリアムの意見に納得はしたものの、ならばどうここから脱出するか考え、周りを見渡した。


倉庫には小さな窓しかなく、そこからの脱出は難しそうだった。


他には出られそうな場所はなく、彼女たちは途方に暮れていた。


「しかたない。ニルソン教官は僕たちの事を知っているんだ。帰りが遅いようなら心配して確認に来るだろう」


彼はアメリアを不安にさせないようにそう優しく告げた。


彼女もその優しさに気づき、微笑み返す。


そうして二人は隣り合わせに座り、マルグリットが心配して探しに来るのを待つことにした。


しかし、マルグリットが彼女たちを探しに来ることはない。


なぜなら、二人を倉庫に閉じ込めたのはマルグリット自身であり、リオの暴走を促したのも彼女なのだから。


また、サディアスの元にヘンリーを向かわせたのもその二人が揃う姿をリオに見せるように仕掛けたのも、またマルグリットだった。


まだ誰も、そんな彼女の目的を知らないでいた。

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