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77話 校外演習

入学して半年近く経つと、魔法技術の差にも如実に表れてくる。


私もあれから少しずつだが、魔力量や魔力が向上して、今では簡単な攻撃魔法と防御魔法を使えるようになってきた。


そしてついに魔法実習は校外演習、つまり本物の魔物相手に戦う訓練が始まった。


組みわけは安全を期して、実力に斑が出ないように均等に分かれる。


当然、上位のアメリア、ウィリアム、ルークはバラバラとなってしまった。


それにもかかわらず演習経験が浅いことを理由になぜか実質上、魔法技術トップのリオがアメリアの班に組まれていた。


それを不満そうな顔をしてルークが睨みつけていた。


「わぁい。アメリアと同じ班だ。よろしくね」


彼はわざとらしく大きな声を出して喜んで見せた。


本当に彼の正念が腐っているなと感じる。


ルークなんて頭から煙が立ちそうな状況だ。


そんなルーク班にいる私もなかなかの不運だと思う。


リオは一体何を考えているのだろうと理解できないまま見つめていた。


「学園長先生から聞いているわ。本当はリオ、魔法が得意なんでしょ? 確か四属性全て使える、オールラウンダーだとか」


喜んでいるリオにアメリアは話かけた。


その話を聞いて、私は首を傾げる。


リオってサディアスと同じ四属性の使い手だったろうか?


何となく腑に落ちない。


リオは一瞬、複雑な表情をしたがすぐにいつもの笑顔に戻った。


「アメリアは何でも知っているね。でも、ボクの魔法にはばらつきがあるからウォンバス教官のように万能ってわけじゃないんだ。それよりもアメリアの方がすごいよね。君って光魔法の使い手なんだろう? このオルガルドでは珍しいって聞くよ?」


リオがそんな風な話をするとアメリアは珍しくちょっと困った顔をした。


「そうなんだけれど、私はまだ光魔法を使いこなせていないの。光魔法は珍しいから教えられる人もいないし、独学で身に着けようとはしているんだけれど、他の魔法とは少し感覚が違うみたいで」


そうかとリオは驚きもせず、彼女の話にただ納得した。


私は光魔法の事はよく知らなかったし、ゲームでは使うべき時に使えていたから、そんなことで悩んだことはなかった。


ゲームの時は、気持ちが盛り上がった時に発動していた気がする。


それに光魔法よりも第一王子が持つ闇魔法の方が更にコントロールが難しいと聞いていた。


「なら、お互いに頑張ろうよ! ボクも手伝えることがあったら言ってよ。協力するからさ!」


彼はそう言ってアメリアに笑いかけた。


彼らの間はやけに賑やかだなと多くの生徒が注目していた。


今まで全然授業に参加していなかったというのに、急に出て来たと思ったらこんなに目立って、他の生徒に反感を受けなければいいが。


もう一名には目を付けられているようだ。


歯ぎしりをしながら睨みつけているルークがここから良く見えていた。


私がグループの列の後方に並んでいると、後ろでがたんと何かが当たる音がした。


振り向いてみると真っ青な顔をしたサディアスが荷物を運んできた馬車に寄りかかっている所だった。


これはいけないと私は彼に駆け寄る。


「ウォンバス教官、大丈夫ですか?」


私はただ心配して声をかけたのに、彼は私の顔を見るなり睨みつけて、私を振り払う。


「俺にかまうな! お前は列に並んでおけ!!」


そこまで怒るとは思わず、私は困惑していた。


この間のリオと言い、サディアスといい、心配している人間に向かってよくもそこまで無下に扱えるものだなぁと腹が立った。


ただ、人は弱っている時こそ本音が出るという。


サディアスが私を毛嫌いしているのは本当のことのようだ。


「わかりました……」


私はそう言って彼のいう通りに列に並び直した。


彼は必死で身体を起こし、真っ青な顔を誤魔化すようにして平静を装い、生徒達に声をかけた。


今回は校外演習ともあって、担当教官以外の教官もついて来ている。


二班に約一名の教官が付くようだった。


「この森には下級魔物しか殆どいない。魔法初級者でも簡単に倒せ、無暗に襲ってくるものも少ないだろう。しかし、気を抜くな。校内で戦って来た張りぼての魔物とは違うからな。万が一大物の魔物が現れた場合、無理して戦おうとはするな。必ず近くに教官がいる。速やかに教官を呼ぶようにしろ!」


生徒達に少しだけ緊張が走った。


やはりいくら下級魔物と雖も、本物を相手にするのだから多少なりとも不安は感じていた。


私達、ルーク班はアメリア班と一緒にサディアスが同伴することになった。


私は顔色の悪いサディアスを見て、不安を感じていた。






サディアスが調子を崩したのは、朝出勤し、教官室に入った時だった。


部屋に入るなり、サディアスは他の教官に呼ばれる。


「ウォンバス教官、こちらに来てください」


彼は教官に言われるまま近づき、前に学生服を着た幼げな少年がいることに気が付いた。


少年の顔を見るとサディアスの鼓動は突如激しくなった。


身体中で感じる恐怖の感覚だ。


目の前にいるのは無邪気に笑う少年なのに、なぜかサディアスには恐ろしいと感じていた。


「彼がテオ王子の推薦で入って来たリオ・ハールゲンですよ。歳もまだ14歳だが、優秀なようでしてね、今まではクラスに会わず科学室に入り浸っていたのですが、やっと授業にも出る気になってくれたみたいで」


教官の説明が終わると、リオはにっこりと笑ってサディアスに挨拶した。


「よろしくお願いします、ウォンバス教官!」


彼の声がサディアスの頭の中で不協和音のように鳴り響いた。


そして一気にあの時の記憶が蘇る。


杖で放った魔法が王に直撃し、倒れる姿。


周りの騒ぐ声。


スローモーションのように倒れていく王の姿の後に聞こえる幼い少年の声。


それがサディアスの頭の中で歪み、不快な感覚に陥った。


身体がよろけそうなのを必死に抑えながら、彼は手で口を押さえて挨拶をする。


「よろしく、リオ」


彼はそれだけ言い残して、教官室を足早に出て行った。


そしてそのままトイレに駆け込む。


頭の中がぐるぐると回るような感覚に陥り、ついに戻してしまった。


学園に来て仕事中に戦場がフラッシュバックするのは初めてだった。


彼はそのまま壁に身を預けた。


なぜだかよくわからなかったが、リオからはあの時感じた嫌な感覚と同じものを感じた。


黒い靄が夢に出てくる度に感じる不気味な感覚。


彼はそっと目を閉じ、自分を落ち着かせた。


それは校外演習の時も同じだった。


体調は万全には戻っていなかったが、動けるようになって演習に向かうと楽しそうなリオの声が聞こえて来た。


それを聞いた瞬間、またあの感覚に襲われる。


そして、足元が崩れるような感覚に陥り、彼は近くにあった馬車の荷台に思い切り手をついた。


それに気が付いたエリザが彼に近づいて来たが、彼は彼女を見ると更なる不安に襲われる。


戦場で聞いた兄の声。


ボロボロになった自分を睨みつける赤い瞳。


それを彷彿とさせる何かがあった。


だからつい、彼女が親切心で差し伸べた手も払いのけてしまったのだ。


今は生徒と雖もエリザの顔も、リオの顔も見たくはなかった。


それでも教官である以上、授業を進めなければならない。


彼が生徒達の前に出ようとした時、アメリアが彼の顔色の悪さに気が付いた。


そして、小声で話しかける。


「ウォンバス教官、大丈夫ですか?」


すると彼は彼女の顔を見て、弱々しく笑う。


「大丈夫だ。俺のことは気にするな」


そう言って彼は生徒達の前に立ち、今日の演習の説明を始めた。


どんな理由にせよ、この学園の教官という立場を失うわけにはいかない。


彼は必死に教官としての役目を果たそうとしていた。

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