72話 二人との試合
私は本当にびっくりしていた。
ゲームではアメリアが棄権することでルークと戦うことはなかったが、それは正解だったのではないかと思う。
攻略対象がこんなにあっけなくヒロインに負けるところなど、世の中の奇特なルークファンたちに見せられるわけがない。
ルークが手を抜いていなかったのは誰もが理解している。
それでもほぼ瞬殺だった。
ルークは何が起きたのかもわからないまま、会場に真っ青な顔で立ちすくんでいた。
いつもならいい気味だと笑っていただろうが、今回はこんな多くの大衆の前で醜態をさらすことになるとは哀れ過ぎて目も当てられない。
トーナメント表を変えて、アメリアと戦わせるように仕組んだのは私だ。
多少なりともルークには罪悪感はあるが、全ては終わったことだと開き直った。
次のウィリアムとの対戦がまだ残されている。
この状態では、ウィリアムもあっさりやられてしまうかもしれない。
授業の成績はルークよりもウィリアムの方が上だが、試合となればどこまで実力を出し切ることができるかわからない。
「君、ちょっと、君!」
どこかから声がすると思ったら、柱の陰に隠れているリオだった。
こんな公の場でリオを見るのは初めてだったので、つい声を上げてしまった。
「リオ、こんなところでどうしたの? 会場に来るなんて珍しい」
私は口を押え、驚いて見せた。
リオは思い切り不快そうな顔をして私を睨む。
「君が協力しろって言ったんだろう! 最初のアメリアの試合は散々だったんだからな!!」
リオはかなりご立腹な様子だった。
正直、私はモブキャラ二人を捕まえることがやっとでアメリアの試合は見られていないのだ。
リオが約束通りに試合を見に来てくれて、本当に運が良かった。
やはりあの試合はモブキャラを捕まえたところで、アメリアがあっさり勝つようには出来ていなかったようだった。
リオが居なければ、今頃アメリアは確実に怪我をして棄権していただろう。
「リオが来てくれて本当に助かったよ。今のところ、いい感じで宰相にアメリアの実力を見せられているからね。後はウィリアムとクラウスに勝てば、優勝間違いなしだよ」
私がにこやかにそう答えると、なぜかリオは気まずそうな顔をする。
「そのことなんだけど、もしこの大会で優勝した場合、アメリアは学校を辞めさせられて宮廷魔術師候補として王宮に上がる話が上がっている」
「まさか!」
私はリオに向かって、また大声を上げてしまった。
リオは隠れながら人差し指を立てて、しっと声が大きいと窘める。
「宰相とクラウスが話していたところを直接聞いていたから間違いない。本当にアメリアが大会で優勝して宮廷魔術師候補となれば、君の破滅ルートは回避できる可能性は出てくるけど……」
その続きをリオは言いたがらなかった。
なので、続きは私が答える。
「おそらくそれではシナリオが総崩れしてしまうよね。きっとプログラムは何が何でもアメリアを勝たせようとはしないだろうけど、どうなんだろう。正直なところ、今のアメリアに勝てそうなのはクラウスぐらいだよ」
リオは私の言葉にゆっくり頷く。
「クラウスも勝つつもりでいる。しかし、アメリアは四属性をもつ光魔法の使い手。いくらクラウスが強くても水魔法のみの彼がアメリアに簡単に勝てるとは思えない。そう考えると今後どのようなイベントが起きるかボクも予想ができないよ」
確かにと私も頭を悩ませた。
本来のシナリオを崩すということは知っていたはずの結末を変えることで、それは私たちの唯一有利に立てる条件がなくなることでもある。
アメリアがこのまま宮廷魔術師候補に上がることはないとは思うが、万が一にもそうなれば情勢は大きく変わることになるだろう。
「とにかく経過を見ていこう。私たちは私たちが出来ることをするしかないよ」
私はそう言ってリオから離れようとしたが、その時のリオの顔は沈んでいた。
「どうしたの?」
私はリオに声をかける。
しかし、彼はすぐに顔を上げていつもの表情に戻った。
「何でもないよ。君もボクの魔法ばかり期待していないでよね。君のためのシナリオ改変なんだから、自分のことは自分でどうにかすること」
リオはそう言って背中を向け、またどこかに消えていった。
今日のリオはいつもとは違う気がしていたが、リオが科学室の外、しかもこんなに人が溢れている場所に来ること自体稀なので、調子がくるっているのかもしれないと思った。
ついに、ウィリアムとアメリアの試合となった。
お互いに少し気まずそうではあったが、手を抜く様子はない。
アメリアがこんなに本気で大会に臨むとは思わず、私としては意外であった。
準決勝はさすがに一つのコートで行われる。
大衆の視線が集まる中、ブザーが鳴り試合開始となった。
アメリアは杖を構え、ウィリアムに攻撃を仕掛ける。
ウィリアムもルークのようにやられまいと、持ち前の運動神経の良さで彼女の攻撃をかわしていた。
思った以上にこれは苦戦するかもしれない。
私はどちらを応援すべきなのかはっきりしないまま、ただ試合を観戦していた。
ウィリアムがアメリアに近づき、火魔法で間近で攻撃を仕掛ける。
私とルークの試合の時もそうだったが、魔法とは基本的に距離を取って戦うものだ。
それを詰めて戦われるとほとんどの魔術師はやりにくさを感じる。
それはアメリアも同じだった。
アメリアの動きが鈍くなってきたことを察すると、ウィリアムは杖をうまく使い、火魔法で杖を火の剣に変えた。
そして、アメリアに直接切り込んでいく。
これはなかなかと感心する。
魔法を逆手に取って、接近戦に有利な剣術で対抗しようとは思いもつかなかった。
これではアメリアも攻撃よりも防御に徹するしかない。
アメリアのあんな苦しそうな表情は初めて見た。
ウィリアムは本気で好きな相手であろうと全力で勝ちに行く気らしい。
しかし、アメリアもそのままやられる気はないようだ。
アメリアはウィリアムとの間に隙を作って距離を取る。
そして、そこからなぜか見当違いな場所に攻撃を放った。
それを逃すまいとウィリアムがアメリアに接近するとなぜかその放った魔法は、何かに弾かれてウィリアムの背中に向かって飛んできた。
予想外の出来事にウィリアムは対応しきれず、アメリアの攻撃を直に受けて彼女を切りつける前に倒れてしまった。
なんとまぁ、アメリアは強いことか。
しかも負けん気も強いと見た。
そんな彼女を怒らせれば大変なことになると実感し、背中に悪寒が走る。
私はなんていう人物を敵に回そうとしているのだろうか。
その場で審判がアメリアの勝利を告げた。
ウィリアムもかなり頑張ったと思う。
彼は倒れた体を起こし、アメリアの前に立つと握手を求めた。
「悔しいけれど今回は僕の負けだ。次に試合をする時は必ず君に勝つよ」
そう言ってお互いに顔を合わせ、微笑み合った。
今のところは順調にアメリアが試合に勝っている。
そして、最後の相手は当然クラウスとなるのだが、今日の彼はいつもに増して冷たい空気を纏っていた。
彼女の学生生活がかかっているのだ。
クラウスも本気でアメリアに立ち向かうつもりらしい。
私はまだクラウスが魔法を使うところを一度も見たことはなかった。
ゲームでも強いということばかり強調されているだけで、実際はどれほどの力があるのかは知らないのだ。
ましてやこうしてアメリアと戦うことなんて一度もなかった。
次の試合は誰もが注目する今までにない試合になりそうだと思って、何も知らない彼女を見つめた。




