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71話 トーナメント表

会場を見えづらくしていたその砂埃を審判が風魔法で退けると、そこには膝をついたアメリアと会場に倒れていた男子生徒がいた。


一瞬のことで何が起きたのかわからなかったが、男子生徒が既に戦える状態ではないと判断し、試合を中断する。


そして、勝者がアメリアであると告げた。


つまり、アメリアは試合に勝ったのだ。


とは言っても、アメリア自身もこの状況には唖然としていた。


なぜなら、自分が全く攻撃していないというのに相手が勝手にノックアウトされていたからだ。


彼の真下には穴がいくつか開いており、土魔法による攻撃であるのはすぐに分かった。


アメリアは土魔法を使うことが出来るのだから、周りからしたら何の違和感もないが、アメリアには身に覚えがないことだった。


それに相手も風魔法の使い手だったはずなので自滅したとも考えづらい。


そしてもう一つ気になっていたのが、試合中自分の足に水の渦が絡まり、確かに誰かの攻撃を受けていたということだ。


何が起きていたのか理解できないまま、彼女の次の対戦相手がルークであることを知った。


当然、アメリアに攻撃を仕掛けたクラウスも驚いていた。


なるべく彼女に大怪我をさせまいと配慮したつもりだったが、それ以上に相手がやられていた。


恐らく土魔法で蔓を作り、それを操って生徒の足に引っ掛け、身体ごと振り回したのだろう。


彼にも大きな怪我はなかったが、アメリアらしくない戦い方だ。


呆然と立ち尽くすアメリアを見ながら、クラウスは顔を顰めていた。






「おいおい、俺の今度の試合相手、アメリアになってるじゃねぇか。確か、次の試合はウィリアムとだっただろう?」


トーナメント表を見ながらルークは運営委員たちにそうぼやいた。


「急遽順番が変わったみたいで。もしかしたら、今回の大会は宰相がいらしているのでその配慮かと」


ルークは納得していなかったが、今更変更するわけにもいかない。


次の試合は三つあった会場から二つに絞られて行われる。


つまり観客が更に増える計算になるのだ。


しかも、公爵家のルークと光属性のアメリアの試合となれば注目度は更に高まるだろう。


「アメリアと試合なんて、本気出せるわけねぇだろう」


ルークがそう言って机を叩きつけていると、そこにクラウスが現れた。


相変わらず凍り付くような冷酷な顔をしている。


「聞き捨てならないな、ルーク。相手が好きな女だからってお前は手を抜くのか?」


その言葉を聞いて、ルークはクラウスをきつく睨みつけた。


「俺だって嫌だけど、仕方ないだろう? 俺がアメリアを傷つけられるわけねぇ」


「ふざけるな!」


ルークのその言葉に対し、クラウスは怒鳴りつけた。


「この大会はただのお遊びじゃない。我が学園の伝統的な行事の一つだ。この大会で将来の決まる者もいる。そんな理由で大会を穢すなど俺が許さない」


クラウスはそう言ってルークに杖を突きつけた。


それを見た周りも唖然とする。


「クラウス様、こんなところでおやめください」


運営委員の一人がクラウスに近づいて止めた。


「お前が誇り高き公爵家の嫡男だというなら本気でやれ。アメリアはお前が手を抜かなくても勝てる強さを持っている。女だからと侮っているなら、お前が恥をかくだけだぞ」


彼はそう言って杖をしまい、彼の前から離れていった。


ルークは悔しそうに地面を睨みつけていた。






「順調、順調!」


私はトーナメントの結果を見ながら浮足立っていた。


私が立てた計画がこんなにすんなりと進んだことはあるだろうか。


今のところシステムの弊害もないし、すんなりとアメリアを優勝させられるのではないかと思っていた。


それに対戦相手がウィリアムとルークなら、私が知る限りでもアメリアの方が強い。


彼女がわざと手を抜く可能性はなくはないが、それは男にとって侮辱されているのと同じ。


二人がそれを許すとは思えなかった。


「エリザ!」


説教を終えて、運営サポーターの仕事に戻ろうとしていた私に誰かが声をかけて来る。


振り向くとそこにはウィリアムが駆け足で近づいて来ていた。


「君も運営の仕事を手伝ってくれているそうだね。ロゼたちに聞いたよ」


また余計な事をと笑みを浮かべながら、心で呟いた。


「私の中のボランティア精神が疼くんですよ。それより、ウィリアム様は見事勝ち進んで、準決勝まで行けそうなのでしょう? 準決勝ではアメリアか、ルークと対戦になるんじゃありませんか?」


「その事なんだけど」


ウィリアムは私に不安そうな顔を見せた。


「確か次の試合は、僕とルークの試合のはずだったんだよね。いつの間にかトーナメント表が変わっていて、先にアメリアとルークが戦うことになっているんだ」


私はぎくりと身体を揺らした。


それを突如変えたのは私なのだから。


「運営委員の誰に聞いても変えた記憶がないって言うんだよ。ただ、正規のトーナメント表を見たら確かに順番はあっていて……」


これはバレそうだと私は慌てて、適当な理由を予測した。


「きっとあれですよ。宰相の視察があるとか言っていたので、急遽アメリアの見せ場を増やしたんではないですか? 生徒が知らなくても教官が指示したのかも。でも、その教官も今は試合の審判中。確認は大会を終わってからでも良いのでは?」


バレませんようにと私は心で祈った。


折角うまくいっているのに変なところで妨害は受けたくない。


「試合が進んでしまった以上、今更変更も出来ないし、このまま試合は続行するみたいだけど、心配だなぁ。ルークはちゃんとアメリアと戦えるのだろうか?」


私はウィリアムの言葉に首を傾げる。


それではルークだけが本気を出せないみたいじゃないか。


それはウィリアム自身も同じだと思っていたからだ。


「ウィリアム様もアメリアとは戦いたくないのでしょ? もしかしてこの試合、ルークに軍配があると思っています?」


いやっとウィリアムは首を振る。


「ルークには悪いけど軍配はアメリアにあると思っているよ。アメリアは僕らよりもずっと強い。それは光魔法を使わなくても、今の彼女に魔法で勝てる生徒はいないんじゃないのかなぁ」


「それは生徒会長もですか?」


その言葉を聞いて、ウィリアムは一瞬固まった。


確かにアメリアは強いけれども、この学園の一位と目されているのはクラウスなのだ。


ウィリアムは悩みながら答えた。


「それは何とも言えない。実際、あの二人が戦っているところを見たことはないからね。それでもクラウスなら彼女に本気で立ち向かうだろうね。彼が情に動かされて手加減するとは思えない」


それは私も同じだった。


アメリアは魔法の適性能力が誰よりも高いが、クラウスが私達より一年多く魔法を学んでいる。


サディアスほどの実力が最初から備わっていたわけではないようだが、彼の努力で自らの魔法技術をここまで向上させたのだ。


ウィリアムは試合会場を見て、アメリアたちの試合が始まることに気が付いた。


「エリザ、悪い。僕は行かなくてはいけないところがあるから、この話はまた後で」


そう言って彼はまた人ごみの中へと駆けて行った。


私もルークとアメリアの試合は気になっていた。


ここからは観客も増え、第一試合の時のようにはいかないだろうから私が手出しすることは出来ないが、アメリアには思う存分、宰相の前で力を発揮してほしいと願った。

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