68話 名案?
「ついに私にも名案が浮かびました!」
私は手を上げ、食い気味にリオに話す。
リオは近づけた私の顔を金属製のトレーで押しのけた。
「それはいいから、その鬱陶しい顔を引っ込めてよ」
麗しい乙女に向かって鬱陶しい顔だなんて。
しかもトレーで人の顔を押し潰すとは扱いが雑過ぎないか?
私は押し付けられ赤くなった頬を撫でながら、説明した。
「この大会でアメリアを優勝させます!」
「何言ってんの、君……」
明らかに馬鹿にしたような蔑んだ目で見つめるリオ。
私の言葉には全く信用がないようだ。
まぁ、今まで悉く私のやったことがいい方向に向かっていない上に、毎度積み重ねたものを踏み倒してきたのだから、信用がないのも頷けるのだが。
「ゲームではこの大会、アメリアの想い人が優勝するんだよね。想い人って言っても生徒会に入って、ウィリアム、ルーク、クラウスのどれかのルートに入らないとないイベントなんだけど、大会でアメリアが怪我をしてしまって棄権してしまうので、彼女が彼らと戦うことはないの。でも、今回は折角なので戦ってもらおうと思います」
「どうやって?」
ゲームの全貌を知るリオだろうけど、おそらくここまで細かい内容は教えられていないはずだ。
ふっふんと私は鼻を鳴らし、腰に手を当てて答えた。
「アメリアが大会で怪我をしてしまった原因は、なんたってこのわたくし、エリザが仕掛けた罠。アメリアを優勝させまいと仕組んだことなのです!」
「自分がしたことなのに、そんなに胸張って言うこと?」
リオは脱力したような顔で指摘する。
「なので、今回は罠を仕掛けません!」
「そうだとしても、君がやらなければ別の人間がやるんでしょ? 意味ないじゃん」
「そこなのよ、そこ!」
私は指を立てて、再び食い気味に話した。
「つまり、この嫌がらせを阻止できればアメリアが怪我をすることはないってことでしょ? もともとこの大会で優勝できるほどの実力はあるんだし、怪我さえなければ優勝だってありえるのよ!」
私が言い終わった瞬間、今度は真正面から金属性のトレーを押し付けて来た。
私の顔全体が完全に押し潰されている。
前世の時の顔ならまだしも、侯爵令嬢エリザはなかなかの美少女なのに台無しじゃないかと不満な顔をした。
「それで君に何のメリットがあるって言うのさ?」
リオの質問に私はちっちと人差し指を立て左右に揺らした。
「私のメリットではない。アメリアの将来に繋がるお話。前も言ったでしょ? この世界の目的はアメリアを幸せにする事。その一つが想い人と結ばれることで、もう一つが地位の獲得。今回の大会にはあの宰相も視察に来るんだって。ここで実力が発揮できれば、アメリアの将来は決まったようなものじゃない。わざわざ、魔王を倒さなくても世間に認めてもらえるわけでしょ?」
「君は相変わらずこのゲームに肩入れしたいの? それにもし誰も罠を仕掛けなくてもアメリアが自ら怪我をする可能性だって残っているでしょ?」
リオの言うとおりだ。
この筋書きにアメリアの怪我が重要なポイントならばシステムは必ず辻褄合わせをしてくる。
つまり、誰も罠を張らなくてもアメリアが棄権にするように流れを持っていくということだ。
「そのためにリオの協力が必要なんじゃない! 罠の阻止だけなら私一人でも可能だけど、アメリア自らってなると私ではどうやっても阻止できない。そこでリオにはアメリアが怪我しないように見守ってほしいの。そして、いざとなったら魔法で助けてあげて」
それを聞いたリオがあんぐりと口を開き、複雑な表情を見せた。
「嫌だよ、そんなの! 試合中に魔法なんて不可能だろう? 結界だって張られているし、見つかったら反則負けになっちゃうよ」
「ああ、あの結界って中には有効なんだけど、外からは無効なんだよね。所詮は学生が張ったものだし、教官のそれよりずっと荒いの。じゃなきゃ、エリザの罠だって仕掛けられていないでしょ? 今回の試合では審判も結界の外にいるわけだし、何かあれば介入する必要もあるしね。まぁ、見つかるかもって言う可能性はないわけでもないんだけど、リオならなんとかなるんじゃない? それにあのアメリアが自らポカするとも思えないし、あっさりうまくいくかもよ」
私のそのいい加減な計画にリオはとても不満そうだった。
しかし、今まで一度も成功していないこの私に綿密な作戦など立てられるわけもなく、リオもどこか納得しているようだった。
「それでアメリアを世間に認めさせてどうしたいのさ。卒業後の就職先を案内させても、魔王討伐の大きなイベントは回避できないと思うけど」
この魔王討伐はこのゲームの盛り上がりのクライマックスイベント。
システムがどやったってこのイベントを断念するとは思わない。
魔王討伐ほどのビックイベントを別に用意するなら違うのだろうけど。
「確かにそうなんだけど、これも積み重ねだと思うんだよね。前も言ったけど、この世界は軌道修正出来ても、過去を改変することは出来ない。だから、システム通りに進んでいるように見せかけて、見えないところで変化を持たせるしかないんだよ。少しずつこちらの思惑に誘導していく。まずはその一歩として、大会でアメリアを優勝させ、この段階でアメリアが優秀であることを全生徒に、いや宰相に見せつけるんだよ」
まだ納得は出来ていないようだが、これ以上否定するつもりもないようだった。
「まぁ、何もしないよりはいいけどさ、ボクにあんまり期待しないでよ。もし直前になってうまくいかないと判断したら、ボクは一切手を出さないで立ち去るからね。その時はアメリアが怪我をして棄権したとしてもボクは責任をとらないよ」
「もっちのろんだよ!」
私はそう言ってリオに親指を立てて見せる。
リオが絶対協力しないとは言わない分でもいい方向に進んでいると思う。
このゲームとは違う結果が今後にどう繋がるかわからないし、これに対しプログラムがどう修正をかけてくるのかもわからないが、まずは何事も動いていくしかない。
これがクラウスイベントならクラウスの方でも何か動くはずだ。
それに私がイベントに関与することは出来ても、殆ど口もきいた事もないクラウスルートに直接関わることは出来ない。
その分、瞬時に対応できる幅もギルバートやルークの時と比べて少ないはずだ。
だからこそ、試合の結末を変えることで新しい流れを作る。
運命の流れ全体を動かすのは難しくても、少し展開を変えていくことは可能だ。
「この試合の結末が変えることが出来ても、これだけでは私の破滅ルートへの進行は止められないのはわかってる。ただ、このゲームのヒロインは多くのプレイヤーに感情移入させるために深い思考を持たせていない。持たせれば、それは個性に繋がるから、あまり考えないようにさせているんじゃないかな。それでも、私が別荘地でアメリアに激怒した時、確かにアメリアの心は少なからず動いた。ということは、彼女のその受動的な思考から能動的な思考に変化させられれば、私の死や魔王討伐がアメリアにとって本当に幸せな結末であるか考え直させることが出来ると思う。そういう積み重ねが、最後の逆転に繋がると思うんだ」
以前、リオが話していたように、この世界の鍵はアメリアの価値観にある。
アメリアの思う幸せが世界の最重要項目だとするならば、彼女が思い悩んだ時点でその結末を進行することは出来ない。
彼女に誰かの死の上で成り立つ幸せが本物でないことを私は知らしめたいのだ。
そのためにも今の彼女のように受け身であってはいけない。
自分で考え、悩むことで運命を変えられることが出来る。
このイベントでどこまで彼女の考えを変えさせられるかはわからないが、攻略対象たちと戦わせることで今までにない感情を芽生えさせたいのだ。




