64話 オセロ
「それだと結局親族である私は父と共倒れになるだけでしょ? このまま私がアメリアに何の危害を加えない状態でウィリアムが婚約破棄を申し出た場合、一番に不服を申し立てるのは父、ヴァロワ卿だよ。そして、下手をしたら協定は破られ、戦争になるかもしれない。そうなったら軍事力を持つ父がこの王国を撃ち滅ぼす可能性だってある。でも、プログラムはどうしたってそうさせたくはないだろうね。この国がなくなれば、アメリアの幸せという主旨が守られないわけだから」
リオだってそれぐらいわかっていたはずだ。
むしろリオは自国を滅ぼしたこの王国に滅んでほしいとでも願っているのだろうか?
だから私の手助けをしているという可能性もなくはない。
「だから君に罪を負わせ、邪魔なヴァロワ卿共々失墜させることで、ウィリアムを王の座に上げる算段を付けていると」
「もしかしたらプログラムにとって邪魔なのは正確には私ではなく、父だけなのかもしれない。父がこの婚約破棄が正当なものであると認めさせ、下がらせる。そして現国王の後ろ盾を失わせることにより、第一王子に父親殺しの役割を与えさせる。ゲームでは第一王子が闇魔法によって錯乱し父親を殺したってなっていたけれど、本当のところどうだったのかはわからない。確かに見た目も変わっていたし、テオという人物についてそう多く語られていなかったから、魔王だと言われてしまえば単純に信じた。ゲームをしている時も疑ったことはなかった」
だろうねとリオは私を見て答えた。
「だとしても、この世界にとって悪役は必要だ。何よりも魔王はアメリアが光の巫女としての証となるのだから外せない。ヴァロワ卿の失墜が魔王を呼び起こすきっかけとなるなら、プログラムは是が非でもそうするだろうね」
その通りなのだ。
しかし、問題はここからだ。
ならどうやって父を失墜させないで、魔王を呼び起こすか。
いや、違うのかもしれない。
そもそも魔王なんてものはいらない。
アメリアが光の巫女として世間に認められれば、本来それだけでいいのだ。
こんな大掛かりなことをして多くの者を苦しめてまでやるイベントじゃない。
リオではないが、本当にばかげた物語だと思う。
「こうやってお互いの要求を照らし合わせた時、オセロをやっている気分になるんだよね」
「オセロ?」
リオは私が何の話をしているかわからなかったようで、聞き返してきた。
そう言えばここにはチェスはあってもオセロというボードゲームはなかった。
「オセロって言うのはお互いにボートへ石を打ちながら、相手の石を自分の石で挟むことによって自分の石へと換えていき、最後にボード上の自分の石が多い方が勝ちって言うゲームの事だよ。あれってさ、最初はころころと石の色を変えられるんだけど、終盤になってくると打てる手が限られてくるんだよね。しかも最初は優勢だったと思った自分の石が終盤に差し掛かったら、殆ど敵の石の色に変わっていたってこともよくある。騙し合いみたいな感かな」
「そんなゲーム聞いた事はないけど、チェスは違うのかい?」
やはり、チェスなら理解できるのかと納得した。
「チェスは駒の奪い合いでしょ? オセロは陣取り合戦なんだよ。しかも一度置くとそこにはもう別の石は置けない。全てが埋まることを前提に石を置いていくの。だから終盤に向けてどう陣地を奪っていくのかをイメージしながら勝負していくんだよね。このシナリオも同じ。終盤に向けて時は止まらずに進んでいく。修正はかかっても、時を戻したり、あった事実をなかったりすることには出来ない。つまり相手の石が置かれた時点で、新たな石を使って要望通りの事実へ覆していくしかないってことだよ。意外にも私たちは同じ条件でプログラムと戦っていることになる。しかも、プログラムは私達の感情に直接アプローチはかけられないし、私たちの考えていることの全容を把握することも出来ない。つまり、最後まで私たちが何を考え、どう動こうとしているかは盤上で予測するしかないんだよ」
なるほどとリオは頷いた。
「それで、そのゲームに勝算はあるのかい?」
リオが改めて聞いて来るので、私は少し困った顔をした。
「ないわけじゃないけど、確実な方法があるわけではない。一つずつ相手の出方を探りながら、瞬時に対応するしかないと思うんだよね」
私が考える事なのだからそんなところだろうとリオも不満を口に出すことはなかった。
「ひとまず、君の今後の行動を考えて行かないといけないよね。正直言って、ここまで情勢が何も変わらないとは思わなかったよ。まず今、ほぼ確定していることは君とウィリアムの婚約破棄。これはどうするつもりなの?」
「婚約破棄ってウィリアムから一方的に申し出ることでしょ? なら、婚約破棄ではなく婚約解消、つまり合意の上で行うならどうなるのだろう? 父が不満を持つのは一方的な要求を突き付けられたからで、私も同意しているとなれば異議は唱えられないんじゃないかなぁ」
それはどうだろうとリオは冷ややかな目で答えた。
「この婚約は政略結婚、つまり家の都合で結んだ縁組だよね。君が承諾したからってヴァロワ卿が納得するとは思わないんだけど。それに君と父親との関係は良好なのかい? 愛娘の言うことなら二つ返事で答えてくれるのかなぁ?」
私はつい顔を背けてしまった。
良好どころか、父にとって私は家の為に宛がわれた駒でしかない。
私がウィリアムとの婚約を破談にしたいと言い出せば、今度は父に切り殺されそうだ。
きっとリオもその事には気が付いているのだろう。
これでは得策とは言えない。
「まだ婚約破棄になるまでに時間はあるんだし、何か父を説得できる材料がないか探ってみるよ。それに、ウィリアムイベントより先に他の三人のイベント来るだろうしね。まずはそっちから片づけないと」
私は弁解する言葉がなく、とにかく誤魔化した。
しかし、そのイベントの中にリオ本人のものも入っているのだが、彼は何か考えがあるのだろうか?
そんなことを今、リオに直接聞くことは出来なかった。
「とは言っても時間はもうそんなにないんだからね。長考している余裕はないんだよ。ボクとしてはもっと作戦をしっかり練っておきたかったんだけど」
リオは不満そうに言った。
すると私は大学で教わったあることを思い出した。
「これからはウーダ作戦で行こう!」
「ウーダ作戦?」
リオがまた意味の分からないことを言い出したという顔をした。
「OODAループ思考だよ。まずは観察して、状況把握をし、決断して、動く。この繰り返し。迅速に対応するにはこの思考が一番なんだよ。リオみたいにロジカルな考えでしっかり分析すれば、正確性は上がるけど相手の新手には対応できないことも多い。これはオセロだって言ったでしょ? 先回りして予測しても相手は瞬時に適応して、状況を覆そうとする。そうすると、今まで考えて来た作戦が意味をなさない。そうでしょ?」
私はそれっぽく答えた気がしたんだが、リオはまだ納得いかないようだった。
「君の場合はそれを行き当たりばったりって言うんじゃないの?」
まぁ、そうとも言うがもう時間もないことだし、決断は迅速に臨機対応していくしかない。
これは一種のAIとの勝負なのだから、のんびり作戦を練っている場合じゃないのだ。
「今度の魔法大会でまた大きな分岐点になると思う。情報を仕入れつつ、私たちが動きやすくなる方法を考えて行こう」
とにかくそう言って、私はこの場を納めた。




