63話 死の要因
リオが一瞬真顔になったことに私は気づいていた。
けれど、すぐにいつもの呆れた表情に戻った。
「その君の疑問とボクの質問はどう繋がるわけ? 話を逸らそうとしてない?」
私は慌てて首を横に振った。
「そうじゃなくて、この世界の目的はアメリアが幸せになることでしょ? なら、アメリアがすでにウィリアムへの気持ちに気づいている以上、二人を物理的に引き放したところで意味はないと思うんだよ。むしろ、距離が出来たことで二人の想いはより深まったと思う」
「だからって君がわざわざ手助けする必要はあった?」
リオは怒った口調で訴えて来る。
リオだってこの二人の状況がずっと続くとは思っていなかったとは思う。
問題なのは私が二人を引き戻す切っ掛けを作ったことだ。
「ないけどさ、二人を見てると私の心がモヤモヤするんだよ。アメリアに罪悪感を植え付けて引き放したのも私だよ? そんな私が今頃どうしてって聞きたいのはわかるけど、私はただアメリアに知っておいて欲しかっただけなんだ。あなたの幸せが誰かの不幸になることもあるってことを。あの時から二人が想い合っていたのはわかってたし、それを邪魔するつもりは最初からなかった。ただ、何も知らずに無邪気に笑うアメリアがどうしても許せなくなって、彼女を責めずにはいられなかったの。自分の選んだ未来にもう少し責任を感じてほしかっただけなんだ」
誰かに罪悪感を植え付けたところで意味がないことはわかっていた。
そうしたところで二人が結ばれるのだし、ただ彼女の心にしこりを残すだけだ。
それでも私は言わずにはいられなかったのだ。
本来のエリザを思うと悔しくて仕方がなかった。
こんな子の為に私が断罪されようとしているのが我慢できなかった。
主人公だけが当たり前のように幸せを手に入れられる理不尽さに黙ってはいられなかった。
これぐらいの重荷を背負わせても罰が当たらないと思ったんだ。
でも、これは理屈じゃない。
きっとリオには理解できないと思った。
しかしリオはこれ以上、私を責めることはなかった。
「そう。まぁ、君は最初から二人を引き放すことには反対していたもんね。こうなることは予想してた。前にも言ったけど、二人が結ばれるってことは君の婚約破棄がほぼ確定になるってことなんだよ。婚約破棄は破滅ルートの入り口。君、これからどうするつもりなの?」
リオが本題に入ったので、私はまっすぐリオを見て答えた。
「そのためにエリザが死ななければいけない理由を知りたかったの。エリザの死がなくても、王子であるウィリアムが婚約の破棄を望めば成立はする。だから私だって最初は、この婚約破棄を受け入さえすれば、死だけでも免れると考えてた。でも、この学園生活を過ごしてみて、そんな単純な話ではないんだと思ったの。もしそれだけの理由ならウィリアムルート以外ではエリザが死ぬ必要がなかったから。エリザの死がこの世界の必須項目だとするならば、アメリアの幸せの条件にエリザの死も含まれていることになる。その理由を解明しない限り、私の破滅ルート回避は成し遂げられないと思ってる」
やっとリオにも私の考えが理解できたのか、ふっと一息ついた。
「で、君はその理由がなんだか予測はできているの?」
あまりにリオが冷静だったので、彼もその疑問には既に至っていたということだろうということはわかった。
そしてきっと彼なりの見解にすでに行きついている。
「全ルートのエリザの死以外の共通点は、クライマックスの魔王討伐イベントではないかと考えた。アメリアの幸せの条件の中に、一つは恋愛の成就で、もう一つは地位の獲得、つまり光の巫女としての認められること。これによって平民であるアメリアが上級貴族との結婚を許されるわけだし、ゲームを盛り上げる大事なシーンでもある。しかも、この魔王というのが闇に支配された第一王子テオの変わり果てた姿で魔王を倒すと同時にウィリアムの王位継承は上がり、この時にはもう現国王も錯乱したテオに殺されているから、自動的にウィリアムが国王となる」
私はひとまず今日までに考えてきたことを、独り言のようにリオに話した。
「ウィリアムルートでは当然、アメリアが魔王を倒した巫女として認められ、満場一致で王妃の座に就く。ウィリアムが王になることでギルバートは王の騎士となり、クラウスは宰相としての立場を約束される。サディアスはヴァロワ卿の爵位失墜によって領主になり、ルークは……、正直よくわからないけど、ヴァロワ卿の失墜により立場が良くなるんじゃないかな? 父親が改心したとかそんなんだったと思う。それとリオは――」
そう言って私の話を珍しく真剣に聞いていたリオの顔をちらりと見た。
彼の顔はどこか少し悲しそうだった。
私はこの時はまだ、なぜ彼がこれほど辛そうな顔をしているのかわからなかった。
「確か、ウィリアムによって新たな領地が与えられて領主になるんだったよね? リオの夢は失われた母国を取り戻すことだったから、領主になった後に散り散りになった嘗ての同胞たちを領地に招き入れた。そんな話だったと思う」
そう、リオはもともと隣国であった小国の王子であったが、先の大戦で我が国が勝利し、領地を没収した後に先住民たちはその地を追いやられたのだ。
その戦いに我が父、ヴァロワ卿及びサディアスが関わっていたと思われる。
もしかしたら今もリオはその事で私のことも恨んでいるのかもしれないが、なぜか今はこうして手助けてくれていた。
おそらくそれはリオのもう一人の協力者が説得してくれたためかもしれないが、私にはまだリオが本当は何を考えているのかわからなかった。
「つまり、魔王討伐のためには君の死が必要だと言いたいんだね?」
リオは私の話を聞きながら答えた。
私は深く頷く。
「もし、考えられるのだとしたら私がアメリアを暗殺しようとしたことでウィリアムとの婚約破棄を正当化させるためだったのかもしれない。光の巫女を殺そうとした罪深いエリザに変わり、父ヴァロワ卿もその罪を負わされ失墜する。現国王はヴァロワ卿に頼りきりだったから、父を失うことで自らの力も弱まり、そこに付け込んだ第一王子が父である王を弑逆する。そし魔王となった彼を正義の鉄槌という名目でウィリアム達が討伐することになっている。これで全てが丸く収まりハッピーエンドってことなんだと思う。プログラムはれを成し遂げることで、本来の目的、アメリアを幸せにするという課題が達成できるんだよね」
リオもここまでの考えに異論はないようだった。
ただ、リオの方からはなんのアドバイスも意見も話さなかった。
「だとするならば、君がヴァロワ卿の娘である以上、断罪されることから免れることはできないと思っているんだね。ヴァロワ卿が失墜することで他の攻略対象含め幸せになるのだから。アメリアと彼女に群がる攻略対象の幸せこそがこの世界の存在意義。それは本当にばかげた話だね」
リオはそう言って皮肉そうに笑った。
リオにとってはその結末が喜ばしいことだと私はずっと思ってきた。
しかし、今の彼を見るとそうではないのではないかと思えてしまう。
そもそも彼は自分の意志でこの世界の筋書を書き換えようとしているのだから、満足はしていないのだろう。
「なら、君自身で父であるヴァロワ卿を失墜させてみるかい? 君が断罪されなくともヴァロワ卿が戦意喪失するだけで、君が死ぬ運命からは逃れるかもしれないよ」
私はそのリオの提案に大きく首を横に振った。
父のことはどうも思ってはいないが、その選択は私の真意とは違うところにあるからだ。




