59話 薬学実習
この魔法学校には調理実習はない。
その代わりではないが、魔法薬学の実習がある。
そもそも貴族が大半のこの学園に調理の授業など不要なのだ。
そして、薬学実習は何人かのグループを作って行うことが多い。
「それでは、三人一組になって実習を行うこと!」
講師が手を叩いて、生徒達にグループ作りをさせていた。
何度も言うことだが、学校の授業においてボッチの一番辛いのがこのグループ分け。
そんなもの生徒に選ばさないで、講師が勝手にグループを組んでくれればいいものを。
どのみちグループ分けの後、気にいらない生徒がいたら露骨に嫌な顔する奴が現れるんだから。
あれでだいぶ授業のやる気が削がれるのだ。
頭の中でぶつぶつとグループ分けについて文句を言っていると、後ろからセレナの声が聞こえて来た。
「ほら、ロゼ! エリザちゃんを誘おうよ!」
セレナがロゼの腕を引っ張って私に近づいて来る。
ロゼは懸命に抵抗しているが、ロゼが小柄の為か、それともセレナが馬鹿力の所為なのかはわからないがその抵抗は全く意味を成してはいなかった。
そして、セレナがロゼを連れて私の前に現れる。
「エリザちゃん、一緒に実習やりましょう!」
セレナがニコニコ笑いながら私を誘う横で、ロゼが暴れながら叫んでいた。
「ちょっと、わたくしはまだ一緒にやるだなんて言ってないですわよ!」
「もぉ、ロゼは往生際が悪いなぁ。エリザちゃん入れたら丁度三人になるんだからいいじゃない」
ロゼはセレナから腕を振り払って態勢を整え、私を睨みつけて来た。
「時間もありませんことですし、今回は許可いたしますが、わたくしはまだあなたを認めたわけではありませんのよ」
結構あっさりと承諾したものだなと呆れながらロゼを見つめる。
しかし、ロゼもセレナも製薬技術の試験はどうだっただろうか?
実はこのメンバーで一緒に実習をするのは初めてなのだ。
最初の段階では簡単なものが多かったので、実習は一人一つで行っていた。
こうして大掛かりになってくると、一人ずつで行っていると授業時間内に間に合わない生徒が出てくるので、何人かで協力し合うことになるのだ。
グループ分けが終わると、講師が今回作る魔法薬の説明を始めた。
それを聞き終えた後に、用意された道具を作って作るのだが、たまに授業で何を聞いていたのだろうと思う生徒が現れることがある。
「この薬草、全部お鍋に入れちゃうねぇ」
セレナが目の前にあった薬草を適当に掴んで、沸騰したお湯に入れた。
「ちょっと、セレナ! 薬草は基本、刻んで潰して入れるものですのよ!」
その前に洗おうよ、口にするもんなんだしと二人のやり取りを見ながら心で呟く。
いろいろと突っ込みたいところはたくさんあったが、それどころではないようだった。
「あれぇ、おっかしいなぁ、マンドレイクの粉がないなぁ?」
今度はセレナが周りを見渡しながら、すり潰した粉を探す。
気が付けば、洗い場にその粉が入っていた器が投げ込まれていた。
「ちょっと、それ使う前に洗い場に持っていったんじゃありませんこと?」
「うそぉ。あれがマンドレイクの粉だったの? 土かと思った」
そもそも何で薬作るのに土が机の上に置いてあるのか疑問に感じなかったのか聞きたい。
「セレナ、鍋! 鍋を見てくださいな! 焦げくさい臭いがしてますわよ!」
「わぁ、なんか水分がなくなって下の方が焦げてるぅ」
完全に煮詰め過ぎているなと思った。
このグループに入ったのは間違いだったのかもしれない。
最終的には講師にこっぴどく怒られて、私達だけで居残りで再度魔法薬を作り直すことになった。
この子たち、今までよく薬学のテストをクリアできたなと本気で思う。
「セレナがいけませんのよ? 説明をよく読まないうちに始めてしまうから!」
ロゼはぷりぷり怒りながらセレナに言った。
「だって、ロゼはずっとその説明文ばっかり読んで、全然手が動いてないじゃない。だからその間に私がやってあげようと思って」
今度はセレナもロゼに反抗する。
正直、どっちもどっちだと思う。
私も薬学実習でここまで失敗したのは初めてだ。
「エリザ様もちゃんとセレナの事を見ていていただけます? わたくし一人では手に負えませんわ!」
今度は私にまで飛び火してきた。
私はセレナの世話係ではないのだけどな。
「二人ともよく今までの薬学のテストをクリアしてきたよね。セレナは作り方が頭に入っていないし、ロゼは作り方の説明書ばかりに目がいって、なかなか進まないし、これじゃぁ、うまく作れないよ。まずは落ち着いて、役割分担しないと」
私がそう言うとロゼが不満そうに私を睨んで来た。
「なら、エリザ様はどうだって言うのです? そこまで言うのならエリザ様がうまく回してくださればよいのではありませんか?」
ロゼの言葉を聞いて、少しイラついた。
「うまく回すって、二人とも全然人の話聞かないじゃない。セレナは勝手に一人でどんどん進めるし、逆にロゼはすぐテンパって全然作業に手が付かないし、個人プレイじゃ、共同作業なんてうまくできなくて当たり前でしょ?」
「そこをうまくやるのが侯爵令嬢のお役目でありませんこと? 偉そうに口で言っても部下はついてきませんのよ?」
私はついにロゼの言葉にかちんと来てしまった。
今日こそはキレない。
キレないと決めていたけど、無理だったようだ。
「いやいやいや、そもそもロゼもセレナも私の部下じゃないし、私の言うことなんていつもまともに聞かないじゃない。それなのに、こう状況になったら、急に責任丸投げ?」
「それはその人の裁量というものじゃありません? エリザ様にそのカリスマ性があれば、容易いことですわ」
おいおい、好きな事言ってくれるなと私の顔も段々引きつって来た。
「別に私が仕切る必要はないのだけれど。そこまでいうなら、ロゼが支持を出してもいいのよ? あなたずっと説明書と睨みあいっこしていたんだから」
ロゼも更に睨みつけて来る。
「まさか! 侯爵家のお嬢様がいらっしゃるのに伯爵家のわたくしのような下等の者が指示するなど以ての外! ここは責任をもってエリザ様がどうにかなさるところでしょ?」
「こういう時に家柄を持ってくるのは卑怯なんじゃない、ロゼ。そこまでいうなら、テンパってないで、少しは人の言うこと聞きなさいよね」
「だってエリザ様の言葉には威厳が感じられませんもの。そんな方の言うことなんて聞けませんわ」
この野郎とロゼが女じゃなかったら、手を出していたかもしれない。
さっきから卑怯な事ばかり。
私だってそんなカリスマ性なんてものがあれば苦労しないんだよ。
私とロゼが睨みあいをしていると間にセレナが入って来た。
「辞めなよ、二人とも喧嘩は良くないよ!」
その言葉を聞いて、私もロゼもセレナの方を睨みつける。
「そもそも、セレナがいけなくってよ! 人の話もろくに聞かずに突っ走るから。あなた、今日どれだけの材料を無駄にしたか自覚はありまして?」
「そうだよ、セレナ! あなたはもう少し落ち着いてよ。目についたものを鍋に突っ込めばいいって話じゃないの。まずは作り方をしっかり確認して、一つずつ完成させてから作業を始めるの。それに火は危ないんだから、絶対に目を離しちゃダメ! これ常識だからね!!」
二人に急に責められて、セレナはあわあわし始めた。
そして、最後にはごめんなさいと叫びながら泣き始める。
私とロゼは顔を見合わせて、ため息をついた。




