58話 正直な気持ち
この状況が一週間続いたのち、一番に声を上げたのは意外にもみーぽんだった。
こころんを無理矢理いおりんのところに連れてきて、二人を嗜めた。
「いい加減にしなよ、二人とも。意地なんて張ってないで、ちゃんと話し合って!!」
私も大胆なみーぽんの行動に目を丸くして、この状況を見つめていた。
「別に私は話し合うことなんてないし……」
こころんは顔を背けて、呟くような声で言った。
それに反応したいおりんもきつく言い放つ。
「私もこのわからずやに話すことは何もない!」
ああ、こうなったらまた同じ繰り返しだと頭を抱えた。
どうして、みーぽんがこんな二人を引き合わせるのかわからなかった。
「なくないよ! 二人とも本当の気持ちなんて全然口にしていないじゃん! もっと素直になろうよ」
みーぽんがそう言っても二人は相変わらずだんまりを決め込んだ。
すると、ついにみーぽんの方が怒り出した。
「こころん! こころんはいおりんの自慢話が嫌で怒ったわけじゃないよね? 本当はいおりんが彼氏の事ばっかり話して、いつもみたいにみんなで漫画やアニメの話が出来なくて寂しかったんだよね!」
「なっ!」
こころんは言葉に出来ず、その場で固着した。
「いおりんも、本当はもう怒ってないんでしょ? 自分が浮かれてみんなの前で自慢話しちゃったこと、悪かったなって思ってるんじゃない」
いおりんもこれに対して反発できない様子だった。
「こんなくだらないことで喧嘩してどうするの? こころんだっていおりんだってずっとお互いの事気にしてるよね。こんな状態、誰も幸せになれないよ! そうでしょ!」
いつもおっとりしているみーぽんがこんなにはっきり二人に言うとは思わなかった。
どちらかというと強気で話すのはいつもこの二人の方だったからだ。
「し、幸せとか関係ないよ。いおりが人の事を侮辱してきたから……」
こころんがみーぽんに言い返すと、今度はいおりんが訴え始めた。
「それはこころが先でしょ! 自慢話が嫌なら、嫌って言えばいいじゃん!」
「そんなの言えるわけないよ! いおり、本当に嬉しそうだったし、そんないおりに話すななんて言えなかった。ただ、それがいつまで続くのかわからなくて、不安だったの!」
そっかと私もこの時初めて気が付いたのだ。
こころんはいおりんに彼氏が出来たことが悔しかったんじゃない。
こころんはいおりんの気持ちが彼氏に全部取られちゃう気がして怖かったんだ。
大好きだから、逆にあんなこと言っちゃったんだよね。
本当にこころんは不器用だなと笑った。
正直に話せば、あんなに傷つけ合うことはなかったのに、どうして私達はつい意地を張ってしまうのだろう。
「それはごめん……。私も浮かれてた。こんな話して皆が楽しいわけないってわかってても、話すのを辞められなかった。こころがキレて、初めてやりすぎたって実感した」
するとみーぽんがいおりんの肩を叩いて言った。
「自慢話がダメなわけじゃないんだよ。ただ、たまには私たちの事も見てほしいなっとは思うだけ。いおりんの彼氏と同じように私達もいおりんと一緒にいる時間が楽しい。だから、お互いに楽しめる時間を共感したいんだよ。その中にいおりんの大好きな彼氏の話が入ってもいいんだけど、たまにはさ、いつもみたいに小説や漫画、それにいおりんの大好きなアイドルの話もしようよ」
みーぽんはそう言って笑った。
いつもはどこか頼りのないみーぽんなのにこういう時は一番大人に見える。
「それと、こころんはきぃちゃんにも謝る!」
急に言われたので私も驚いて二人を見た。
「きぃちゃんがこころんに気まずそうにしてたから問い詰めたの! あんな言い方したら誰だって傷つくよ! こころんだって内心、気が付いてるんでしょ?」
こころんは当分の間黙っていたけれど、私の前に立ち頭を下げた。
「あの時はごめん……。本音じゃなかった。ただ、きぃがみーぽんに一番心を許している気がしたから、悔しくて言ってしまった。あの時は私なんて誰も好きじゃないんだって思い込みたかったんだ」
私は唖然としてしまって、なんて返していいのかわからなかったが、その瞬間少し安心した。
嫌われていたわけじゃないと知ったから。
「私の方こそ、あの時ちゃんと話すべきだったね。確かに私はみーぽんやいおりんみたいに自己表現が得意じゃないし、自分の思っていること説明するのすごく時間がかかっちゃう。みーぽんのように察してくれる人がいるとつい甘えちゃうのも事実だよ。だけどね、私はみーぽんとだけじゃなく、いおりんともこころんとも同じぐらい仲良しでいたい。この仲間の一人でいたいんだよ」
この時、やっと皆に本当の事が言えた気がしたんだ。
そして、それを言わしてくれた、みーぽんに心から感謝した。
ああ、あの時と同じだと思った。
でも、あれがあったから私達はより仲良くなれた。
本当のことを話せば傷つけることも、傷つくこともあるけど、誤解したままだともっと辛いんだ。
あの時学んだはずの事が、ここでは全く学習出来ていないことを知る。
ロゼやセレナと離れれば、破滅ルートが回避できるとか、悪役から抜けられるってどこかで思っていた。
けど、そうじゃなかった。
ロゼたちと別れても、私はやはり単独で悪役だし、アメリアのことも好きになれなかった。
それにロゼがあのまま私の側にいたら、私の代わりに破滅ルートを辿るのがロゼじゃないのかと思って怖かった。
それが怖いなら、正直に怖いと告げれば良かっただけなのに、私はこんな方法しか取れなかったのだ。
どうして、話したら分かり合えるという可能性を私は捨てていたのだろう。
ゲームの中であろうと私は今まで、心を持ったギルバートと話し、自分の意思を持ったルークと本気で喧嘩した。
なら、ロゼやセレナとだって分かり合えるはずだってわかっていたのに、なぜ今まで実行できなかったのだろう。
結局、あの時のみーぽんと同じようにセレナに頼ってしまっているし、情けないなぁと青空を仰いだ。
「エリザ様?」
突然、横から誰かの呼ぶ声が聞こえて、私はそちらの方へ振り向く。
そこには、アメリアが立っていた。
私は驚き、ベンチから立ち上がった。
「こんな場所でどうされたのですか?」
私にあんなに嫌われているのにこの子も懲りないなと思う。
そして、私はまっすぐにアメリアを見て答えた。
「ねぇ、アメリアさん。あなたもしかして、ウィリアム王子を避けてる?」
それを聞いて、アメリアはびくりと肩を揺らした。
「何をおっしゃっているんですか? 私がウィリアム様を? まさか」
話し方にも動揺が見られる。
やはりそうなのだと確信した。
「どうせ、あなたの事だから私の事を気にしての事でしょ? でも、あなたが露骨に彼を避ければ避けるほど、彼はあなたを気にしている。逆効果なんじゃない?」
「それは――」
「確かにあの別荘地で私はあなたに言った。自分の身の程を弁えろと。フィアンセの私を差し置いて、好き勝手やりすぎだと。確かにあなたがウィリアム王子と仲睦まじい様子を人々に見られれば、それは私の恥にしかならない。でも、だからって無理に避けたって何も解決はしないんじゃない? 私はあなたたちがお互いにどう思っているかは承知しているし、それにとやかく言う気はない。私はただ、こんなやり方をされても嬉しくないと伝えたかったの。私の為とか思っているなら今すぐ辞めて!」
私はアメリアに容赦なくそう伝えた。
私がこの子に冷たくあたるのは素直になれないからじゃない。
こうでも言わないとこの子は理解できないと思うから。
お人好しが板についた偽善者には優しい言葉なんて無価値だ。
私はそう告げると彼女の前から去った。
彼女は何も言わず、ただ茫然と立ち尽くしていた。




