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55話 決心

私が硬直していると、リオが私に向かって杖でツンツンと突いてきた。


私は驚き、叫び声を上げて後退る。


「な、な、何するのさ!」


「いや、別に。人が質問してるのに無視するから。まぁ、いいけどさ。エリザの恋愛事情なんてボクには関心がないことだし」


一気に緊張感をなくすことを言ってくるリオ。


「ただ、そんな状態で君、婚約破棄とかされて正気を保てるの? 今のところギルバートとルークはアメリアの相手から除外されているんだし、このゲームのメインヒーローはウィリアムなんでしょ? 今はあんな状況だけど、アメリアの本命がウィリアムである可能性は十分にあるよ?」


確かにと私は頷いた。


頷いた、じゃない。


やっぱり私がウィリアムを好きなんて信じたくはない。


「全然問題ない。それに何となくだけど、アメリアがウィリアムを避けているのは私の所為だと思うから。ウィリアムにはもう私という婚約者がいて、そんな婚約者から彼を奪うことは、私を苦しめることだと今の彼女は気づいている。だからわざとウィリアムを避けて忘れようとしているんだよ」


リオはじっと私を不思議そうな顔で見た。


「で、君はどうしたいの?」


「は?」


「は?じゃないよ。そのまま、アメリアにウィリアムを忘れてもらって、君が無事に彼と結婚出来れば、破滅ルートは回避できるんでしょう? 恐らく、婚約破棄されなければ、二人ともいい歳だし、君らは卒業後すぐに婚姻を結ぶんじゃないかな。君が破滅ルートを避けるためにはもっとも確実な道筋だと思うけど?」


確かにその通りだ。


アメリアには他にもたくさんの相手がいる。


しかもその全員が彼女を好いているわけだし、誰を選んでも問題ないわけだ。


一人ぐらいって思わないわけじゃないけど、きっとそういう問題ではないんだよね。


二人がお互いに思い合っているのに、結ばれないんなんて悲劇でしかないよ。


そんなことがこの物語で許されるわけない。


「私は婚約破棄されても、破滅しないルートを探したい。今の状況なら私が無理矢理ウィリアムを振り向かせようとして行動を移せば、彼はそれなりに応えてくれると思う。けど、それじゃダメなんだ。きっとそんなの誰も幸せになれない。私は二人の想いを邪魔したくて、シナリオ改変を望んでいるわけじゃないんだから。あの二人も幸せになって、私も幸せになる道を探したい!」


それを聞いたリオが、時間差で笑い始める。


どうして人が一大決心をするたびにリオが笑うのかわからなかった。


「本当に君って変わっているっていうか、愚かそのものだよ。自ら厳しい道を歩もうとするんだからさ。けど、君らしいと言えば君らしいね。どんなに配慮しても君らの婚約破棄は君にとって辛いものになる。それに今の君には二人が結ばれる現実を見ることは残酷なことなのかもしれない。それでも君はそのむっちゃくちゃにハードモードルートを選択するの気かい?」


私は笑って答える。


「今更、私の恋が成就するなんて思ってないよ。出来れば、お互いの関係にヒビが入らないように気遣いたいところだけど、それは無理だろうね。多少荒れることは覚悟しておくよ。それでもきっと、二人を引き裂かなくても私も二人も幸せになるルートを開拓できると思っているからさ。その為のシナリオ改変でしょ?」


やっぱりリオは私をバカだって内心思っているのだろう。


でも、バカだって思われてもいい。


折角、二度目の人生。


今度こそ、満足した人生にしたい。


それが異世界転生の醍醐味ってもんだと思うから。


「少しは協力しているこっちの身にもなってほしいよね。そのシナリオ改変をいつも思案しているのはボクで、君は何も考えず、突っ走っているだけなんだから。それにアメリアのハッピーエンドを達成させるためには、君の死も条件の一つなんだよ。それをどうこの世界のシステムに納得させるのか、いい加減に君自身でも考えてよ」


リオは相変わらず私を小バカにした言い方をしてくる。


「私も私なりに考えてるよ! 今はいい案が浮かんでいないだけで……。なら、リオは何か案があるってことなの?」


私が悔しくてリオに強気で聞くと、彼はあっさりと答えた。


「ボクは君と違ってもっと現実的な方法で動いているよ。けど、それを君に話したらあてにするだけだろう? そうならないためにも君は君の為に、破滅ルートを回避できる方法を考えて、実践してよね」


私はむっとした顔で返した。


確かに、この破滅ルートの回避を一番に願っているのはこの私だ。


だからリオに頼るのじゃなくて、私自身で解決しないといけないことだということはわかっている。


ただ、毎度うまくいかないだけだ。


不甲斐ないとは思ってはいるんだよ。


「わかってる。じゃぁ、私行くね。リオもいつまでもこんな場所に引きこもっていないで、たまには外に出た方がいい気分転換になると思うよ」


すると彼は意味ありげに笑った。


「大丈夫。そのうち、嫌でも顔を合わすようになるから」


私は首を傾げてリオを見た。


彼の言いたいことはよくわからないけど、まあいいかと教室を出る。


リオはリオで何か考えているみたいだし、この引きこもり期間も意味があることなんでしょう。


私はそのまま部屋を出て、自分の教室に戻った。






教室に帰ると、放課後の為かもう誰もいなかった。


私は教室に置きっぱなしにしていた荷物を持って教室を出ようとする。


すると、そこからひらりと何か落ちたのが見えた。


また誰かの嫌がらせかと思ったが、どうやらそれは手紙だった。


私は荷物を一度机に置き直して、落ちた手紙を拾った。


これはどこかで見たことのある封筒だ。


しかも、嗅いだこともあるようなコロンの匂いもした。


この世界では手紙を送る時に自分の目印になるコロンや香水をつけるのが一般常識なのだ。


私はとりあえずその手紙の封筒を開け、中の便箋を開いて読む。


それはセレナからのものだった。


そこには簡潔に明日の放課後に中庭にある噴水の前に来てほしいと書いてあった。


セレナが放課後に私を一人で誘うなんて珍しい。


ロゼが一緒である可能性も考えたが、ロゼがわざわざセレナに手紙を書かせて、呼びつけるとは思わない。


もし、嫌がらせをするにしても本人が堂々と名乗りを上げてやってくるはずだ。


ロゼとはそう言う奴なのだ。


いい奴なのか悪い奴なのか、時々わからなくなる。


私はひとまず手紙をしまって、荷物を持ち直した。


そしてそのまま寮に戻ろうと教室を出ると、そのタイミングでウィリアムと出会う。


さっきまでリオと彼の話をしていたから、つい意識して瞬時に目を逸らしてしまった。


ウィリアムの方はいつものように優しい表情で私に声をかけて来る。


「やぁ、エリザ。今帰りかい?」


「え、ええ。ウィリアム様はこんな時間まで何を?」


別に興味があったわけではないが、何か会話をしていないと間が持たないと思ったのだ。


「ああ、ちょっと図書室で調べ物をね。僕も今から寮に戻るところなんだ。だから、一緒に――」


「そういえば、急いで帰ってやることがあったんでした。それでは急ぎますので、ごきげんよう、ウィリアム様」


私はウィリアムの言葉を遮って、そう答え、足早に彼の前から立ち去った。


本当に急いでいたわけじゃない。


意識すまいと思えば思うほど、意識してしまっている気がする。


とにかく私の中でこの複雑な感情を整理し終えるまでは、ウィリアムに近づくのは辞めようと決めた。

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