53話 大騒ぎ
ロゼが話していた通り、塔に近づけば近づくほどはりぼての魔物は増えていった。
その度にウィリアムとルークが退治してくれているのだが、相変わらず私とロゼは悲鳴を上げるばかりでまともに魔法が当たっていない。
ついでにギルバートも彼なりに努力はしているようなのだが、ノーコンの為か、放った魔法は魔獣にではなく、あちらこちらに飛んでくるので気が気じゃなかった。
「ちょっと、ギルバート! 魔法を変な所に飛ばさないでよね!」
私は目の前の敵に必死になりながら、ギルバートに叫んだ。
「そうですわ。魔獣にやられる前にあなたの魔法にやられてしまいますでしょ?」
ロゼも息を切らしながら、ギルバートに訴える。
しかし、ギルバートにはその自覚がない。
「おっかしぃなぁ。俺としては、ちゃんと狙いを定めているつもりなんだけど……」
むしろ、もう魔法を使わないでくれと心の中で叫んだ。
ただでさえ、目の前の敵に一杯一杯の私達に予想外の攻撃が飛んでくるってどれだけハードなミッションなわけよ。
ウィリアムとルークはさすがと言うか、そんなギルバートの攻撃も難なく交わしていた。
すると、ロゼの目の前に突如大量の魔物が出現する。
ゴールが目の前という証拠だろう。
しかし、こんな量を魔法の不得意なロゼが処理できるはずがない。
完全に数で怯んでしまったのか、後ろにいた私を捕まえて、強制的に私を魔物の前に立たせ、自分は私を盾にして後ろに隠れた。
身体が小さいので見事に魔物から隠れている。
悔しいが、このままでは私だけが攻撃されてしまうと思った。
それでも必死で応戦したが、どうやったって追いつかない。
私は私の後ろに隠れているロゼに向かって叫んだ。
「ちょっと、ロゼ! あんたも少しは応戦しなさいよ!」
「いやですわ! わたくし怪我したくありませんもの!」
その言葉に苛立った私は後ろにいたロゼを力づくで私の前に立たせ、仕返ししてやる。
今度はロゼが私の盾になる番だ。
「ちょっと何をしていますの? 危ないじゃありませんか!?」
「私だって怪我したくないんだよ! ロゼも少しは戦ってよ!」
「わたくしは淑女ですのよ! こんなの怖くて戦えませんわ!」
「魔法学校に来て、淑女も何もないでしょうが! 授業の一環なんだから、ロゼも働いて!」
私達がそう言い争っていると後ろからウィリアムとルークが現れ、私たちの目の前の大量の魔物を瞬時にやっつけてくれた。
助かったとその場に座り込み、唖然とする。
「お前ら、何やってんだよ! こんな時に喧嘩すんな」
魔物を全て倒した後、ルークが私達に向かって文句を言う。
「だって、ロゼが私を盾にするから!」
「それはエリザ様でしょ!? そもそもわたくしよりあなたの方がわたくしより図体がでかいのですから、盾になって当然じゃありませんこと?」
「いやいや、侯爵令嬢を盾にする伯爵令嬢なんて聞いたことないですけど?」
「この場に及んで、爵位の優劣を出します?」
「いつも気にしてるのはロゼの方でしょう!?」
私達が言い争っていると、目の前でパンパンとウィリアムが大きく手を叩いた。
「二人ともそこまで。もうゴールは目の前なんだから、口論は辞めて目的地に急ごう」
ウィリアムはどこまでも冷静であった。
私達はお互いの顔を見合わせ、ふんと外を向く。
今まではロゼの事、本気で相手したことはなかったけど、ここまで絡んできたら無視も出来ないし、演習では私にも余裕がなかった。
私達は草を掻き分け、目的地の塔に向かって歩き出した。
そして、塔の入り口の前に到着し、そこには既に数人の生徒が待機していた。
私達より先にロゼのチームのセレナも到着していて、彼女はロゼを見つけると嬉しそうに駆け寄って来た。
「ロゼ! 良かったぁ! ちゃんと戻って来られましたのね!」
そう言ってその場で思いっきり抱き着くものだから、ロゼも驚き慌てふためいていた。
「ちょっとお辞めになって、セレナ! 皆様が見ていらっしゃるのよ?」
ロゼにそう言われて、セレナは顔を上げ、後ろに立っていた私たちを見ると真っ赤な顔をした。
「し、失礼致しました! ロゼが迷子になってしまったので、とても心配しておりましたの。でも、見つかってほんと良かったぁ」
「だから、わたくしは迷子になんてなっておりませんわ!」
セレナの言葉に欠かさず指摘するロゼ。
そして、ロゼは私達の方を向き、腰に手を当てて言い放った。
「ここまでの護衛、ご苦労でした。一応、感謝は申し上げておきますわね。それではごきげんよう、皆さま」
彼女はそう言って、さっさと立ち去って行った。
唖然としていた私にセレナは近づいて来て、にっこりと笑顔を作る。
「ロゼを助けてくれてありがとう!」
セレナが私に小さな声でそう話しかけると、手を振って別れ、再びロゼを追いかけて行った。
「なんであいつ、あんなに偉そうなんだ?」
ロゼたちを見送りながらルークが呟く。
「まぁまぁ、無事に到着したんだし、結果オーライじゃない?」
あんなロゼの態度に寛大に対応できるのも、さすがよくできた王子様という感じだ。
それにまさか、セレナにお礼を言われるとは思わなかった。
そんな時、ギルバートが既に到着していたアメリアを見つけて声をかけた。
「アメリアだ! おぉい、アメリアァ!」
ギルバートはアメリアに向かって、嬉しそうに両手を振った。
アメリアもそれに気が付いて、手を振り返してきた。
そのままギルバートが走り出すと、ルークも気が付いてギルバートの後を追った。
「おい、ギルバート。抜け駆けすんなって」
相変わらず、アメリアはモテモテのようだ。
ギルバートもルークも嬉しそうに彼女に駆け寄り、話しかけている。
しかし、一人だけそれを遠目から見ているだけで、近づこうとしないウィリアムがいた。
彼女の事を気にしているのは見ていればわかるのに、なぜか彼も彼女を避けているように見える。
「ウィリアム様?」
私はそっとウィリアムの名を呼んだ。
ウィリアムは慌てた様子で私の方に振り向く。
「何?」
しかし、ここでなぜ彼女の近くに行かないのかとは聞けなかった。
聞けないというより聞いてはいけない気がした。
「別に。少し疲れたんで、私は木陰の方で休んでおきますね。教官への報告はリーダーにお任せします」
「君は調子がいいな」
彼はそう言って小さく笑った。
私とウィリアムは分かれて、私は休憩するのにちょうどいい場所を見つけて、そこに座った。
初めての魔法演習を終えたところだ。
誰もが興奮が冷めやらぬ状態で、集合場所でざわめいていた。
それはギルバート達も同様にここまでにあったことを楽しそうにアメリアに報告していた。
あの様子だとギルバートは話を盛り、それをルークが訂正しているのだろうな。
それを聞いているアメリアは楽しそうに笑っている。
今まで私は彼女がどんなにイケメン男子に好かれ、囲まれていようが嫉妬なんてしたことはなかった。
彼らには全く興味はなかったし、誰が誰を好きだとか興味がなかったからだ。
だけどこうして四人で演習を受けて無事に目的地に到着というのに、すぐにばらばらになって、アメリアの場所に集まっていく彼らを見ると少し寂しい気がした。
本来の話ならこの演習で一緒だったのはアメリアだ。
しかし、実際に今回一緒に参加したのは私。
それなのに、まるでそこにいたのは私ではなく、アメリアであったような光景に見えた。
そんな私と同じように彼らを見つめるウィリアムの姿が私の目に映る。
その彼の見つめる表情がとても切なそうに見えた。
なぜだろう?
私の胸にちくりと微かな痛みを感じた。




