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52話 迷子の女の子

ウィリアムを先頭に私達は森林の中を進んでいく。


途中ではりぼて魔物を見つけては、ウィリアムとルークが素早く退治してくれた。


私と言えば魔物が飛び出して来る度に驚き、大声を上げるだけで何の役にも立っていなかった。


ギルバートはもはや杖を持つことも諦めて、それっぽい名前を付けて体術でどうにかしようとしていたので、ルークが全力で阻止していた。


森の中を半分ほど進んだあたりで、私たちは少し休憩を入れることにした。


「最初はもっと近いと思ったのに意外と遠くにあるんだね、あの塔」


ギルバートは地べたに座り込んで、目的地の塔を眺めながら言った。


「お前とエリザは何にもしてねぇじゃねぇか。俺たちにばっか、魔物退治させやがって」


ルークは近くの岩場に腰を下ろして、ぶつぶつと文句を言っていた。


確かに私とギルバートは特に何もしていない。


「まぁまぁ、ヴォンバス教官にも僕たちが二人のフォローをするように言われただろう? 二人は自分たちのペースで少しずつ倒していけばいいよ」


ウィリアムはルークを宥め、私達に優しくアドバイスする。


さすがリーダーと言った感じがしだ。


私も出来れば目的地に到着する前に一体ぐらいははりぼてを倒したい。


けれど今のところ、全く倒せる気がしなかった。


そういえばさとルークは何かを思い出したように三人に話し始めた。


「この森、魔物が出るっていう話は聞いた事はないんだけどさ、幽霊が出るって話は聞いた事はあるぜ?」


ルークはにやにやと笑っていた。


「ゆ、幽霊!?」


ルークの横でギルバートはその言葉に過剰反応を見せる。


幽霊が苦手なのだろうか?


「そう。幼い少女が両親を探して泣いてるのだとか。そして、もしその少女と眼が合ったら最後。両親と間違われて、力づくであの世に連れて行かれるんだってさ」


「ひええええっ!!」


ルークの言葉にギルバートが大声を上げた。


そんな嘘っぽい話を本気にするのはギルバートぐらいだと思うけど。


「こんな場所に女の子なんていないでしょう。そもそもここは人工的に作られた森なんでしょ? なら幽霊なんて出てこないよ」


私もルークの言葉を否定するように言った。


もし前世ならそんな話、笑い話にして吹き飛ばしちゃうけど、この世界は魔法とかあるからなぁ。


いないとも言い切れないから、本当はちょっと怖いんだけど。


「まぁ、俺も人から聞いた話だからよく知らねぇけどよ、いたら面白そうじゃん。魔法とか効果あんのかな?」


ルークはそう言いながら、ぶんぶんと杖を振り回した。


もし魔法が通用しても、私には倒せそうにない。


はりぼての魔物すらいまだに一体も倒していないのだから……。


そんな時、ウィリアムが真剣な顔をして、しっと私たちに静かにするようにジェスチャーした。


「泣き声がする。これは……、女の子?」


ウィリアムがあまりに真剣に話すので、さすがに私もびびってしまった。


「やめてくださいよ! ウィリアム様までルークの話なんかに乗らないでいいですから」


明らかに私の笑顔は引きつっている。


まさか、本当にこの世界に幽霊とかいないよね。


「嘘じゃない。ほら、聞こえるでしょ?」


ウィリアムはそう言って、耳を澄ませた。


確かにそう言われれば聞こえるような気がしてきた。


「ま、まじかよ」


これにはルークも困惑し、ギルバートなんてルークにぴったりとくっついて怯えている。


「うぃ、ウィリアムゥ。やめてよ、そういう話。俺、苦手なんだよぉ」


学園一の武道家が泣いて飽きる反応だが、私も段々怖くなってきた。


「あっちから聞こえる。行ってみよう」


ウィリアムはそう言って草むらを掻き分けながら、森の奥の方へ進んで行った。


まさか、本当に彼が声の主の方に向かうとは思わず、三人は慌てたがお互いの顔を見合わせて彼を追いかけることにした。


こんな場所で逸れたら、見つけ出すことの方が困難になる。


私達は必死にウィリアムを追いかけると確かにその方向から女の子のすすり泣く声が聞こえてきた。


「……う、うう、お父様、……お母様……、助けて……」


幽霊の声なんて初めて聞いた。


私は見るのも怖かったが、ここまで来たら逃げるわけにもいかない。


ウィリアムが草むらの先で立ち止まるので、私たちもウィリアムがいる場所まで走っていく。


そして、恐る恐る彼の前にいると思える幽霊の正体を見ようとウィリアムの後ろから覗こうとした。


すると、私が正体を見る前にギルバートが大声を上げたものだから、私もつられて大声を上げながら、ギルバートにしがみ付いてしまった。


「君……」


ウィリアムは彼女に向かってそう呟いた。


そして、一足遅く到着したルークもそれを見て答える。


「おい、こいつ、ロゼ・フィリップじゃねぇか……」


その言葉を聞いて、私もギルバートも恐る恐る泣き声のする方に目を向けた。


確かにそこには泣きじゃくるロゼがしゃがみ込んでいた。


そして、彼女は私を見つけるなり泣き顔のまま勢いよく抱き着いて来る。


「エリザさまぁ! 怖かったですわぁ」


それを見て私は唖然とするしかなかった。


どうやら彼女はグループから逸れて、森の中で迷子になっていたようだ。






「わたくしは独りで怖かったわけじゃありませんわ。魔物退治に集中していたら、いつの間にかメンバーがいなくなっていただけですの。別に森の中で迷子になっていたわけじゃないですからね!」


ぱんぱんに腫れた目でそう言われても全く説得力がないのだけれど、そこはもうロゼの意地って言うやつなんだろう。


何事もなかったように語っていた。


「それを迷子って言うんだよ。で、お前のメンバーは他に誰がいたんだよ?」


ルークは呆れながらロゼに聞いた。


「セレナとミュリエットとダイアナですわ」


みんなさほど魔法を得意としないお嬢様集団だった。


ウィリアムも困った顔でロゼに尋ねる。


「それで逸れた時はどうするか、事前に話し合っているのかな?」


「していますわ! 5分間辺りを探しても見つからなかった場合、ひとまず集合場所の塔に向かうと。でもわたくし、塔がこんなに遠いとは思いませんでしたの。誤算でしたわ」


確かに私たちが見た時も直ぐにつく距離だと思っていたけれど、塔は想像よりもずっと高いらしい。


「君はあそこでどのぐらい泣いていたのさ?」


今度はギルバートにまで質問されている。


見ているとこっちが悲しくなってきた。


「た、たぶん10分ぐらい? わたくしたち、早くグループが出来上がりましたので、皆さんよりも少し早めに森に入ったのですわ。序盤は何の問題もなかったのですけれど、中盤ぐらいから魔物が増えてきて、わたくし達だけでは対処しきれなくなってきましたの。わたくしも目の前の魔物を退治して、メンバーと合流しようとしたらいなくなっていたのですわ」


「そりゃ、置いて行かれたんだな」


相変わらず、ルークは人を不愉快にするような言い方をする。


案の定、ロゼは頬を膨らましてルークを睨んでいた。


「なら、僕たちと一緒に行けばいいよ。この森を一人で行くのは危なし、皆と一緒なら安心でしょ?」


最初はウィリアムの言葉に感激した表情を見せていたが、私の存在を思い出し、こちらにゆっくり目線を向けた後、複雑な表情になった。


百面相かというぐらい瞬時に表情が変わる。


「ど、どうしてもというならついて行ってやっても構いませんわ。人数は多い方が心強いですものね」


ロゼは腕を組んで強気で言った。


恐らく私に向けて言っているのだろう。


その態度が気に入らないのかルークがロゼに文句を言い始める。


「なんだよ、素直に連れてってくれって言えばいいだろう。可愛くねぇな」


あんなに女の子をナンパしている癖に女心がわからない男だ。


こういうのを『ツンデレ』て言うんだよ。


そう言えば、ロゼはツンデレ令嬢であることをすっかり忘れていた。


私も不満があるわけではないのでウィリアムに向かって頷き、私達四人はロゼと一緒に目的地に向かうこととなった。

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