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50話 本音

「今回も私、すごいこと言っていたと思う」


私は科学室の窓から校庭を眺め、一人実験に勤しむリオに向かって独り言のように呟いた。


リオは相変わらず私には目線もくれず、答える。


「そうだろうねぇ。これが学園で良かったよぉ。そんな発言、ファルロイド公に聞かれたら、君、打ち首だったろうね。それはそれで見ものだったとは思うけど」


そうだよねぇと私は窓枠に凭れ掛かりながら言った。


「別にさぁ、ルークを怒らすつもりはなかったんだよぉ。でも、ついね、ああ突っかかられると言ってやりたいなぁって気持ちになって、心の声がボロっと……」


リオは呆れた表情で私を見ていた。


「君ってほんと、そうだよね。その閉まらない口、糸で縫い付けておいた方がいいんじゃない?」


悔しいけれど、今回はごもっとも。


あんなこと言われて怒らない奴なんていないだろう。


でも、全部本音なんだけどね。


「それに君、また忘れてない? ボクたちは今、シナリオ改変するために動いているんだよね? それなのにどうして君は物語の進行を手助けするようなことばかりするの? 君は本当に救いようもない莫迦だと思うよ」


「ばかばか言うなよ! こっちだって自覚してんだからさぁ。でも、勝手に身体が動くんだよ。我慢しよう。ここは引き下がろうとは頭で理解しているんだよ? だけど身体や口が言うことを聞かなくて、気が付けばとんでもないことになっている。これってさ、もうプログラムの呪いなんだよ。私、あいつらに操られているんだよ、きっと!!」


リオは露骨に大きなため息をついて見せた。


「そうかもね。なら、そのまま抵抗できずに、君は勝手に破滅ルートに向かって進んでそのまま誰かに殺されればいいよ」


「冷たくない?」


「冷たくない! この世界を変えたいんでしょ? 君の破滅ルートを回避できるのは君自身しかいないんだよ? そのためにアメリアや他の攻略対象の心を少しでも動かして、本来の道筋を少しずつ変えていかないと。このままじゃ、あっさりと元ルートに戻るように修正されて終わりだよ」


リオの言っていることは正しい。


私は今、人助けなんてしている余裕はないのだ。


人の事より自分の命が危険だというのに……。


「でもまぁ、ここに来てウィリアムの行動に変化が出て来たよね。それってもしかして、シナリオ改変が思いのほかうまくいっているのかも。このままウィリアムの心をアメリアから引き離して、君とくっつけば婚約破棄は免れるし、そうしたら君は殺されずに済むかもしれない。今、君に出来ることはせいぜいウィリアムに女として意識されることと攻略対象に殺されないようにあいつらに愛敬でも振りまいて来ることだろうね。()()()()()だけど!」


相変わらず、リオは一言余計なんだよな。


でも、ウィリアムの態度が少しずつ変わっているのは確かだ。


その原因が恐らくアメリアに避けられているからだろうけど、この状態って本当にうまくいくチャンスなのだろうか。


私はどうしても何か腑に落ちないところがあった。






科学室を出て教室に戻ろうとした時、またもやバッドタイミングでルークと出くわしてしまった。


お互いに気まずい雰囲気が流れる。


このまま無視しても良かったんだけど、また不機嫌になるとやっかいだ。


私が声をかける前にルークの方から声をかけて来た。


「お前さぁ、この間は俺に好き勝手な事を散々言ってくれたよな」


やっぱり怒っていると私の顔は真っ青になる。


「俺とお前は対等だとか、俺が不安で怯えているだとか、自分を惨めに思っているとか? 挙句の果てには俺と父親が同じとまで言ったよなぁ。お前、そこまで言って、このまま許されるとでも思ってんの?」


ルークがものすごく怒っているのだけはわかった。


というか、自分でも覚えていないようなセリフを細かいところまで執念深く覚えているなんて、本当にルークはねちっこくて苦手だな。


しかしこのままだと一発ぐらい殴られないと、ルークの気が済まないのでは?


言い過ぎたという自覚は持っているが、どうしてだろう?


ルークに謝りたくないと、無意識に口が堅く閉じられている。


余計なことはあんなにべらべらと出て来るのに、どうしてこういう時は私の口は頑固になるのだろうと思った。


でもとルークは続けた。


「全部が全部間違っているとは言わねぇよ。俺がお前じゃなくて、ウィリアムを気にしているのも本当だし、周りを信用してねぇのも認める。父親が元王族でも今は王族との格差があるのも確かだし、父上がそれを気に入らないと思ってるのも事実だ。だけどな、俺はあいつとは違う。お前の言ったように俺は心の底では父親を憎んでいるかもしれない。難癖付けて母を虐めることや苛立ちを家族に当たる癖に、外ではいい顔ばかりしてやがる父が許せない気持ちはある。それを全部、侯爵家の所為だというのも確かにおかしいよな。自覚はしてねぇけど、お前に八つ当たりしていた部分もあったかもしれない。それは認めるよ。だから、今回はお相子だ」


つまり、この間の失言はなかったことにしてやるということらしい。


このどこまでも上から目線のルークの態度には腹が立つが、折角許してくれるのだから余計なことは言うまいと思った。


「思ったよりあんたの怪我が大したことなくて良かったよ。別に私も喧嘩したかったわけじゃないし、当然アメリアを突き落とすつもりもなかった。少なからず私にも原因があったんだろうなとは思ってる。それになるべく、ルークの事は深入りしないようにとは思ってたけどさ、あんたの当たりがきつくなるから、私も止められなくなって……」


私はどうしても素直になれず、もごもごとどもるような声で言った。


そんな私を見て、冷めた表情で私を見るルークがいた。


「お前の性格ってホント、ひねくれてんな。こういう時、素直に謝れねぇの?」


ルークのその言葉を聞いて、なんだかカチンときた。


「それはルークも同じだよね? 最初に突っかかって来たのは誰かな?」


「はぁ? 俺はお前のせいで階段から落ちて怪我したんだけど?」


そう言ってルークは自分の頭の傷を指差す。


「それはあんたがアメリアを助けたから怪我したんだよねぇ? アメリアを押しちゃったのは私だけど、あんたが怪我したのはあんた自身の責任だと思うけど?」


「ふざけんなよ! どう考えたっておめぇの責任だろう。つーか、謝れよ! 今までの事含めて土下座しろ、土下座!」


お前はロゼか!?と思うようなふざけた返答をしてくる。


ついに頭に来て、ルークに遠慮しようとしていたストッパーが完全に外れる。


「それをいうならいつも突っかかってくるあんたがいけないんでしょ? 今回だって私、間違えたこと何も言ってないもん。あんたは否定してるけど、ビビりなのはほんとじゃないか!!」


「ビビりじゃねぇよ! 勝手に妄想してんじゃねぇ、このバカ女!」


「ば、バカ女!?」


ついにルークにまでバカ呼ばわりだ。


私の堪忍袋の緒は完全に切れた。


「ふざけんな、この好色獣! 女引っ掛けるしか能がないふしだら男の癖に、格好つけてアメリアに告白しやがって、勘違いも甚だしいんだよ。今更一途なふりか? 気持ち悪い! 毎日毎日女ひっかけるために吐き気がするような口説き文句吐きやがって。公害なんだよ!」


「お、お前、聞いてたのか!? 本当に最低だな。そんな悪口がバンバン出るのもおめぇがどんなけ性格が悪いかっていう証明じゃねぇか。ってか、好色獣ってなんだよ!? 公害って言いすぎだろうが!」


「こっちは迷惑しているから言ってやってんだ! 慰謝料請求するぞ、こらぁ!」


既にチンピラと化している私たちの周りには野次馬が群がっていた。


私とルークは一生仲良くなれそうにありません。

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