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47話 愛の丘で

私がルークとの試合で体中に擦り傷を負ったと言ったら、リオが嬉しそうに新作の回復薬?を飲ませようとしたから、全力で拒否した。


あいつは本気で私をモルモットにするつもりだ。


そのわけのわからない薬の代わりによく効く商標登録された塗り薬をくれるというので、私たちは昼休みに校舎裏にある低い丘の広場で待ち合わせることにした。


リオがそんな雰囲気のいいところを指定するなんて珍しいとは思ったが、ひとまず何も言わずに承諾した。


私としてもジメジメした暗い校舎裏の花壇横でランチよりも草原が見える場所で食事をした方がずっと気持ちがいい。


広場に着くと、中央にいい感じの大樹を見つけた。


木陰にもなるし、ここでランチにしようと私は大樹の下で弁当箱を広げた。


しかし、こんなところでランチをしているのを人に見つかりたくはなかったので、校舎からは見えない反対側の大樹で隠れるようにして食べていた。


「リオも案外いい場所知ってんじゃん」


久しぶりにご機嫌で具材たっぷりのサンドウィッチを食べようとした時、誰かがこちらに近づいてくるのが分かった。


こっそり幹の陰から覗くと、恋人と思われる二人がお弁当を持ってこちらにやって来ていた。


もしやここはデートスポットなのでは?と一人勝手に焦っていると、その二人がアメリアとルークであることに気が付く。


「ここは私のお気に入りの秘密の場所なんですよ。とても素敵な場所でしょ?」


アメリアはそう言って嬉しそうに後ろにいるルークに話しかけていた。


彼女について来るように歩くルーク。


折角アメリアと一緒なのにどこか元気がない。


「お前、こんなところで一人、ランチしていたんだな。誘ってくれたら俺が一緒にいたのに」


ルークの言葉にアメリアは首を横に振る。


「いいの。ルークにはルークの付き合いがあるでしょうし、食堂で食べた方が栄養価の高いものが食べられるでしょ?」


「それはそうだけど、お前は寂しくないのかよ……」


「寂しくないって言ったら嘘だけど、もう慣れちゃいました。それにこんなに素敵な場所でランチをしていたら、寂しさも飛んで行ってしまうものなんですよ」


アメリアは嬉しそうに話す。


私も初めてアメリアがこんな場所で独りランチをしていることを知った。


ってか、知っていてリオはわざとこの場所を待ち合わせ場所に指名したな。


しかも、木の陰に隠れたおかげで、アメリアたちは私の存在に気付いていないようだった。


これではまるで私が盗み聞きでもしているみたいじゃないか。


結果的にはしているんだけど。


二人は私と同じように大樹の下に座り、アメリアの用意したお弁当を食べていた。


二人とも本当の恋人のように和気あいあいと食事を堪能していた。


そんなに仲がいいなら、このまま付き合ってしまえばいいのにと思ってしまう。


そしたら私の婚約破棄もなくなって破滅ルートが回避できるのに。


でもよく考えたらルークルートでも私は結局婚約破棄されて、殺されるという落ちは変わらないことを思い出し、へこんだ。


そう思うと益々自分の運命を呪いたくなる。


二人がランチを食べ終えるとアメリアの方から話の本題に入った。


「ルーク、本当の事を教えてくれませんか? その痣、ぶつけて付けたものじゃないですよね?」


意外とストレートに聞いたなと思う。


ルークも最初は黙っていたが、最終的にはぽつぽつと話し始めた。


「これは俺の母親を助けようとしてついたんだ。父は気に入らないことがあると昔から母にあたる癖があってね。最近の父は特に機嫌が悪いんだ。それを止めようとして、俺が代わりに殴られた。父としては顔を殴るつもりはなかったんだろうけど、急に飛び出したから頬に思いっきりあたってね……」


アメリアは真実を聞いて、ショックな表情を見せる。


ルークの家でそんなことがあるなんて想像もしていなかったのだろう。


ルークは公爵家の息子だ。


彼の父親は、表向きでは聡明で厳格な人で、人前で暴れるなど無作法な事をするような人ではない。


さすが王族の人間と言えるほどの出来た人間だ。


しかし、いざ家庭に戻ると彼は豹変らしいのだ。


私がそれを知ったのはルークルートのゲームをしていたからで、表向きでは誰も知らない事実だった。


ゲームでは仲良くなるとルークが少しずつだが、ヒロインに家の杜撰さを打ち明けてくれるようになる。


我が家も別の意味で荒れているし、お互い高貴な身であるのに散々な家庭生活を送っているなと感じる。


「お辛くはないのですか?」


アメリアは手当てをした痣のついた頬に触れて、ルークに尋ねる。


それを愛しそうな瞳で彼女を見つめながら、物寂しい笑みを浮かべた。


「辛くないわけじゃない。けど、これが我が公爵家の現状なんだ。それにこんなこと公の場では知られたくない。この話をしたのだって君が初めてだ」


「ルーク……」


ルークはそっとアメリアの触れている手を重ねる。


「今の俺にはアメリア、君しかいないんだ。どんなに辛いことがあっても、君が俺に笑いかけてくれる度、俺の心は癒される。ここに戻ってきてもいいんだと思えるんだ。だから、君は変わらないでくれ。ずっと今の君のままでいてほしい」


彼はそう言って、彼女の手のひらにそっとキスをした。


「公爵家というだけで、皆俺の事を特別な目で見て来る。それは羨む目でもあるし、期待する目でもある。公爵家の妻になりたくて近づく女性もたくさんいた。けど、どれだけそのような人たちに囲まれても、俺の中にある寂しさや虚無感は拭い去れなかった。人がこんなにたくさん俺の側にいるのに、それでも孤独に感じてしまうんだ。そんな日常の中に君が現れた。君に会ったあの日から、俺の世界はがらりと変わったんだ。君といる時間だけが俺の心が満たされる。君だけが、本当の俺を見てくれている気がするんだ」


ルークはそう言って彼女に微笑みかけた。


「私は……」


アメリアが何か言いかけようとした瞬間、そっとその口元にルークの手が抑えられる。


「今は何も言わないで。今、この瞬間だけでも君を独り占めしたい。だから、何も言わずに俺だけを見つめて」


そして、そっと唇から手を放す。


困惑する彼女の顔を見たルークがくすりと笑いだした。


「ごめん、困らせたかな?」


「そんな、私は……」


「今だけでもいい。君に甘えてもいいかな。俺が飾らないで本来の自分を曝け出せることが出来るのは君の前だけなんだ。だから、今だけは俺の我儘を聞いて」


ルークはそう言って、そっとアメリアの肩に寄りかかり目を閉じた。


アメリアも何も言わずに今はただ、ルークに肩を貸していた。


彼女の側にいて嬉しいはずなのに、彼のその表情はどこか悲しげであった。


っという場面に出くわしてしまった私はもうどうしていいかわからなかった。


とにかく、音を立てずに大きめのサンドイッチを無理矢理口に押し込み、食す。


それでもここから立ち去ろうものなら、二人に気づかれると思い、ずっと大人しく座っていた。


万が一でもこんな場所に私がいることがばれたら、雰囲気はぶち壊しじゃないか。


ゲームでは連打で切り抜けたルークルートだったから、こんなにヒロインに甘々な言葉とか、甘えるような行動をとっていたなんて気が付かなかった。


だいたいのストーリーが分かればOKだったから。


後でそれがバレて、みーぽんには散々怒られたけど。


ネットでもルークルートは意外にも泣けるって有名だったし、もっと真剣に見ておけば良かったけど、もう途中からはイラストさえ見るのがきつくて耐えられなかった。


今でもこの二人のやり取りを聞いているだけで、お腹がいっぱいでむしろリバースしそうな勢いだ。


こんなシチュエーションを仕掛けたリオには、今度必ずしっぺ返しをしてやろうと心に決めた。

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