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42話 騎士になる意味

あの場から逃げ出した後、そのまま教室に戻って授業を受けた。


あまりにも授業をサボっていたので、今日も休みだと認識されていたらしい。


その日の放課後、偶然にも稽古終わりのギルバートと廊下で対面した。


何か話すべきだと思ったけど、お互いに何を言えばいいのかわからなくて、数十秒間俯いて黙り合っていたが、腹をくくったギルバートの方が私に謝って来た。


「今日はごめん! 俺、自分から相談持ち掛けて、断られたからって勝手に逆上した」


「いや、あれは私の方もキツイ言い方しちゃったし、怒るのは当然だと思う……」


私もどこか自信なさげにもごもごと答えた。


ちゃんと謝れる分、私よりよっぽど偉いじゃないか。


「うんん、エリザがちゃんと俺に本当のこと言ってくれたから気づけたんだ。あの時の俺もむきになってて、アメリアに好かれていないなんて思いたくなかったんだ。何もかもうまくいくって思い込みたくて、エリザの言っていることが正しいとわかっていても受け入れなかった」


ギルバートは随分冷静になっているようだった。


あの子供の様な発言をしていた彼とはまるで別人だ。


「普通はそうだよ。これは私の欠点ていうか、理詰めで人を追いつめるところがあってさ、ギルバートの気持ちわかっていたのに、自分の言っていることが正しいんだって無理矢理押し付けようとした。ほんと、ごめん。私の方こそ、勝手だった」


するとギルバートがなぜかこの重い空気の中で一人陽気に笑い始める。


私はその光景を見て、唖然としてしまう。


「俺たちバカみたい! お互いに謝っちゃってさ。でもさ、俺はエリザが従兄弟で良かったって思ってるよ。確かに落ち込んでいる時は、正論で論破しないで、ただ優しくふんふんと聞いてほしいし、そうだねって肯定してほしい」


その言葉を聞いて、私の心にぐさりと言葉の刃が刺さった。


確かに私は落ち込んでいるとわかっている相手にも容赦のない言葉を投げかける。


「だけどさ、人はそんな人ばかり周りにおいちゃダメなんだよ。そう言う人も確かに必要だよ。じゃないとメンタルなんてすぐに壊れちゃう。でもだからって、そんなぬるま湯ばっかりに浸かってても前には進めないんだ。誰かが思いっきり後ろから背中を叩いてくれるから、決心できることもある。俺にとって苦しい時、癒してくれるのがアメリアで、気づかせてくれるのがエリザなんだ。どっちも必要でどっちも大切。世の中ってそんなものじゃない?」


私は時々思うことがある。


私のように常に小賢しいこと考えている人間より、ギルバートの様な実直な人間の方が本質的な物に気が付いているんじゃないかって。


言葉にしないだけで、ちゃんと頭では理解している。


「クラスの皆もさ、アメリアと仲良くなった瞬間、逆の立場のエリザをのけ者にしようとするでしょ? けど、そうじゃないって気がするんだ。うちのクラスにはアメリアもエリザもいる。両方いるからバランスが取れているんだと思う。どっちも欠けちゃいけないものなんだ」


彼はそう言って笑った。


クラスメイト達はみんな私を煙たがるけど、ギルバートが必要と言ってくれた。


なぜ、物語の中に正義の味方がいて、悪役もいるのか考えた時、私はずっと主人公の正義の味方を引き立てるだけの為に悪が存在していると思っていた。


だから、悪がやることは全て悪いことで、排除すべき存在としか見ていなかったし、この世界でも私はそういう人間として扱われていると決めつけていた。


でも、違うのかもしれない。


正義の味方には悪という対照的な存在が必要で、必要だから存在するわけで、たまたまできた異物ってわけじゃない。


この世界にもやっぱり悪役という存在が必要なんだ。


だからって身勝手に殺されるわけにはいかないけどね。


「ねぇ、ギルバートが騎士になりたいのはアメリアの為? 辺境伯の見合いを断りたいのはやっぱりアメリアとの結婚が諦められないからなのかなぁ?」


私はずっと疑問だったことを聞いた。


すると、ギルバートは改めて考えていた。


「それもないわけじゃないけど、違うよ。俺の夢は昔から変わらないから。確かに辺境伯の家に入れば、高い地位ももらえるし、俺が一生頑張っても手に入らないような立場に立てる。だけど、俺のなりたい騎士はそういうのじゃないんだ。自分で努力して、自分の力で勝ち取った夢が欲しいんだ。誰かに与えられた幸せじゃなくて、自分がつかみ取った幸せが欲しい。それでもし失敗しても悔いはない。だってそれは俺が決めて、覚悟してしたことだから」


そういうことかと私はやっと納得出来た。


やっぱり騎士みたいに武術を生かせたら何でもいいってわけじゃないんだよね。


ギルバートは話を続ける。


「いつかさ、俺はこの国の全部を守れるような騎士になりたいんだ。だって辺境伯になったら、その領地にしかいられないし、そこしか守れない。けど、俺が守りたいのは自分の領地なんかじゃない。アメリアやウィリアム、ルークやクラスメイトの皆。そして家族もみんなみんなみんな守りたい。本当に守りたい人を助けられるために俺は武術を磨いてきたんだ」


本当にギルバートは素直だと思う。


その中に私の名前が出てこないのはわざとかと思って、少し意地悪を言ってやった。


「じゃぁ、もし私が誰かに殺されそうになった時はギルバート、君は私の事も助けてくれるの?」


ギルバートは満面の笑顔を作って答えた。


「あったり前だろう!」


その言葉忘れてくれるなよと私は心で囁く。


ギルバートと話していると前世の記憶がなぜかふと思い出された。


私の友達にすごく絵がうまい子がいて、その子が漫画を描いているのを知っていた。


私達は彼女の作る漫画を楽しみにして読んでいた。


けど、そんな中で誰かが彼女にこう言ったのだ。


「えっちゃんは絵がうまいけど物語を書くのは苦手そうだから、イラストレーターの方が向いてるよ」


それがどれだけ残酷な言葉だったのか、言った本人は知らない。


もしかしたら、良かれと思って言ったのかもしれない


けれど、えっちゃんの心は確かに深く傷ついていた。


だから私は他の子がいなくなってから、えっちゃんに言った。


「私はえっちゃんの漫画、面白いと思うよ。だから、好きなら描き続けた方がいいよ」


でも、えっちゃんは頷かなかった。


書いてきた漫画を全て破り捨てて、ゴミ箱に捨てた。


そして、泣きながら答えた。


「私だってわかってるから。プロの漫画家になんてなれるはずないって。私に面白い漫画は描けない!!」


その時の私は思ったはずだ。


そんなのやってみないとわからないじゃないかって。


でも私もあの友人と同じように決めつけて、ギルバートに酷いことを言っていた。


事実がどうであれ、相手の夢や希望を誰かがへし折ってはいけないのだ。


だって未来は誰にもわからないのだから。


それにそれは他人が宣言するものじゃない。


自分で気が付いて、自分と折り合いを付けないといけないものなのだ。


今頃になってそれを気づかされるとは思わなかった。


「俺、父上に手紙書くよ。俺の正直な気持ちをダメもとでも伝えてみる。じゃないと後悔しそうだしさ」


私はそんなギルバートに頷いた。


私が心配しなくても、彼は自らの力で多くの事を気づいて成し遂げていく。


だから私も今、私の出来ることを精一杯やろうと決めた。

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