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41話 告白

私は科学室を飛び出して、ギルバートともう一度話し合うために校内を探し回った。


そして、駆け回っている最中に花園の中からかアメリアの声が聞こえた気がして、私はつい条件反射で生垣の後ろに隠れてしまった。


別にアメリアに会ってまずいことは何もないのだけれど。


そんな時、アメリアの話声が耳に入って来た。


「どうしたの? ギルバート。こんなところに呼び出して……」


ギルバートがそこにいるのかと思い、生垣の隙間から様子を窺う。


するとそこにはやけに緊張していたギルバートとアメリアが立っていた。


もしやこれは告白シーンなのではないのか、私まで勝手にドキドキしてしまう。


そう言えば、高校の時にも同じような事があった気がする。


掃除を終えてゴミ箱のごみを回収所に運んでいる時、校舎裏で男子が女子に告白している場面にたまたま出くわしてしまったのだ。


こんな人が来そうな場所で告白するなよとは思ったが、つい気になって聞き耳を立ててしまった。


男子は緊張した面持ちでありきたりな告白を女子にしていた。


そして、女子はそのまま男子にこう返事をした。


「ごめんなさい。私、あなたのことよく知らないから……」


そう言って女子はその場から離れて行って、男子はその場で項垂れていた。


その時何となく察したのだ。


きっとこれはこの男子が恋に恋していた状態だったんだろうなぁって。


その男子はその子と廊下ですれ違うだけで会えたと思って、窓越しから見えただけで知った気になって、気持ちだけがどんどん高ぶって、大して関わったこともないのに告白した。


彼女からしたら知らない人にいきなり告白されて困惑し、当然断る。


男子は落ち込むけど、その後友人に慰められて何かの記念日のように経験だけ残して、落ち込んでいた時の気持ちを忘れて、また新たな恋をする。


女子も告白されたという誇らしさがあっても、浮かれているのは最初だけですぐ忘れていく。


そのうち、お互いに廊下ですれ違っても気が付かないぐらいになるのだ。


私はそれを見る度に、『恋』ってなんだろなぁって思っていた。


一緒にいたからその人を好きになるとか、仲良くなったから好きになるとか、そんなの結局最後は関係なくて好きだって思ったらもうそれは恋になるんだ。


それだけの事なのに人はそんなことに一生懸命で、命がけで、ものすごく本気で、周りの事なんて何も見えなくなるぐらい相手に夢中になっていく。


それが私からしたら不思議で、他人の恋も自分の恋もどう受け止めていいかわからなくなっていた。


実際大学に入って、乙女ゲーを借りて恋愛を疑似体験していたんだけど、それでもどうして主人公やそして相手役がそんなに真剣にお互いを想い合えるのかわからなかった。


恋愛物語として面白かったけど、やっぱり私はゲームに自己投影がうまく出来なくて、どこか他人の恋愛事情を覗き見ているような感覚だったんだ。


恋なんて、したいと思ってするものじゃない。


それは深層心理の中にあって、無意識にその願望が働いていることは否めないけど、やっぱり自然とするものじゃないかな。


だから、他人の恋愛なんてわかろうとしてもわからないんだ。


ギルバートがアメリアに思う気持ちは私にはわからない。


客観的に見ればまだまだ彼は彼女との関係性は薄いし、お互いの事も何もわかっていないと思う。


告白してもうまくいかないのは一目瞭然だ。


それでもギルバートにとって、この告白は必要なことなんだ。


そう思うと、私は彼の告白をもっと素直に見守るべきだと思った。


「アメリア、俺……」


ずっと緊張して黙っていたギルバートがやっと話し始めた。


アメリアも口を挟まずに、ただ黙ってギルバートを見つめている。


ギルバートは改めて息を整えて、まっすぐアメリアを見た。


「アメリアが好きだ! 君が俺の事、まだ恋愛感情として見てもらえていないことはわかってる。君のその優しさは友情から来るもんだってこともわかってる。それでも俺は、君が好きで、君以外の女の子なんて見られないんだ……」


「ギルバート……」


アメリアもそんなギルバートの気持ちを察していた。


「父上から手紙が届いた。辺境伯からの見合い話でいい話だから受けろと言われた。けど、俺には、もう心に決めた人がいる。それがどんなにいい話でも俺は君以外の女性と結婚したくない。俺はずっと君といたいんだ。君と何でもないことで笑い合って、一緒に散歩したり、季節の花を愛でたり、そんな当たり前のことをしたい。俺はずっと君の隣にいたい。それだけなんだ……」


アメリアは黙って顔を俯いた。


きっとアメリアにもギルバートの今の気持ちが届いている。


数秒間、二人の間に沈黙が続いた。


そして、やっと切り出したのはアメリアだった。


「ギルバート、ありがとう。あなたの気持ちはすごく嬉しい。私もギルバートの事は好きだし、一緒にいて楽しいし、和むの。私が辛い時もいつも側にいてくれて、優しくしてくれて本当に嬉しかった。あなたの笑顔に何度も救われた。けど、あなたのその気持ちには答えられない」


「なんで!?」


ギルバートはつい前のめりになって聞いてしまった。


それでもアメリアは冷静に答えた。


「この気持ちはギルバートのそれとは違うから。受け止めることが出来ないの。私だってずっとギルバートの側にいたいし、結婚して離れ離れになるのは正直にいえば嫌よ。でも、それは私の単なる我儘だもの。私がギルバートの気持ちを受け止められない以上、私はあなたの将来について口出す権利はないわ」


ギルバートはそのまま、何も言えずに黙ってしまった。


このままギルバートはアメリアを諦めて、婿入りでもするんじゃないかと心配になった。


しかし、ギルバートは落ち込んだ顔をやめて、まっすぐアメリアの顔を見つめる。


「本当は君の気持ち最初からわかってんだ。それでも俺は諦め悪くて、フラれるってわかっていても、君にこの気持ちをちゃんと口で伝えたかった。俺は君の恋人にも夫にもなれないかもしれない。それでも、君を守る騎士ナイトではいさせてほしい。それにさ、好きじゃないって言われたぐらいで諦められるなら、もうとっくに諦めているよ。俺、君が俺の事を好きって言ってくれるまで待ってる。今はまだ君を諦めたくない。君を好きで居続けたいんだ。それぐらいの我儘は許してくれよな?」


彼はそう言ってアメリアに笑いかけた。


アメリアの目からは涙が溢れていた。


ああ、案外ふる方も辛いんだなって思った。


私は誰かに告白されたことも、ふったこともないからわからなかったけど、気持ちに応えられないのも辛いことなのかもしれない。


そんな泣いたアメリアをギルバートの腕がそっと優しく包み込んだ。


私の知っている展開ではないけど、いい告白じゃん。


そう思ってその場を立ち去ろうとした時、私の耳に微かにギルバートの言葉が入って来た。


「ねぇ、アメリア。もしかして君、本当はもう好きな人がいるんじゃない?」


アメリアも驚いて顔を上げた。


それでもギルバートの表情は優しかった。


「アメリアはウィリアムが好きなんでしょ? ずっと側にいたからわかる」


アメリアは何も言えなかった。


私も驚きを隠せないでいた。


「でもそんなこと君の口からは言えないよね。ウィリアムはこの国の王子でエリザの婚約者なんだもん」


私はどうしてもその場にいられなくなって、アメリアの返事を聞かないまま、気が付けば駆け出していた。


あの時逃げないで、私もちゃんとアメリアの返事を聞くべきだった。


それでも、今はまだその答えを聞いてはいけない気がした。

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