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40話 望まぬ未来

「で、何しに来たの?」


リオは試験管を振りながら、私の顔を一切見ることもなく尋ねた。


「『何しに来たの?』じゃないよ! あんたが『何かあれば来てよ』て言ったんじゃん」


私は剥れた顔で科学室の机に顎を乗せながら答えた。


「そうだっけ? そんなこと忘れたよ」


「都合のいい脳みそだなぁ、おい!」


リオがいつも勝手な事を言うから、私はつい突っ込んでしまう。


「ってか、どうしたらいいんだろう? また、無駄に喧嘩してきちゃったぁ」


私はギルバートにきつい言い方をしてしまったことに罪悪感を抱いていた。


あそこまでコテンパンに言うつもりはなかったのに……。


「ここはお悩み相談室でも、懺悔室でもないんだけど? まぁ、確かに君って喧嘩っ早いって言うか、短気というか、一言多いんだよね」


「最後の言葉だけはいただけないな。あんたにだけは言われたくないんですけど」


リオも相変わらずだ。


私がどんなに悩んでいても、気にせずマイペースに対応してくる。


今も何かの実験の片手間に話を聞いている状態だ。


私への扱いが雑過ぎないか?


「喧嘩した理由は想像できるけどさ、それがなんだって言うんだい? そもそも、君は一体何がしたいの?」


「何がしたいって?」


リオの意図が全く理解できない私を彼は蔑むような目で見た。


その目を辞めろ……。


「ボクたち、この世界のばかげた筋書を変えるために今、動いているんだよね。どうして君はわざわざギルバートを助けようとしてるのさぁ。このまま、勝手に告白させて、勝手にフラれるのをのんべんだらりと待ってたらいいんじゃないの?」


確かに言われてみたら、私は何がしたかったのだろう?


「でも、ここでギルバートがフラれたとしてもシナリオ改変には至らないと思うんだよね! ほら、むしろ二人がうまく行った方が私の破滅ルートは回避できるんじゃないかなぁ?」


私的には気の利いた事を言ったつもりだが、相変わらずリオの目線は冷たかった。


「君さぁ、本気で今のギルバートとアメリアがうまくいくと思ってんの?」


「……いや、思ってないっす……」


言い返す言葉がございません。


私だって今のギルバートの状態でアメリアを落とせるとは思えないし、仲良くなるまでのイベントも少なすぎる。


「でもさ、このままギルバートがアメリアにフラれて、やけくそになって辺境伯のところに婿入りしてもさ、あいつの幸せにはならないと思うんだよね。私はさぁ、出来ればギルバートには夢を叶えてほしいんだよ。だってあいつ昔から騎士になるのが夢だったんだよ? その夢が潰えるんだよ?」


「は?」


「はい?」


私達はお互い顔を見合わせて首を傾げた。


「全然、夢潰えてないじゃん。辺境伯のところに行くんでしょ? いずれは家を継ぐんでしょ? 辺境伯って言うのはね、国の国境を守る仕事! 防衛がメインで、言うならば一兵卒から省略して、最高の軍隊指揮官になるようなもんだよ。君、一応、侯爵家の娘だよね? 侯爵家の仕事も国境警備、軍事メインのお仕事ですよね? どうしてそれがわからないかなぁ」


言い返せないんだけど、ものすごぉくバカにされている気がする。


確かに騎士ではないかもしれないけど、いきなり地方の将軍になるようなものなのかな。


「むしろその見合い話がうまく行った方がいいんじゃない? このままアメリアにアプローチしたところで結果は変わらないんだし、相手だっていつまでも気長に待ってくれるわけじゃないんだよ?」


本人が聞いたら泣くなぁってことを平気で言う、リオ。


彼の言う通り相手も20歳だし、悩んでいたら他に話を持っていかれそうな気もする。


それにしがない伯爵家よりもはるかに辺境伯の方が立場は良くなるから、ギルバートの様な武術しかない男にはこれ以上ないほどいい話なんだけど……。


「でもなんか違う気がするんだよ! いきなり司令官にスキップするってのはさ。ルール違反とかではないんだけど、中古のゲームソフト買ってきてさ、中に前の人のデータが残ったままでね、ラスボスまであともう少しみたいなところまで行っていて、しかもレベル99まで育て上げてくれているんだけど、なんかそれでプレーするのはなぁって思う気持ちと同じなんだよ」


「全然、意味がわからん! 人間の言語で話してよ」


リオは眉間に濃いしわを作って訴えて来た。


やっぱりRPGの話はここでは通用しないようだ。


「私もどう説明していいのかわからないけど、ギルバートが悩む理由はわかる気がするんだよ。叶わないってわかっていても、やっぱり自分の好きな人と結婚したいと思うし、例えばいきなり国王の座をくれるって言われてもありがた迷惑というか、むしろどうしていいか戸惑うというか、重いっていうか……。誰もが羨むようなものでもさ、本人が欲しいものと違うなら、やっぱりそれは違う気がするんだよね」


リオは珍しく真面目に聞いていた。


やっと腹黒男子にも気持ちが伝わったのかと、一瞬でも期待してしまった。


「ボクには理解出来そうにないよ。君だって、アメリアのヒロイン特有の幸運スキルや光属性で魔法適性が抜群に高いとか憧れたんでしょ? それってそのスキップと何が違うの? 君が魔力18から始まっているところを彼女は五桁で始めている。それを見て羨ましいとは思わなかったの?」


「いや、思ったけど……」


そう言われてしまうとぐうの音も出ない。


「君たちは勝手だよね。ないと思えば羨むのに、急にあげるというと、拒む。結局何がしたいのかよくわからないよ」


確かにそうだ。


私達はいつもない物ねだりだ。


ギルバートだって、アメリアが簡単に振り向いたら今みたいに夢中じゃなかったかもしれない。


騎士にだって、学校卒業したら約束されているような職業だったら憧れなかったかもしれない。


それに私は本当にギルバートの気持ちがわかっているのだろうか?


私はギルバートのように誰かを好きになったことはないし、夢なんてものもない。


ただ、勝手な理由で死ぬ運命を拒んでいるだけだ。


ウィリアムとの婚約破棄も破滅ルートに直結するから避けたいだけで、本気で彼と結婚したいと思っているわけでもない。


アメリアの事はまだ好きにはなれないけど、だからって彼女の恋路の邪魔がしたいとか、不幸になってほしいとか、ましてや死んでほしいなんて思ってない。


シナリオ改変は望んでいるけど、その為にギルバートに望まない未来を歩んでほしいとも思わない。


私は本気でギルバートに幸せになってほしいと思ってる。


だってこれは誰かを不幸にするためのシナリオ改変じゃないのだから。


私は椅子から勢いよく立ち上がって、リオに向かって叫んだ。


「やっぱり私、行ってくる! 行って、もう一度ギルバートときっちり話して来る。そしたら、ギルバートの本当の気持ちを今度はちゃんと受け止められる気がするから!!」


私はそのまま科学室を飛び出していった。


後ろでリオが呆れた様子で見ているのはわかったけど、足を止める気はない。


こんなところで私は後悔したくないのだ。






リオは科学室を勢いよく飛び出すエリザを見て、小さく息をついた。


「悪役の癖に、主人公みたいなセリフを吐かないほしいよね」


彼はそう一人で呟いた後、再び実験に戻った。

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