24話 救済
「ウィリアム王子、それにルーク様まで。なぜ、ここにいらっしゃるのですか?」
講師の一人が驚き、席を立つ。
ウィリアムとルークだけではなく、ギルバートやエミリー、その他数名の生徒が集まっていた。
「アメリアの校則違反による処罰が下されると聞きました。だから、我々はその抗議をしに来たのです。今すぐ、アメリアの処分を撤回してください」
その言葉に反応し、デルモンド講師が立ち上がって、はっきりとウィリアム達に告げた。
「いくら王子の頼みでも撤回は出来ません。学生の無許可による魔法使用は厳罰に処される規定になっているのです。アメリアは規定通り、停学処分とします!」
そんなとエミリーは悲しそうに声を上げた。
「そこを何とかしてくれと頼みに来たんだろう。事情を聞けば、命を助けたって話じゃねぇか。私利私欲で使ったならまだしも、使うしか助けられなかったなら、しかたねぇ話だろう。それなのに、停学処分とは厳しすぎねぇか?」
デルモンド講師はルークに向かって、大きくため息をついた。
「ルーク。あなたが公爵家のご子息だからと私は特別扱いするつもりはありませんよ。あなたの御父上から、礼儀作法も教えるように仰せつかっておりますからね。それに、人に頼みごとをするのにその態度はなんですか。講師の前では敬語を使いなさいと申したはずです」
ルークはその場でちっと舌打ちした。
「それにね、君たち、命助けっていってもウサギだよ? 人ならまだしもね、ただの子ウサギだ。成長すれば、殺され食べられる存在。それを助けたからなんだというんだ。それよりも無断で魔法を使う方が重罪だ」
今度は別の講師が生徒たちに話しかけた。
エミリーはそんな言い方ひどいと嘆いている。
「アメリアはとても頭のいい生徒です。無許可で魔法を使うことがどれほど重罪かわかっていたと思います。それでも彼女は使った。使うしかなかったんです。その彼女の純真な気持ちが先生方には伝わらないのですか?」
すると、デルモンド講師は席を離れ、ウィリアム達生徒の前に立った。
あまりの迫力に何人かの生徒が後退った。
「あなたたちはなぜ、無許可による魔法使用がここまで厳罰に定められているのか、真剣に考えたことはありますか? これは心持ちの問題ではないのです。あなたたちはまだ学生で、魔法に関しても未熟。未熟な魔法というのは時に暴発や意図しない力が働きます。そうなった時、それを止めるのは誰ですか? 魔法がしっかり扱える大人のいない中で、自分たちの勝手な判断で魔法を使えば、そこには必ず想像以上の悲劇が生まれます。現に今までも実習中に大怪我をした学生もたくさんいた。そうした事故の際には必ず瞬時に判断し、処置できる教官たちがいたからこそ、その命は失わずに済んでいるのです。今回はたまたま運が良かっただけ。同じことを繰り返せば、いつか必ず取り返しのつかない時が来るでしょう」
彼女の言葉に誰もが黙ってしまった。
魔法とは一見便利そうに見えても、それは一つ間違えれば、人を傷つけ、時には自分すらも傷つける。
細心の注意を払って、緊張感をもって行わなければならないのだが、魔法の使用に慣れてしまった学生たちは時にその恐ろしさを忘れ、便利だからと安易に使用したりする。
だからこそ、停学という重い処分を定めているのだ。
そうしなければ、安易に使う生徒が後を絶たなくなる。
デルモンド講師が生徒たちの沈黙する姿を確認すると、今度はサディアスの方を見て話しかけた。
「あなたもですよ、ウォンバス教官。あなたがそれを一番厳守しなければいけないお立場なのに、生徒可愛さに庇うとは情けない話ですね。ここで特例を作ってしまえば、その規律が乱れます。だから、例外など作ってはならないのです」
さすがのサディアスもこれには何も言い返せなかった。
これがもし、別の生徒ならここまで抵抗はしなかっただろう。
アメリアだからこそ、彼女が考え無しに魔法を使ったわけではない、致し方ない理由があったのだと決めてかかっていた。
これを差別と呼ばないでなんと呼ぶのだろうか。
一部の生徒に信頼を寄せるのはいいが、優遇となればそれは教師の範疇を越えてしまっている。
誰もがもう、アメリアの処分を覆せないのかと思った時、彼らの後ろからクラウスの声が聞こえた。
皆、そちらの方に注目する。
「そうですね。彼女が人格者であれ、規則違反は規則違反。処分は致し方ないでしょう。でももし、それが平民である生徒ではなく、ここにいるウィリアム王子や公爵家のルーク、もしくは侯爵家の娘にして、ウィリアム王子の婚約者であるエリザが同じように規則違反をした場合、彼女と同じように停学処分を与えるのですよね?」
クラウスは不気味なほどの作り笑顔を作って、講師たちに尋ねた。
意味が分からないとデルモンド講師も眉間にしわを寄せ、聞き返した。
「どういうことですか、クラウス・テイラー」
「別に大した話ではありません。生徒会長として事故現場には一応目を通しておこうと思いまして、行ってみたんですよ。すると、アメリアが使ったと思われる魔法量より多い、魔法の痕跡があった。つまり、アメリア以外にも魔法を使った生徒がいる可能性が出て来たという話ですよ」
それを聞いて、多くの講師たちが顔色を変えた。
「それは、エリザ・A・ヴァロワがアメリアと同じように無許可で魔法を使ったと言いたいのですか?」
クラウスはいやいやと首を振った。
「そこまでは私では判断できません。ただ、痕跡があったというだけの話です。別の学生が使った可能性もありますし、アメリアが必要以上に魔法を使ったという可能性も拭えない。ただ、同じように我々の知らないところで無許可に魔法を使用した生徒がいたと仮定して、それが我が校にとって重要な人物であっても不名誉な停学処分を下せるのかと聞いているだけです」
その時、そうかとウィリアムは講師の持っていた杖を奪い、構えた。
それを見た瞬間、どの講師も驚愕し、声を上げる。
「つまり、こういうことだね、クラウス。もし、僕がこの場で魔法を使ったとしても、先生方は僕を停学処分にするのかという質問なわけだ。さぁ、先生方答えてください。僕は停学になりますか?」
「馬鹿なことはおやめなさい!」
講師の一人が腰を引けた状態で必死に彼を止めようとする。
そこに一人落ち着いて椅子に座ったままの学園長がウィリアムに話しかけた。
「杖を下ろして、先生に返しなさい、ウィリアム王子。わかりました。あなたたちが言っていることも正しい。恐らく我々はこの処罰を一部の生徒には下せない。しかし、それは決して正善ではない。本来であればどの生徒も隔たりなく処罰されなければならないことです。しかしながら、もし、アメリアをここで停学処分にすれば特待生としての免除は受けられなくなり、実質上退学に追い込むことになるでしょう。そうなれば、きっとあなた方は許さないでしょうね。わかりました、彼女に関しては謹慎処分とし、今学期中の講義の参加の自粛及び、来学期までの魔法の使用禁止とします。これでよろしいかな?」
その言葉を聞いて、ウィリアム達は皆、感激の声を上げた。
一人デルモンド講師だけが納得していないようだった。
「デルモンド先生。我々は処罰という方法だけで生徒を縛るのにももう限界が来ているのかもしれない。魔法を使うことの恐ろしさを忘れぬよう子供たちの記憶にしっかりと植え付けることも我々の教育かもしれませんよ」
学園長の言葉にそれ以上、デルモンド講師は何も言えなかった。




