23話 緊急会議
学園の講師たち17名は急遽、会議室に呼び出された。
今回の緊急議会は『アメリア・フローレンスの無許可の魔法使用の処罰』についてだった。
その件について、最初に口を開いたのはデルモンド講師だった。
「彼女は魔法の使用を自ら認めました。私もこの目で確認しております。処罰は規定通り、停学でよろしいのでは?」
その意見に対し、サディアスが瞬時に反応する。
「しかし、あれはウサギの命を助けようとした結果であり、不可抗力だったと思います!」
それを聞いた講師がふんと鼻を鳴らした。
「不可抗力? それはどう意味ですか? 彼女の意思とは関係なく、手を何かに動かされたとでも?」
「そういうことではなく、生き物の命を守るために使ったのです。あのタイミングでは我々が到着した時点で助けられなかった」
そこでもしもしと手を上げる別の講師がいた。
「しかし、それは子ウサギの命だろう。人の命ならまだしも、ウサギの命ごときで魔法を使うのはいかがかと」
もし、この助けた相手が人であるなら人命救助のための魔法の使用として、処分が多少軽減したかもしれないが、ウサギの命と言われてしまえば、話は別だ。
「しかし、命は命です。生徒たちに目の前で失いそうになっている命を見捨てろと教えるおつもりですか?」
サディアスはだんだん気持ちが高ぶってきたせいなのか、一人大声を上げていた。
今度はまた別の講師が声を上げる。
「そう言うことを言っているのではありませんよ、ウォンバス教官。ただね、私たちはここで彼女を許してしまえば、もし今後同じような事があっても、その生徒を処罰することは出来なくなるということを懸念しているのです。つまり、特例を作ってしまえば、校則違反の抜け道などいくらでも作れてしまうということ」
それにとまた別の講師が続いた。
「私の耳にもね、あなたのよろしくない噂が届いているのですよ。あなたが特定の生徒に入れ込んでいるとか。わかりますよ。教師として、優秀な学生にはつい目をかけてしまう気持ちは。しかしね、女生徒は良くない。ウォンバス教官はまだ若いし、未婚であられる。女生徒に良からぬ感情を抱いてもおかしくない年頃でしょう?」
「私はそんな――」
サディアスは好き勝手言う講師に向かって、思い切り睨みつけた。
しかし、彼を見る目は皆、冷たいものだった。
「いえいえ、私達だってあなたが本気でその女生徒にそのような感情を抱いているとは思ってはいませんよ。しかし、生徒達の中にはそう言った疑いを持った者もいるというのが事実でしてね。こうした誤解が今後の大きな火種となる可能性があることを視野に入れてほしいだけなのですよ」
「しかも、その生徒は特待生で入学してきた平民。そんな彼女に特別扱いしようものなら、生徒達の親御様が黙っちゃいませんよ。このオーディン学園の殆どが貴族のご子息ばかりなのです。そんな方々を怒らせば、どのようなことになるか……」
彼らが本当に心配しているのは今回処分される対象者が、平民のアメリアだということ。
他の上級階級の貴族ならまだしも、平民を特別扱いしたとなれば、保護者からの抗議は後を絶たないだろう。
そう言われてしまうと、サディアスも何も言えなくなってしまった。
確かにアメリアは優秀な学生だ。
しかし、この学園の出資元である貴族たち意向を無視して、平民を庇うことは出来ない。
そうするぐらいなら、彼女を停学でも退学にでもした方がましだと考える講師もいた。
そんな中でまあまあと宥める学園長が話し出す。
「確かに彼女は平民の学生。しかし、彼女が特待生なのは何も成績が優秀だからという理由だけではない。彼女が稀に見る、光属性の持ち主だからですよ。そう考えると周りにとって不都合だからと彼女を無下に扱うのは得策ではない。我々には、いや、この国には光属性の魔術師が必要なのも確かでしょ?」
学園長が言い終えた後に改めてデルモンド講師が話し始めた。
「だからこそ、規定にのっとって停学処分とすべきなのです。特例は許されません。そのような処置を一度でもすれば、秩序が乱れるだけです」
もう、これまでかと思った頃、会議室の扉が突然開いた。
何事かと教師たちが振り返るとそこには何名かの生徒たちが立っていた。
その中には第二王子のウィリアムと侯爵家のルークもいた。
このままでいけば、アメリアは規則通り、停学処分となるだろう。
私達の心情としてはそれで十分なのだけれど、問題はそこではない。
このまま、アメリアの停学が確定して、明日を迎えれば、それに納得のいかない彼女の取り巻き、主に攻略対象たちが暴走しかねない。
しかし、一度会議で決定されたことを覆すのは難しい。
だから抗議活動を起こすなら、今しかないのだ。
全てが決定する前に異を唱える。
そんなことをすれば、折角のアメリアの停学をなかったことにしてしまうが、それで問題ないのだ。
彼らによってアメリアの罰則が軽くなれさえすれば、彼らの気も少しは晴れるというもの。
あの事故の時のように、クラウスが憤慨したり、ウィリアムが過保護になったりする必要はなくなる。
当然、私たちの方にその怒りが向けられることもない。
自分たちがアメリアの為に何かしたという事実が必要なのだ。
私は覚悟を決め、ニアに出かける支度をさせて、急いでウィリアムの元に向かった。
ウィリアムの部屋の前には護衛の兵士が一人立っていた。
私は泣きそうな顔をしながら、その兵士に近づいた。
「お願いです。ウィリアム王子に会わせてください。わたくしはウィリアム様の婚約者のエリザです。アメリアの事で急ぎお伝えしなければならないことがあるのです!」
突然の出来事に兵士は明らかに困惑していた。
「こ、困りますよ。殿下は既にお休みになっております。今日はひとまずお帰り下さい」
「明日ではダメなのです。明日にはアメリアの処分が決まってしまう。どうか、どうか、一言でいいのです。殿下にお会いさせて下さい!!」
入り口で騒いでいるとさすがにウィリアムの耳にも届いたのか、自ら扉を開けて顔を出した。
「で、殿下! すいません、お休みのところ。この者が殿下に急ぎのお話があると」
兵士は慌てながらもウィリアムに事情を伝える。
ウィリアムは私を見て、驚いた顔をした。
「エリザ! こんな時間にどうしたんだい?」
私はそんなウィリアムに泣きついて訴えた。
「殿下、お願いです! アメリアをお救い下さい」
「アメリアがなんだって!?」
さすがにアメリアの名前を出せばウィリアムはすぐに食いついて来るとわかっていた。
私はそのまま懺悔をするように事情を話した。
「それはいけない。このままではアメリアが停学になってしまう」
ウィリアムはそう言って部屋の中から上着を取り出してきた。
「今から僕は学園長のところへ向かう。その前にルークやギルバートのところにも行こう。きっと二人なら協力してくれるはずだ」
「なら、わたくしはエミリーたちに声をかけますわ。けれど、わたくしはアメリアさんに厳罰を与えるきっかけを作った根源。今はまだ、わたくしは彼女に顔向け出来ませんわ」
そう言って、俯いた。
ここで私自身がこのデモ活動に参加するわけにはいかないのだ。
「わかった。きっと、アメリアの処分を撤回して来るよ」
ウィリアムはそう言って私の手を握り、出ていった。
私は彼を見送ると急いでエミリーの部屋へ向かった。




