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124話 想い

「辞めてください、父上!!」


私の横から誰かの叫ぶ声が聞こえた。


そして次の瞬間、痛みではなく誰かが覆いかぶさる感覚を覚えた。


顔を上げてみるとそこにはルークが立っていた。


暗くてよく見えなかったが、彼は酷く苦しそうな顔をしているように見える。


額から大量の汗も流れ、そのまま私に倒れ掛かって来た。


私はその状態でルークを受け止め、支える。


彼の背中に手が当たった時、何か生ぬるいものに触れた気がして、その手を覗き込んだ。


私の手はルークの血で真っ赤に染まっていた。


ルークは私を庇って、ファルロイド公に切られたのだ。


私は唖然としたまま、声が出なかった。


なぜ、ルークが私を庇ったのかさえわからない。


ファルロイド公も驚いたのだろう。


まさか自分が自分の息子を手にかけることになるとは思わなかったからだ。


彼は握りしめていた剣を床に落とし、悲鳴のような大声を上げた。


「なぜだ!! なぜ、お前がここにいる!?」


当然、ルークは答えられないでいた。


背中から流れる血が止まらない。


顔が真っ青になり、瀕死であることがわかった。


私はそんな彼の身体を支えながら尋ねる。


「どうして!? なんで私なんかを……」


するとルークは珍しく、私に今にも崩れそうな弱々しい笑みを浮かべた。


「父上に……、これ以上罪を重ねて欲しくなかった……。それに……、お前にも死んで欲しくないから……」


いつも憎まれ口ばかり叩き合う仲なのに、ルークが身体を張って守ってくれたことが信じられなかった。


私は彼に嫌われていたわけではなかったのだ。


そう思うと涙が止まらなかった。


すると、彼がそっと私の頬に流れる涙を指で軽く拭って答えた。


「お前が……、俺の為なんかに……泣くんじゃ……ねぇよ。いっつも……悪態ばっか……ついてる癖に……。こんな時に限って……、ずりぃだろう……?」


今にも意識が飛びそうな状態で、最後まで私に気を遣うルーク。


私はそんな彼に必死で話しかけた。


「もう話さないで。絶対、助けるから!!」


助けると言っても、私にできることはほとんどない。


これが私ではなくアメリアであれば、治癒魔法で助けられたかもしれないというのに。


私はただ必死で周りに呼びかけるしかなかった。


「お願いです! 誰か! 誰か! ルークを助けてください!!」


治癒魔法があれば、何とか助かるかもしれない。


王宮なら王宮魔術師だっているはずだ。


しかし、そんな都合のいい相手が、すぐに現れてくれるわけがない。


すると、大泣きをする私の前になぜかリオが立っていた。


そして、ポケットに入っていた小瓶を取り出す。


「……リオ?」


「うつ伏せでもいいから、一旦彼を寝かせて」


リオは静かにそう言った。


私の叫び声を聞いた王宮の人たちも協力して、私たちは指示通り、ルークをゆっくり倒してうつ伏せに寝かせた。


すると、リオは小瓶の蓋を取って、それをルークに飲ませようとする。


しかし、ルークは殆ど意識がないせいか、口から入れようとしても、流れていくばかりだった。


「もしかして、それはポーション? でも、そんなんじゃ、こんな大怪我は……」


私がリオにそう尋ねると、リオは冷静に答えた。


「わかってる。けど、これは普通のポーションじゃないから」


それを聞くと私はリオから小瓶を受け取り、自分の口に含んだ。


そして、無理矢理ルークの首を持ち上げ、思い切り口伝えにポーションを流し込んむ。


するとそれが功を奏したのか、何とか飲み込んでくれたようだった。


数秒後には流れていた血が止まり、背中に出来た傷がみるみる塞がっていくのが見える。


なんて効力の高いポーションなのだろう。


こんなものは見たことがなかった。


すると複雑な表情をしていたリオが答えた。


「ひとまずこれで大丈夫だと思うけど、流れた血までは戻るわけじゃないから、当分貧血で目を覚まさないと思う。誰か、彼を医者のいるところへ連れてってあげて」


彼はそう答えると、そのままどこかに立ち去って行ってしまった。


私は運ばれていくルークを心配そうに見つめながら、考えていた。


なぜ、リオがこんな場所にいたのだろう?


そして、なぜ、あんな強力なポーションなんかを持っていたのだろう?


その時、昔、リオと科学室で話していた言葉を思い出した。


――ボクは君と違ってもっと現実的な方法で動いているよ。


そう、彼も彼で私の破滅ルートの対策を考えていてくれたはずだ。


それに、ずっと気になっていたけれど、アメリアが宮廷魔術師候補として学園を退学させられそうになった時、急にその話がなくなった。


噂では引退予定だった魔術師が引退を延期するとのことだったけど、タイミングが良すぎるとずっと思っていた。


全てを繋ぎ合わすとこうだ。


リオはゲーム通りあの科学室で自分の命の延命の研究をしていたのではなく、私に何かあった時に助けられるように強力なポーションの開発に時間をかけていたのだ。


物語では私が誰かに殺される展開が多かったから、即死でない限り、助けることが出来るように対策を打っていたのだろう。


その薬を今、ルークの為に使用した。


きっと王宮魔術師にも延命治療として渡していたはずだ。


私は気が付くと、リオの立ち去って行った方向へ駆け出していた。






「リオ!!」


私はリオの姿を見つけると、彼に向かって叫んだ。


その声で彼は立ち止まったが、黙って背中を向けたままだった。


そんな彼に私は駆け寄る。


「……ありがとう。ルークを助けてくれたこともそうだけど、あの薬――」


「別に君の為だけに開発していたわけじゃないから、気にしなくてもいいよ。何かの役に立つと思っていつも持ち歩いていただけなんだ」


リオは相変わらず背中を向けたままだった。


握りしめた手が微かに震えているのが見えた。


いつものリオなら、君は何度殺されれば気が済むんだとか、不注意にもほどがあるとか憎まれ口の一つや二ついってくるはずなのに、そんな言葉は出てこなかった。


私はリオに、ゆっくりとした口調で告げた。


「私、ウィリアムと婚約解消した。その代わりにとテオが自分の側室に上げる話を提案してきたんだけど、断ったよ。兄上が殺されたから、ヴァロワ家の跡取りがいなくなっちゃって、サディアスが継ぐ話も出てたけど、きっとそれは誰も望んでいない。だから私が後を継ぐことに決めた」


そこまで話してもリオは何も言わなかった。


彼がこれらの話の何処まで知っていたのかわからない。


もしかしたら、全て知っていたのかもしれない。


「それでね――」


「そっか、良かったね。これでもう君がプログラムに殺される理由はなくなったわけだ。王族の仲間入りにはなれなくなったけど、君は最初からそんなこと望んでいなかったんでしょ? なら、問題解決出来たんじゃない?」


冷たく突き放すリオが何に怒っているのかわからない。


私がまた無謀にも自らウィリアムに婚約解消を願い出たことなのか、テオの側室に上がる話を相談しなかったことなのか、その場の勢いで領主になってしまったことなのか……。


その全てのような気がしたけど、やっぱりいつものようにはっきり言ってもらえないと不安になる。


「計画性がなくて、その場の勢いで決めちゃって、その所為でリオに今までたくさん迷惑かけて来たのは理解してる。自分勝手なのも、わかってる。それでも……」


私はこのままリオがどこか私の知らない遠くに行ってしまいそうで怖かった。


きっと彼は私に失望している。


呆れてうんざりしている。


そうだとしても、言わずにはいられなかった。


「助けて、リオ! これからも私の側にいてほしい」


今まで散々迷惑かけてきた私が、リオに助けを求めるのは厚かましいことだってわかっているけど、今伝えないと後悔すると思った。


呆れた顔をされると思った。


もう付き合いきれないと言われると思った。


けれど、違った。


彼は泣きそうな顔でこちらに振り向いて、私を思い切り抱きしめてきたのだ。


私は驚きのあまり硬直して、何も言えなかった。


彼は私の肩に顔を埋めながら答えた。


「……君はずるい。本当に勝手な人だ……」


私もそう思う。


私はそっと彼の背中に腕を回して、しばらくの間二人で抱き合っていた。

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