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121話 血筋

テオはいつものようにお茶会を終えると、エリザに別れを告げて部屋を出た。


テオにとって、このエリザとの会話がいつの間にか大切な時間になっていた。


同じ前世からやってきて、共通の知識や感覚を持っている相手。


死ぬ前の彼に、そんな相手がいたら前世でも違う考えがもてたのかもしれない。


物事をこうだと決めつけた方が、人は楽なのだ。


人間なんて皆性根が腐っていて、女なんて自分の事しか考えていない勝手な奴ばかりだと思いたかった。


頭ではそうではないと理解していても、そう思いたい自分がいた。


それをエリザがもうそんな考えに捕らわれなくていい。


新しい世界で新しい価値観で、やりたいように生きることは悪いことではないと教えてくれた。


屋敷を出て、廊下を歩いていると、その先にパルスティナが待っていた。


彼女がこんな場所にいるのは珍しいことだ。


相変わらずもじもじと恥ずかしそうに立っていた。


テオはいつもそんな彼女が何を考えているのか理解できなかった。


「こんなところで何をしている? 用がないのなら部屋に戻れ」


テオはいつものように彼女に冷たい口調で言った。


彼女は一瞬にして硬直し、俯くと顔を青ざめた。


そんなに自分が怖いのなら話しかけなければいいのにと彼女を見るたびに思う。


彼の目に映るパルスティナはいつも怯えているように見えた。


彼は前世で女の子に好意を持たれたことはない。


気安く話しかけて来た者もいない。


彼女のように怯えるか、見下し軽蔑するような目で見て来るだけだ。


彼が彼女の横を通りすぎようとした時、彼女は声を振り絞って彼の名を呼んだ。


「殿下! その、お時間があればわたくしと、その……、一緒にお庭の散策などいかがですか?」


それは彼女からのデートのお誘い。


しかし、テオにはそれがわからない。


「仕事がまだ残っている。そんな時間はない」


彼はそう言って足を進めようとして気が付いた。


彼女は今、勇気を振り絞って、自分と一緒に時間を過ごしたいと願い出ているのだ。


振り向くとそこには落胆したパルスティナがいた。


彼はそんな彼女の様子を見て、小さく笑った。


「今日は時間が取れないが、明日なら少しだけ時間を作る。詳細は追って使いの者に伝えるから、それまで待てるか?」


テオがそう告げると、パルスティナはゆっくり顔を上げて答えた。


「はい!」


さっきまで落ち込んでいた顔が嘘のように、嬉しそうな顔に変わっていた。






「何を考えているのだ、テオは! ウィリアムがダメになったから、自分の妾にするだと? ますます、あいつらが図に乗るだけだ!!」


ファルロイド公はテーブルを殴りつけながら叫んだ。


周りの従者たちも複雑な表情で聞いている。


「私は最初から反対だったのだ! ヴァロワ家の娘を第二王子の妃にするなど。しかし、ウィリアムは政治には向かない甘い男だからな、王座に君臨することはないとおもっていた。それにあのテオがあのままウィリアムを王宮に置いておくとも思わない。だから私は渋々承諾したのだ。未だに不満がないわけではない」


彼はそう言って椅子から立ち上がった。


「最近ではウィリアムが平民の女に執着し、王子ならぬ行動が目立っていると聞く。王族としてこれほど恥ずかしいこともあるまい。それでも、エリザと婚約破棄したことに関しては褒めてやりたいぐらいだ。その平民の女の事は後で処理をすればよい。ヴァロワ家の者などそのまま捨て置けばよかったものを、今度はテオがその手綱をとるとは誤算だった」


ファルロイド卿は悔しそうに奥歯を強く噛みしめた。


「テオがヴァロワ家を味方につけた以上、我々も考えなければならぬ。不本意ではあるが、テオが使えないのなら、ウィリアムをひとまず王座に就けるしかあるまい」


この言葉に誰も声など出せるわけがなかった。


しかし、たった一人だけは愉快そうに笑い、怒り狂う彼に近づいて言った。


「ファルロイド公のお気持ち、お察ししますわぁ。本当に今の王族はなっておりませんわね。やはり、レオポルド様ではなく、王座にはあなたが就くべきだったのでしょう。しかし、過ぎたことをいくら話していても仕方がありません。まずは、テオ様からヴァロワ家を引き放すことから始めましょう。やはり、ヴァロワ家は侮れませんからね」


彼女は口元で扇子をひらひらと仰ぎながら答えた。


ファルロイド公は嬉しそうに彼女を見つめる。


「おお、マルグリット。頼れるのはそなただけだ。我が麗しのマルグリット。今度はどんな案を私に授けてくれるのか?」


彼のその言葉に彼女も微笑、恋人のように彼女は彼に寄り添った。


そして、ゆっくりと彼の頬を撫でる。


「そんな大それたものではありませんわ。単純にエリザの側室の話をなかったことにすればいいのでしょう?」


「なかったことに?」


彼は彼女の言葉を繰り返した。


「ええ。ヴァロワ家にとって一番大事なことは歴史に自分たちの一族の存在を刻み込むことです。あれだけの力があるというのに、何百年も日の目を見ることはなかった。このオルガルド王国然り、以前の国でもヴァロワ家によって多くの財を得て来たというのに、彼らは戦場に送り込まれるばかりで、栄光はいつだって王族の元。それが悔しかったのでしょう? だから、彼らは機会をうかがっていた。いつか一族が大国を統治することを」


「そんなことはわかっている。あいつらは寄生虫だ。我が国の為にも、ヴァロワ家は排除すべき存在」


「しかし、ファルロイド公。今、完全にヴァロワ家を敵に回しても、このオルガルド王国は安泰なのでしょうか? 未だに彼らの軍事力を恐れて、彼らに肩を持つ貴族も多くいますのよ?」


彼もそのことは理解している。


だからこそ、意表を突いてヴァロワ家の信頼を王国からも他の貴族からも失わせたいのだ。


「なら、簡単ではありませんか? 一族にとって何が一番大事なのか。それは血統ではありませんこと?」


それを聞いた瞬間、彼の口先も上がり、彼女を強く抱きしめた。


「本当にお前は悪い女だな。たまらんよ」


「お褒めに預かり光栄ですわ。あなた様の為ならわたくし、なんでも致しますもの」


彼女は嬉しそうに小さく笑い声をあげた。






それは私もテオも全く予想もしていない出来事だった。


何の連絡もなく突然、父は屋敷に現れたのだ。


私も慌てて父の元に向かう。


父は椅子に座りながら俯き、指を組んでいた。


こんなに取り乱している父を初めて見る。


顔も真っ青で、身体も震えていた。


私はそんな父に近づき、膝をついた。


「父上。何があったのですか?」


私は真剣な顔で彼に尋ねた。


彼は乱れ一つなかった髪をくしゃくしゃにし、声を上げた。


「どうすればいいのだ。くそ、なぜ、こんなことになった!!」


完全に取り乱している。


私はそれを宥めるように叫んだ。


「父上、落ち着いてください。まずは何があったのかお教え願いますか?」


すると、父はぎょろりとした大きな瞳で私を見た。


その瞳の奥には明らかに混乱と恐怖が渦巻いていた。


「セオドアが……」


「兄上がどうかされたのですか?」


私は聞き返す。


すると、ゆっくりと父は答える。


「……殺された……」


私はその言葉が信じられなくて、父にかける言葉も忘れ、その場で呆然と座り込んでいた。

ここでやっと第4章が終了となります。残り、5章。これでラストです。長々と付き合っていただきありがとうございます。もうしばらくだけ、ご辛抱ください。ラストスパート!

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