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116話 好み

「何言ってんだよ。メインヒロインは絶対明智とむらだろう」


「いやいや、たしかにとむらは主役級だけど、やっぱり一番の見どころは知音マリさんだと私は思うね」


私がこの王宮の別邸に暮らし始めて1週間。


外出できないのは退屈だったけど、なぜかテオは毎日のように私のところに来ていた。


「嫌いじゃないけど、マリはサブだろう。途中で死ぬし。お前の女の好みの基準って何なんだよ?」


「そりゃ、豊満な胸でしょ!」


私が自信満々に答えると、テオは呆れた表情を見せた。


「なんで女が巨乳キャラに憧れてんだよ。お前の前世は貧乳だったのか? ない物ねだりか?」


「確かに豊満な胸はなかったが、コンプレックスってほどでもなかったかなぁ。女の子でも豊満なお姉さんは好きなんだよ」


私は両手を合わせて、手の甲を頬に当てる。


「なら高梨留美子先生の作品で一番好きな漫画を言ってみろ!」


今度はテオが私に指をさして、大声で聞いてきた。


「決まってる! ライムちゃんのいるうる星やつうらだよ」


「はぁ? 高梨先生と言えば、メゾン一角の一択だろうが! お前は響香さんの大人の魅力がわからないのか!」


「いやいや、大人の魅力と言えばルパン二世の不三子ちゃんでしょう?」


「あれは大人の魅力というより色気だ! ってかお前、本当に女かよ」


呆れた顔のテオを見ながら、それは女子に対する偏見だと思った。


女だって色気むんむんのお姉さんが好きなのだ。


「じゃぁ、ジャンポの好きなスポコン漫画は何?」


「そりゃぁ、スライムダンクだろう! あれはみんなの憧れだよなぁ。読んだことのない日本男児なんていないだろう」


それを聞いて、私はテオを少し見下したような目で見つめ、答えた。


「なぁに言っちゃってんの? テオは本当にミーハーだなぁ。ジャンポのスポコンと言えば、テニスの王様でしょ? あれは連載終了後も人気のとどまらない名作だよぉ。劇だってやってるんだから」


「お前こそ、典型的腐女子嗜好じゃねぇか。イケメン同士掛け合わせて楽しんでるんだろう?」


「女子のオタク=腐女子って決めつけるのは辞めてよね。別にBLも嫌いじゃないけど、腐女子と呼ばれるほどははまってないし、好きな作品すべて掛け合わせとか考えてないから。絶対それ、偏見だから!」


私が強気でそう言うと、テオは不満そうな顔で言い返して来る。


「偏見持ちなのはお前の方だろう? 俺は純粋に漫画やアニメを愛しているんだ。お前らみたいに歪んだ感情で見てねぇよ」


「歪んだ感情!? 私だって純粋な気持ちで楽しんでいるよ。自分ばっかりが特別とか思わないでよね。自意識過剰でしょ!」


その言葉にカチンときたのか、テオは思い切り私を睨みつけて来る。


私も負けずと睨み返した。


私たちは今後の相談以外にも、こうして前世で好んでいた漫画やアニメのくだらない話をよくしていた。


こっちに来て全然話題に出来なかった内容だったので、単純に楽しかったのだ。


ただ、同じアニメオタクだというのに好みという好みが全く違う。


気が合うとはいいがたい相手である。


「で、何か妙案は浮かんだのか?」


テオは改めて、本来の話に戻した。


そう、私たちは私の側室が確定する前に打開策を考えなくてはいけないのだ。


このままでは私は一生、こんな場所で監禁生活になる。


それだけは勘弁してほしかった。


「いろいろ考えたけど、父が納得する答えってのがなかなか思いつかないんだよね。最低限の条件は王族とヴァロワ家の良好な関係なんだよ。でも、一度娘を王宮に嫁がせる話をしてしまった以上、それ相応の条件を出さないと納得はいかないと思う」


それはそうだとテオも黙って頷く。


「例えば、幸運にも私の兄にはまだ正式な婚約者がいない。それなりの権力者の結婚相手を見繕えば、少しは納得するのかなぁ?」


「それなりってなんだよ。ウィリアム以上の婚約相手なんて俺ぐらいなものだろう。うちには姫はいないし、元王族で言えばファルロイド公の娘ぐらいだぞ?」


その名前を聞いて、私は慌てて否定する。


「それはいくら何でも無理だよ! ファルロイド公とヴァロワ家は最高に中悪いもん。しかも、私がルークと親戚になるなんて御免だね」


「まぁ、現実味はないな。なら、一層サディアスとうちの一族を結婚させるかだが、残っている女子と言えば、叔母のカリンぐらいだ。あいつは出戻りだしなぁ。いい物件とは言えない」


やっぱり婚姻関係でどうにかしようとするには無理がある。


なら、ヴァロワ家が優位に立つ報酬を与えるか。


「ヴァロワ家に新たな土地を与えるとか?」


「とは言ってもな、王族の持つ領地など少ない。多少どこかから改易させることは出来ても、それでヴァロワ卿が納得いくかどうか。そのままどこかの土地をサディアスに分け与え、領主にするのもいいが、所詮は伯爵止まりだろうな」


なんだかそんな条件では父が納得するようには思えなかった。


それにこれ以上ヴァロワ家が優位な立場に立ちすぎると、反発する勢力も増えるのは必然だろう。


私とウィリアムの婚約の時でさえ、相当揉めたと聞いている。


「私の側室の話は変えられないとしても、世継ぎを生むっていうのはどうしても避けたい。そもそも、テオが今の奥さんとよろしくやっていないのがいけないんでしょ?」


私はじっとテオを見る。


その話題になるとテオは顔をそむけた。


「なんでテオは奥さんを避けているの? 隣国の王女って言うのが気に入らないって言うのは聞いたけど、だからって蔑ろにするのはかわいそうじゃない?」


「別に蔑ろにはしていない。ただ、相手をしていないだけだ。俺はああいう女は苦手なんだよ。女女してるって言うか、感情的というか、世間知らずというか……」


私は気まずそうな顔をしたテオを見ながら考える。


こいつ、ただのヘタレなだけじゃないのか?


「それって単に女慣れしてないだけじゃん。前世でどれだけモテなかったのかは知らないけど、王子になったんだから腹をくくって、やることやりなよ。君らに世継ぎが出来れば、私は用なしとして追い出してもらえるかもしれないんだしさ」


「はぁ!?」


テオは顔を真っ赤にして私を睨みつけた。


絶対こいつ、無垢なまま他界したんだろうなと予測がついた。


私も人の事は言えないが、転生者とは何とも情けない。


前世で私がリアル男子に期待を持てなかったことを思い出された。


「嫌だよ。訳の分からない女の相手なんか。俺にはもう心に決めた女がいるんだよ」


「それって絶対二次元の女だよね? いい加減卒業しろよ。いつまで純潔守ってんだよ。乙女か?」


「2次元じゃない! 3Dだ!!」


「それ、立派な二次元だから。ってか、バーチャル嫁を本命にすな!」


心の中でこいつはやっぱりダメだと思った。


外身がどんなにイケメンになっても、中身はヘタレなまま。


私たちは前世の記憶を持ってしまった以上、やはりそこから切り離して考えることはできないのだ。


「ねぇ、テオ。あんたは前世の時のことは話したくないって言ってたけど、やっぱり私は多少知っておいた方がいいと思うんだ。闇魔法ってさ、心の闇と連動するんでしょ? テオは昔のことは関係ないって言うけど、私たちの根本はやっぱり前世にあるんだよ。完全な別物にはなれない。前世の問題が解決できていない以上、こっちで何もかも忘れて生き直すなんて出来ないよ」


私のその言葉にリオは数秒間黙った。


テオの触れられたくない部分なのだろう。


しかし、暗い表情のまま、低い声で静かに答えた。


「わかっている。いつかは……、話せると思う……」


私はただ、その時が来るのを待つしかないのだろうか?

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